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魔法帝王の異世界記  作者: 柳染春馬
第1章 魔王召喚
3/7

 アレクの部屋から出た四人は今1階のロビーでこれからの予定を話し合っていた。


「素材はみんな同じような物でこの世界でも使えるみたいですね」

「じゃあ俺が要らない素材売っぱらうわ」

「おー、流石光明」


 そんな流れでギルドの買取コーナーに四人は向かった。


「すいません、買い取ってほしいものがあるのですが」

「はい、出してください」


 そうにこやかに受付は対応するがその本心では四人に全く期待していなかった。

 子供(この世界基準)が集まって小遣い稼ぎというのは珍しくない。そして、そんな連中が持ってくる物もまた珍しくも何ともない物であった。

 しかし、光明がそんな金にならない物を売る訳がない。


「光元素親和鉄鋼とかどうだ」

「……え?」


 光明が収納からそれを大量に出す。


「なっ、拡張収納⁈」


 空間を拡張して物を閉まっておくスペースを広げる魔法である拡張次元を使える者は稀である。光明が使ったのは拡張収納ではなく異世界や異次元を繋いで物を閉まっておく魔法である次元収納なのだが。


「本当に光鉄鋼ですね……」 


 元素親和鉄鋼、通称光鉄鋼とは光元素が馴染んだ鉄鋼のことで、これを使って剣等を作ると各種魔法を強化する効果の付いた物になるという素材である。

 当然そんな高性能な物がそこらに転がっている訳もない。元素が満ち溢れた環境で自然か能動かは問わず大量に元素を流さなければ生成されない貴重な物である。ダンジョンなら話は別だが。


「……盗品ではないですよね」

「そんな物盗む必要もないだろ、作れるし」


 光明が作れるといったのはそもそも魔力を光元素に絞って垂れ流すだけでも周辺が光元素化という魔法反応を起こすからなので、本当にミーシャと戯れながらでも作れるのだが買取担当の受付は知る由もない。


「はい、147・5キログラムですね。現在1キロあたり1万5400ゴールドなので、227万1500ゴールドです」


 ゴールドは食材などと比べると殆ど円と変わらないのでかなりの収入である。四人の所持品を全て売れば、国を買える程の金額になるのではした金なのだが。


「よし、確かに受け取った」


 ちなみに貨幣はギルド連盟が管理し、価値を保証しているのでギルド加盟国共通のものである。


「じゃあな」


 そう言って未だ唖然している受付を去っていった。


「光明一切、丁寧語使わなくなったよね。日本の社会人だったのに」

「下手に出ても何の得にもならないことを悲劇によって証明されたからな。あの馬鹿貴族が」

「キュウ……」


 神妙な面持ちの光明にこれ以上拓哉が聞くことはなかった。




「よし、次は宿だね!」


 葵がそう言った瞬間ガラの悪い大男が四人近づいてきた。


「おう、お前さん金持ってんだろ? 出せ」

「私はあそことか良いと思うよー」


 あえて無視する四人に関わりたくないと人だかりが綺麗に割れることによって四人も無視が出来なくなった。


「はあ、なんで僕たちってこんなに絡まれるんだろうね、葵?」

「見た目?」

「キュウ」

「おら、さっさと出せや! 俺らはCランク冒険者だぞ! お前らとは格が違うんだよ!」

「痛い目見ないと分からないのかなあ、僕ぅ。お兄さんが痛めつけちゃうよぉ」


 Cランク。一般に優秀(少なくとも戦闘は)な冒険者と受けられるランクであり、確かにこんな子供とは格が違うように見える。

 だが実際は、そもそもミーシャがギルドの基準で考えればA+オーバーとされるドラゴンであり、他の面々も前の世界では散々暴れた猛者である。


 拓哉。宵闇の勇者として知らぬ者はいない、人型戦闘兵器と呼ばれ恐れられた。

 葵。同じく宵闇の勇者として知られ、数々の残虐な行いは政府の上層部を恐怖で縛り上げた。

 祐介。兵器開発界の天才、兵器戦闘の父として弱小国を覇権国家にまで導いた筋金入りの英雄である。

 光明。異名である白鷺と言えば、敵対国の兵士が聞いただけで失神すると言われる、戦場の支配者だ。

 確かに、格が違った。


「おら、全財産置いてけ」

「俺の全財産とか流出したら経済が崩壊するぞ?」

「ハイパーデフレーション待った無しですね」


 いずれも事実である。


「おい、じゃあ痛い目見てもらおうか!」


 リーダー格の男が剣を抜き、光明に襲い掛かるが勿論斬られる光明ではない。


「はあ、風よ、守れ。<風圧障壁>」


 光明が唱えるとその前方のみに強力な風が吹く。それにたまらず男は吹っ飛ばされ後ろでニヤニヤしていた仲間の一人に当たる。

 ちなみに魔法は強化武器がなくても使える。

 それであって、周囲に被害が無いよう魔法をコントロールするというのは難しいのだが、魔力等のコントロールを指し示す『魔導』に関して人智を超えたような能力を持つ光明にとっては容易いことである。


「魔導師か! おいっ魔法を撃て!」

「っ! ああ、魔力よ、我が体に集まって、理に則り、火を作れ。」

「術式構築を見るとファイヤーボールらしいですが詠唱が長そうですねえ」


 この男の詠唱速度は速い部類なのだが、基準からして違うのでこのような感想になる。

 観衆がざわざわとどよめき、道の中心が丸く開けられて最初から見ている物は者は経緯を説明し、目利きがある者は拓哉らの装備品に目を見開き、酒飲みは余興とばかりに歓声を上げる。

 このような冒険者同士の争いは少なくない。迷惑が及んでいる訳でもないので民衆は楽しむし警備兵は来ない。

 死ぬことも珍しくないのだが、そこまで含めて『自己責任』である。防衛側が相手を殺戮したところで法にすら触れない。攻撃側は完全に触れるが。


「殺してもいいんだよねえ?」

「まあ、牢屋に入れた方が良いんじゃない?」


 捕まえる方向で話が纏まる。この間4秒。


「敵を燃やす火球は出で、我の意に従う。<ファイヤーボール>」


 呪文を完成させるとハンドボール程の大きさを持つ火の玉が魔導師の右手に宿り、魔導師が右手を振ると人が歩く程の速度で祐介に迫る。速度は舐めてかかっているからの遅さだろう。


「拙いですねえ。<対魔障壁>!」


 そう唱えると祐介の左手に規則正しく術式が編み込まれた魔法陣が展開される。そこにファイヤーボールが当たると魔法陣がファイヤーボールに編み込まれた魔術と魔導を解析、分解する。ファイヤーボールの炎が魔法陣に吸い込まれて一瞬で魔法の名残が消滅していた。


「こいつもか!」

「祐介って多分、無詠唱でも全然防げるよね、この程度なら」

「ばれました?」


 そんなやり取りをしている間にも歓声と追撃はやってくる。


「はあ、私かあ。<シャドーリベリオン>」


 葵あ唱えた魔法は文字通り影が反逆するというものだ。

 日に照らされてできた男たちの影が地面から浮き出て自分を生み出した遮光物チンピラの体を後ろから押さえつける。


「なっ、なんだ!」

「呻け。<アイアンメイデン>」


 そして唱えられた二つ目の鍵の効果は影が内側に棘を形作るというものだ。大事な臓器は外しているが男四人が悲鳴を上げる。


「ああ、やっぱりこの世界の人間も生命力が高いねえ。殴れ」


 そう言うと影が男たちを解放し後頭部を殴る。気絶した男を拓哉が魔導で浮かして呟く。


「僕の安泰はまだまだ遠そうだなあ」


 拓哉自身も安泰を遠ざけているのだが本人はあまり気にしていない。


「すごいわねえ。Eランクでしょ? 将来有望ねえ」

「おい、影の奴が着てた服、格好いいよな」

「おう、素材も良さそうだよな」

「あれは相当良い素材使ってるわね。少し目立ちそうだけど」

「なんだあの魔導師は! 前代未聞だぞ!」


 歓声の中、男を警備兵の駐留所にぶち込んで、


「あっ、ちょっ、君、これは……」


 四人は宿に向かった。




「1人一泊、2000ゴールドです」

「じゃあ一泊を四人で8000ゴールドだね。はい」

「お部屋は二階になります。食事は食堂で別料金です」


 そんな事務的なやり取りをして四部屋分とった拓哉達はまず拓哉の部屋に集まる。

 集まったのはこれからのことを話すためだ。


「当分の目標はどうしようか」


 この中でのリーダーは拓哉だ。と言うより、他に選択肢が無いのだが。


「俺はこうして、また集まった機会だし食道楽をお勧めしたい」

「戦闘を」


 対称的な光明と祐介の意見はしかし、この四人には受け止められた。


「とりあえずセフィラーゼは敵ってだけは共通だよね。で、だけど」


 拓哉が笑って言う。


「恐らく、これからも殺人沙汰はいくらでもあると思うんだよね」

「まあそうだろうな」


 四人とも異論は無い。


「僕としては敵対したなら容赦しないけど、皆は?」


 三人が順に答える。


「むしろ万々歳ですね。戦えるなら」

「俺はミーシャと一緒にいればあとは適当に、だな」

「この世に地獄を創れるかもね!」


 この四人だと冗談になっていない。


「じゃあ敵対者には容赦無しの方針かあ」


 もともと、この四人は全員、直接敵対したが最後9割は殺されると言う容赦の欠片も無い人間なのだ。反対意見がある訳も無い。


「その位しか話す事が無いな」

「うん、じゃあまた明日」


 そうして四人は各自の部屋に散っていきとる必要のない睡眠をとった。






 翌朝、四人の姿は廊下にあった。


「やっぱミーシャってふさふさすべすべであったかくて一緒に寝ると極楽なんだよ」

「キュルルゥン」

「僕にはよく分からないけど、光明溺愛してるなあ」

「溺愛だねえ」


 話していると食堂についたのでそれぞれ注文する。


「モーニングセットで」

「モーニングセット」

「と言うかモーニングセットしかないんだね」

「モーニングセット」


 光明の注文はミーシャの分も含めたものである。


「さて、食べ終わったし隣街に行こうか」

「ランゲルっていう伯爵領らしいね」


 宿を出た四人は門をめざして歩いて行った。

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