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王都の南門を出て街道を行く四人が目指すのはランゲル伯爵領の街、ランゲルだ。
街道を歩く四人が今考えているのは移動方法だ。
「もっと、こう、速く移動したいんだよな」
「なおかつ安全に、ですね」
「飛ぶとかどうかな?」
「10cm位浮けばいいんじゃない?」
四人とも速く移動する方法だけなら持っているのだが、いかんせん目立つ、危険、消耗が激しいなど普段使いには適さなかった。
「折角の旅ですから徒歩で良いんじゃないですか?」
「それもそうかもね」
そして結局徒歩で進むという結論になった。
「そういえばこの世界も日本語な上に単位もグラムとかなんだよな。なんでだ?」
「僕たちの世界でもこんな感じでしたけど、理由は代々の勇者が文明の発展に貢献したから、とかだったよ」
「ほー」
四人が喋りながら街道を進んでいると突然全員が身構えた。
「キュウ」
ミーシャが光明の肩から飛び降りて右側に見える林を見つめる。
「盗賊はどうすればいいんだっけ、拓哉?」
「殺処分オーケーだったよ。この世界では警備兵に連れて行っても、あんまりお金にならないみたい」
「二個ちゅ……じゃなくて、100人規模とは大きいですね」
「魔法でも撃つか?」
前方右手の林の中に潜んでいる盗賊は光明達を今か今かと待ち構えている。
この盗賊団、実はこの世界はかなり広く、それに比例して人口も多い為、そんなに大規模なものではないのだが光明達は知らない。
そしてカモにしか見えないこの四人が襲われないはずがない。
盗賊が蟻か何かのようにぞろぞろと出てくる。
「野郎共、どっかのガキが高そうな服着てあちらからやってきたぞ! 丁重に盗賊として迎えて差し上げろ!」
「賊にしては随分と口の回る奴だな」
脅迫も何もせずに武器を構えた盗賊たちが浮かべる表情は下卑たそれ。その視線の大半は葵に向かっていた。
「……ちょっと失礼だよねえ。私が片付けていい?」
「どうぞ」
「葵も変わらないですねえ」
「お構いなく」
多少おどけた様子で話した後に葵の顔に浮かぶのは、少女の顔に見合わぬ邪悪な笑み。
「これで使うのが闇魔法なんだから本当に葵は魔王にしか見えないなあ」
「俺は光魔法で良かったのかもしれないな」
「武器が鎌ですからね。一応鎌を持つ天使もいると聞きますが、それも死を司っているとかですし」
男連中の批評が終わると葵が件の大鎌を次元収納から取り出す。
大鎌 空夜。
群青を基調とした葵の体長よりも長い鎌だ。
その鎌が突然現れたのを見て盗賊が一旦たじろぐがすぐに獲物へと襲い掛かる。
「へっへっへ、可愛がって……ほべえっ」
空夜の柄と刃が交差した部分、峰として扱われるそこで強く殴られた盗賊は身体中の骨を折られ、10メートル程他の盗賊を巻き添えにしながら後ろに飛んで行った。即死である。
だが仲間の死を見ても盗賊たちはなお、葵に襲い掛かる。
「大きく振りかぶって隙だらけだ……えっ?」
確かに葵は大きく振りかぶっていたが、そもそも葵はかなり大きく動く戦い方を日常的ににする。そんな葵が盗賊如きに隙を見せるはずがなかった。
峰で殴打した勢いをそのままに柄の半ば程を支点にして空夜を大きく回し、ありえないような動きで柄の地面につく方の先端である、石突で盗賊を薙ぎ払う。
「っ、なっ」
斬撃術式が展開された石突部分で横に薙がれた盗賊は、胸のあたりを綺麗に上下で分断されていた。
「付与系の常時展開魔法か」
「この世界だと常駐魔法って言うらしいね」
魔法で身体能力を無意識のうちにも底上げして軽々と大鎌を操る黒い服を着た葵はこれから後のことを考えても、正に死神といった存在であった。
「ひいっ!」
分断された盗賊の近くにいた者が悲鳴を上げると辺りは静まり返る。
空夜を肩に掛けて葵が言う。
「君達は、どんな死に方が似合うんだろうねえ」
「掛かれ!」
盗賊が襲い掛かる。大勢なら勝てるだろうと、恐怖も拭えるだろうと、そうふんでの行いだった。しかし、恐れを為したのか皆一定距離を保っている。
「馬鹿じゃねえのあいつら、ロングワイドなレンジの武器に大勢で中距離保ってるとか」
「ぎゃあ~っ!」
「あっ、刃で薙がれたね」
「キュウ……」
「流石に刃の方は凄い切れ味ですね、魔法無しで真っ二つですよ」
「最高の鍛冶師さんに造ってもらってたからね」
拓哉の目の前ではそんな空夜をもった葵が血の惨劇を醸し出している。
「多いねえ」
60人程度まで減らしそろそろ終わらせようと思ったのか、葵が阿鼻叫喚の中で空夜に魔力を流し呪文を唱えだす。
「怨念、呪怨全てを焼き、地獄の扉は今、開かれる」
そう唱えると10メートルほど跳躍し、右手に空夜を持って地上の盗賊たちに向ける。
「そっか、闇魔法って死霊術系も含まれるんだったけ。えぐいな」
「葵は容赦ないからなあ。これは優しい方だよ」
「現世に燃え、更なる呪怨を創り出せ。<燐火の門>」
空夜を振ると2メートル位の高さを持つ地獄の門と言うべき邪悪な意匠の扉が現れ、それが外向きに開くと38の赤い鬼火が姿を見せて盗賊へと迫る。
「ひっ、ひいっ!」
鬼火は盗賊のみを焼き尽くし他には一切燃え移らない。
一人を燃やし尽くしたらたら次はまた一人と逃げる者も呆然と佇む者も一様に燃やし尽くす。
「ふう、すっきりした」
後に残ったのは盗賊だった物の灰と、38人分の死体だけだった。