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魔法帝王の異世界記  作者: 柳染春馬
第1章 魔王召喚
5/7

 その受付嬢はランゲルの冒険者ギルドに務める者で、名をエイミーと言った。

 エイミーはダンジョンを求めてやってくる冒険者の相手を日常的にしており、その中には一風変わった者も少なからず存在するが、ベテランたるエイミーはそれらにも動揺せず、仕事として丁寧にさばいていたのだ。

 しかし、今日来た者達はそんなエイミーをしても動揺を隠しきれないものだった。


「は、はい。ダンジョンへの挑戦ですね」

「はい」


 その者たちは四人全員体格からして子供だが明らかに大人びているし、なにより、「変」だった。

(なんなのよ、これ……)


 一番右にいる白い服の子は肩に……兎か猫あたりかしら? キュウキュウ鳴いているかわいい小動物を肩に乗せながら撫でてるわね。何故か指揮棒持ってるけど。

 その左は、随分丁寧な物腰の子ね。貴族とかなのかもしれないわね。みんな綺麗な服着てるし。何故か、あの、あれ、ほら……そう! 最近軍に配備された小銃とかいうやつ、あれもってるわね。随分綺麗だけど。

 そのさらに左の子は何故か時計の針持ってるわね。あれもしかしてクレイモアとかなのかしら? てことは右の子の指揮棒も、武器……?

 一番左の女の子は、血生臭いわね……盗賊か何かでも倒したのかしら? 何故か大鎌持ってるわね。誰も普通な武器持ってないわ。


「はい、本ギルドの向かって右側にある建物が入り口となっていますよ」

「ああ、そうなんですね」


 あれ、武器消えた。はっ、なんで⁈ えっ、どうして? え、まさか拡張収納なの? 全員? いや、ない。そんなはずはない。収納っていたらベテランの魔導師がようやく使える魔法なのよ。それはありえない。ああ、きっとアイテムボックスね。


「推奨ランクがDなのであまり無理をしないようにしてくださいね」

「よし、一日で制覇するぞ」

「うん」


 おい、話聞いてんのか。あなたたちEランクでしょ。それに一日って今11時なんですけど。野宿でもする気? どうやってそんな速度で15階層も降りる予定なのか聞きたいところね。新人によくある自信過剰かしらね。


「では、お気を付けて」


 うん。まだ仕事があるからね。今のは忘れよう。




「いやあ、こんな街中にダンジョンがあるものなんですね」

「あ、ほら、ダンジョンの説明書きがあるよ」


 その説明書きに書かれている内容はこのようなものだった。



・ダンジョンは一定階層に送還魔法陣があり、使うとこの左にある魔法陣から出てきます。このダンジョンの場合は5階、10階、15階です。

・攻略階層はギルドカードにダンジョンごとで記録されます。

・ダンジョン内では転移の魔法具で脱出が出来ます。お求めはギルドにて。

・素材の買い取りはギルド連盟が承ります。

・ダンジョン内には冒険者狩りと呼ばれる冒険者の名義を持った悪質な盗賊がいますので注意してください。



「へえ、便利なんですね」

「どういう仕組みなんだろうねえ」

「都合良いんだな」

「どうしよう、僕、確実に冒険者狩りと鉢合わせる気がするんだけど」

「キュウ」

「殺せば」


 そう言った葵と拓哉は次の瞬間深い溜息を吐く。


「召喚されてから2日で一体何人殺すことになるのかなあ……」

「前の世界でも同じようなものだったでしょ。はい、脱出宝珠。一個50万ゴールドだってよ」

「複製できそうですね、これ」

「ちゃんと買ってやれよ……」

「とにかく早く入ろうよ」

「そうだな」


 そうして、四人はダンジョン内に入っていった。




「おお、『ダンジョン』だな」


 光明が言ったのは内部の構造についてである。ダンジョン内部は整然とされた広い通路となっていて人工物のような雰囲気を出していた。


「どうやらダンジョンごとに特性も違うようですよ」


 そう言った祐介が見ているのはパンフレットのようなものだ。

 そうして迷路のようなダンジョンを進んでいくと大きな空間がある部屋がみえた。

 そこにいるのは腰布を巻き棍棒を持った、低身長な緑の人型モンスターだった。


「ゴブリンねえ」


 三匹のゴブリン(E)を見つめて祐介が小銃を取り出す。


「さっさと片付けましょうか」


 それは祐介に『零式物理魔法汎用小銃 月詠つくよみ』と名付けられた、紫の銃に白と黒と紫の装飾が付けられた小銃である。


「どうも冒険者狩りが目につきますね」

「いや、見てないだろ」

「ゴブッ⁈」


 そんな会話をしつつ放たれた銃弾は三匹のゴブリンの頭をそれぞれ貫通して壁で止まった。


「ふっ」

「そういえば破壊不能とか書いてありましたね」


 そう言いつつ月詠を背後に振ると剣を振り上げていた女の体が銃口と重なり、女の体が斬れる。


「きゃあっ!」


 幸いか、少ししか切れなかった女は後ろに飛びのくと、ローブを着た男からの治療魔法で回復してもらう。すると、女の流血が止まって怪我も回復された。


「銃剣要らずで白兵戦等もできる! すごいでしょう、この(月詠)は!」

「うん、僕はまず冒険者狩りをどうにかした方が良いと思うよ」


 そう言っていると冒険者狩りの冒険者が壁の向こうから出てくる。


「なかなかやるようね」


 そう言ったのは先ほど斬られた女を先頭とした六人だ。


「そちらこそ、こんな事をしなくても暮らしていける程には強いんじゃなないですかね」


 女の顔が歪む。


「こちらにも事情があってね、Cランクパーティとしての収入だけじゃ間に合わないの」


 そう言う女の眼は真っ直ぐだ。


「まあ、こんな形で会ってしまった事を呪いましょうか」

「私たちは伊達にCランクじゃないわよ?」

「まあ、戦えば分かるでしょう。この人たちは私が相手しますが良いですか?」


 祐介が問うが他の三人に緊張感は祐介にもあまり無いが他の三人はもっと無い。


「Cランク冒険者が冒険者狩りだって。ミイラ取りがミイラってやつ?」

「葵、それ違うよ」

「おーう、いいぞー」

「と、いう訳で戦いますか」


 そう言った祐介は笑みをより強烈なものにさせる。


「君が、一人で? 舐めない方が良いんじゃないか?」

「いえ、愛し子を実戦で活かしてやれるというのは気持ちが良いですし、なにより、私自身が楽しいですからね」


 そう言った祐介は月詠を持ち、右手をトリガー、左手を本体部分に掛け、強烈な笑みを浮かべながらCランクパーティと対峙する。


「ああ、そういう狂ったやつは大抵優秀なのよね。でも、私達も負ける訳にはいかないの」

「望むところですよ!」


 六人が祐介の前にはだかり、それぞれの得物を構える。杖を構えた魔導師の男は後衛だ。


「あいつ割と地球にいた頃からああいうノリだったよな」

「あれほどではなかったにせよ個性的だったよね」

(カノン砲の魅力、ちょっと分かっちゃたからねえ)


 そして、偵察などが役目であるシーフの男が戦闘に参加しない三人を警戒しつつ、槍を持った男が祐介に襲い掛かったことで戦闘が再開した。


「おらあっ!」


 男が突きを放つが、ひらりと躱されるそして男が戻す槍に合わせて祐介が男に迫るがショートソードによって遮られる。


「油断してると殺されるわよ」

「……ああ、すまない、ジェシカ」


 この六人が冒険者狩りに手を染めたのは最初に祐介に襲い掛かったリーダーの父親である、ガルメニア帝国の貴族、エルロッリッヒ・フォン・バーチェル大公による傍若無人が原因だった。


「ジェシカ・フォン・バーチェル。それが私の名前」


 名乗りながら祐介に斬りかかるが銃身と打ち合い弾かれる。


「なかなかい良い剣のようですね」

「……レンがくれたものだから」

「やっぱり、訳ありですか」


 そう言って何度も、何度も斬りかかる。最早最初の目的であった冒険者狩りなど頭の隅にもない。

 そもそもこのパーティはガルメニアで結成されたもので本来はメンバーが七人いた。

 では何故今六人しかいないか?

 それこそがバーチェル大公の仕業であった。


「馬鹿親に攫われた仲間わ助ける為に犯罪に手を染めた。聞こえは良くても現実じゃあただの盗賊と何の変わりもないものね」

「私は良い話だと思いますけどね。私の世界では戦争なんかはそんな大層な理由も無しに起こるものだってありましたから」


 喋っていても六人と祐介の戦いは止まるばかりか一層激しくなっていく。


「2億ゴールド。期日、一か月後」

「それはまた吹っ掛けてきましたね」


 さもなくばこいつは殺す。それがバーチェル大公の要求だった。


「それに、あいつのことだからレンが生きてる保証もないかもね」


 そう言いつつ剣の先で突きを放つ。


「親子の情というのが無いタイプですか」


 銃身で受けてから剣の身を上に少し滑らせて銃口をジェシカに向け、トリガーを引くが、発射された銃弾は剣に弾かれる。


「子供なんて山ほどいるから養育費の分将来の見返りに投資した、とかそんなくらいにしか思ってないんでしょうね」

「私が今まで出会った人間の中でも三番目の屑と同レベルですね」


 槍を持った男とジェシカがほぼ同時にそれぞれ胸のあたりと腰のあたりを薙ぎ払うが上に魔導障壁を展開して槍を防ぎ、下は銃口付近を斬撃に特化した祐介が銃剣部と呼ぶ部分で弾かれる。そして背後から迫る魔導師のファイヤーランスと射手の弓を魔法で強化した蹴りで掻き消し、弾く。


「そろそろ終わりにしましょうか」


 そう言うと後ろに出来ていた空間に飛びのき、月詠に魔力を流すと銃剣部から銃口の延長線上に銃を包むようにして三重の積層魔法陣が展開される。


「ああ、やっぱり、本気出してなかったのね」

「話は中々面白かったですよ。バーチェル大公、でしたっけ。屑ですね。まあ、あなたが敵なのに変わりはありませんが」


 おどけながらも魔法陣は拡大と凝縮を続けて精密さを増していく。


「君は、普通じゃないよね」

「二回も召喚されましたからね」


 魔法の発現が迫る中ジェシカは立ち尽くして、ついには涙を流し始めた。


「ジェシカ!」


 男の声もジェシカには届かない。


「君は、常識がないね」

「異世界から召喚されましたからね」

「君みたいな、力があれば!」


 ジェシカの慟哭がダンジョンの壁に響く。


「まあ、同情はしますが、敵対者ですからね」


 月詠の銃口が六人の方へ向く。誰も、動かない。


「なんで、バーチェル大公家になんか、生まれちゃったんだろう」

「久しぶりに人間味のある話を聞かせてもらいました。ですが、戦いに善も悪もありませんからね」


 そう言って会話は終わり後はお互い、独り言。


「光も闇も死に変わりは無し」

「レン……会いたかったなあ……」

「ならば私は両方を与えよう。光に貫かれ、闇に穿たれよ。<混沌と畢命ひつみょう>」


 鍵を唱えられた魔法は魔法で生み出された握り拳大の太さのレーザーとして六人の体へと向かい、寸分の狂いも無く心臓を貫き、全てが祐介の元に戻って分解され、姿を消した。


「光明君、浄化してくれませんかね」

「随分優しいんだな」

「人を殺しておいて優しいも何もないでしょう」

「まあ、良いけどな。魂も、身体も、現世うつしよに在らず<御使いの抱擁>」


 光明の魔法が発動されると屍を光が淡く覆い、暫く経つと、消えて無くなってしまった。

 それを最後まで見届けた祐介は深呼吸をして、言う。


「さて、ダンジョンの攻略といきましょうか!」

「かなり時間掛かったもんな」

「僕が先頭で行くね」

「世界が変わってもこういうことはあるんだよねえ」


 そして、何も無かったかのように談笑を始めるあたりが次元を渡り、様々な経験をしてきたこの四人の異常性なのかもしれない。




「いやあどうしよう、僕たちまだ一階だよ」

「……飛ばすか」

「キュウ」

「えっ」

「<地形把握>」


 光明が使った魔法の仕組みはこうである。

 1、ダンジョン内の地形を解析

 2、流れてくる情報をミーシャの思考回路の魔術部分で整理

 3、同じく魔術部分でコースの最適化演算

 4、常に地形を把握できてナビ機能も付く


「……という魔法だ」

「……前から思ってたけどミーシャちゃんと光明ってなんでそんなに息ぴったりなの?」

「あっ、それ気になります」

「僕もー」


 光明は答える。


「神が結び糸とやらを繋げたらしいぞ」

「キュウ!」

「ああ、あの神かあ」

「あの魔法適正くれた神ねえ」

「あのやたら軽い感じの女神ですか」


 皆が一様に言う神とは勿論セフィラーゼ神のことではなく、世界の管理をしている者のことである。


「まて、魔法適正をくれた、だと?」


 光明が引っ掛かったのは『魔法適正』の部分である。


「えっ光明も貰ってるじゃん光魔法適正と魔導、魔術適正」

「いや、ミーシャは叡智だかなんだかを貰ったが俺は不老と生理不要しかあげてないって神も言ってたぞ」

「えっ」


 ちなみに生理不要とは睡眠や食事等の生理的な必要性がなくなるというものである。


「じゃあ、光明って……」

「素のスペック?」

「え、別に特筆してないだけじゃなかったの?」


 静まり返る。


「そういえば、あの時、神がなんか言ってたよね」

「えっ、なんだっけ」


「いやあ、さっき化け物レベルの子がいたんだよ」

「君たちの世界では先天的には魂の質、後天的には命名とか環境とかで魔力の質とか量とかその他諸々が決まるんだけどさあ」

「その子もう、全てがやばいんだよね。魂も、名前も」

「地球で少し魔力漏らしたからってホワイトドラゴンの前世種の猫なんて生まれないよ、普通」

「名前と、あるんなら苗字の意味とかで名前の補正掛かるんだけどね、あ、あと苗字の希少性。いやあ私より神々しいかったわあ」

「魔法分野に補正掛けないで転移させちゃった。てへっ」


「だってよ」

「ああ、光明って実家が確か……」

「結構関係者には有名な神社だな」

「そこの神主を代々受け継いでる、だったっけ?」

「親父が『俺らの苗字は絶滅危惧種なんだから国から保護されてえよなあ』て言ってたな」


 ミーシャが何話してるのー、と顔を向けた。


「と言うか」

「ミーシャさんって元から猫でしたがドラゴンの素質があったんですね」

「キュウ!」


 訳を付けるとしたら「すごいでしょー」か。そう結び糸から流れてくる感情の起伏で正確に判断した光明は話を戻す。


「とにかく、これでダンジョンの攻略が捗るわけだ」

「術式コピーさせてー」

「あっ、私も」

「僕も!」

「はいはい、勝手にどうぞ」


 その後、四人は文字通り、猛スピードでダンジョンを駆け下りていった。



「コボルトだ」

「<爆炎術弾>」

「オークだよっ!」

「<スターショット>」

「前方左手にスライム15!」

「<ライトボール>連弾」

「ひいっ、何かわからない蜘蛛の大群だあ!」

「<シャドーカーテン>!」



 そして、深夜1時、四人の姿は十五階層にあった。


「割と一階層がそれぞれ長かったねえ」

「もう、1時15分24秒ですよ」

「魔法って便利だよな」

「ボス部屋の扉って大きいんだなあ」

 四人の前には巨大な扉があった。

「入るか」


 光明が扉を押して開けると全員が中に入る。

 中にはモンスターがいた。


「アイアンゴーレムかあ」


 それは鋼鉄でできた3メートル程の巨体を持つアイアンゴーレム(C+)だった。

 防御が固いことに定評があり、なかなか長期戦になりやすいモンスターだ。

 しかし、さっさダンジョンを攻略したい光明にそんな都合は関係ない。


「滅びよ。<破滅の光>」

「いきなり撃っちゃう?」


 光明が『タクト・オブ・ユグドラシル』の先端をアイアンゴーレムに向けて呪文を唱えると、光がそこに収束して極小の点となり、一気にアイアンゴーレムへと発射される。

 アイアンゴーレムはたまらず崩壊した。


「あっ、送還魔法陣だ」

「キュウ!」

「帰るか」

「そうですね」

「只今の記録、13秒72です!」


 葵の結果発表を聞き流しながら、光明達は魔法陣の上に乗り、謎の空間を渡って外へと送還されていった。

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