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魔法帝王の異世界記  作者: 柳染春馬
第1章 魔王召喚
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「さて、僕たちをおびやかす存在もいなくなったしどうしようか」

「とりあえず状況整理ですかねえ」

「そうだな」

「そうだね」


 ということで始まった状況説明という名の雑談は白熱した。



「じゃあミーシャちゃん今ドラゴンなの?」

「そうなるな」

「キュウ!」

「猫だった時のようにふさふさしていてドラゴンと言うよりは小動物といった感じですね」

「ああ、僕の家ではしゃいでいたのが懐かしいなぁ」

「大き目な魔法を使うと翼が出てきて、よりかわいいからな」

(光明も見ない間に大分ミーシャちゃんに入れ込んだみたいだね)


「へえ、世界樹を有する王国の軍隊ですか」

「そっちは勇者とかいわれてたんだな」

「拓哉と二人でだよー」

「祐介は重化学戦争だもんねえ、祐介らしいよ」

「さっきの人たちは」

「「「「また宗教かあ……」」」」


「やっぱり、付けるよね? 中二病な名前」

「ああ、やっぱりつけますか?」

「つけるな」

「私のこれは『大鎌 空夜くうや』って名前だよ」

「俺のこれは『タクト・オブ・ユグドラシル』だな」

「僕のは『長剣 ノクターナル』って名前」

「この小銃は『零式物理魔法汎用小銃 月詠つくよみ』ですね」

「「「祐介らしいなあ」」」


「みんな他人を殺すのに躊躇はないんだね」

「戦争やってたしな」

「同じく、ですね」

「あまり殺したくはないけど、敵対するなら僕も容赦はしないかなあ」




「さて、そろそろ現実を見ないと」


 拓哉の一言で全員が真面目になる。


「外、出るか」

「そうだねー」


 そう言って後は黙々と準備をして、小屋から出る。


「……路地裏、ですか」

「ヒャッハー! 少し幼いが女だぜぇ! 野郎共……」

「うるさい。土に還れ」


 そんな鍵を省略した詠唱とも言えないような詠唱で発動された魔法が土を生物のようにうねらせる。

 チンピラは土に飲まれて声も聞こえない。

 チンピラを一瞬で、文字通り土に還した葵は路地から出た。そこはかなりの賑わいを見せる街だった。


「うーん、あれ、冒険者ギルドじゃない?」


 拓哉が指さした場所にあったのは確かに冒険者ギルドだった。


「冒険者ギルド?」

「祐介の世界は『国境すなわち前線なり』とかいう世界だもんねぇ」


 拓哉が説明する。


「多分、国境を越えてモンスターなどの資源を確保するため協力しましょう的な組織だよ」

「平和でもないのによくやりますね」


 少し経って光明が言う。


「とりあえずは金を調達しないとな」

「じゃあギルドで何か売ろうか」


 かくして、二重転移者五名が冒険者ギルドエルミス王都支部に入っていった。

 



 王都の冒険者ギルドは他のギルドが酒場などと一緒になっているのに対し、言ってみるならば銀行や役所のような作りになっている。


 そんな中に入ってきた幼いといって差し支えない四人は非常に目立った。


「すいません、冒険者登録の受付はどこですか?」

「え、ああ。あっちにある1番窓口だ」

「ありがとうございます」


 そう言って去っていく四人を見て男は思う。

(随分身なりが良いガキンチョどもだったな)

 実は国宝にもなるべき脅威の性能を秘めた服なのだが男に気付く術もなかった。

 そして四人は1番窓口に座っている女性に声を掛けた。


「冒険者登録をしたいのですが」

「あ、はい。ではこちらの水晶に手を置いて下さい」


 その言葉を光明が訝しむ。


「どういう効果なんだ?」


 受付が若干自慢するように答えた。


「魔力を流すとその魔力で本人の称号や能力が解るんですよ。ギルドの自慢の一つです」

「称号?」

「能力の範疇に収まりきらない能力って感じです」

「じゃあ、私から」


 そう言って葵が水晶に手をかざした。

 その瞬間、受付の眼が見開かれる。


「はっ!」

「どうしたんだ?」


 口をパクパクさせている受付をよそに今度は拓哉が水晶に手を触れる。


「ひぃっ!」

「え」


 何がいけなかったのかと考える拓哉と次々に現れる解析結果を前に受付は力なく喋った。


「少々、お待ちください……」





「ギルドマスターを呼んで!」

「おいどうしたんだよそんなに慌てて」


 奥の職員専用スペースに受付の姿があった。


「出たのよ」

「何が?」

「魔王」

「は?」


 場が凍り付く。それほどまでに魔王が出たというのは爆弾発言だった。

 戦争の種にも成り得る存在。それが魔王だ。


「魔王が出たの」

「本当か?」

「ええ。しかも5人よ」


 冗談のような一言だが、生憎この受付は冗談を好まないタイプであった。


「本当、なんだな……」


 魔王の出現。過去には幾度も戦争の種となり、一国家のどうにかできる存在ではないそれ。一大事である。

 

 



「何がいけなかったのかなあ」

「うーん僕普通にやったと思うんだけどねえ」


 勿論この中の四人に普通な者など皆無なのだが自覚がないのは全員共通だ。

 そんなこんなで待っていると受付が戻ってきて、言った。


「5階、ギルドマスター室までお願いします」


 ああ、面倒事か。そう思う四人だった。




 階段を上り、5階まで辿り着いて少し歩くと扉が見えてきた。


「こちらに」


 受付がそのまま付き添って案内をしていたので特に迷ったりはしなかった。


「入ります」

「どうぞ」


 中から聞こえてくる声は野太い。


「例の四人です」

「ああ」


 その部屋の中にいたのは紛う事なき大男であった。四人の伸長が低いので余計に大きく見えてしまう。


「あの、何かまずかったのでしょうか?」

「今から説明する」


 そう言うとギルドマスターは真剣な顔で、こう言った。


「お前達は魔王だ」

「はあ」


 こいつは何を言っているんだ。頭のネジが一本外れているのか? そんな視線を感じたギルドマスターは言う。


「お前ら、召喚されただろう」

「ああ、そうだが」


 光明があっさりと言い放ったのを前にしてギルドマスターは窓の外を見て叫ぶ。


「セフィラーゼの馬鹿どもは今すぐに死んでしまえ!」

「ええ……」


 拓哉の声が何故かよく響いた。

 その後、五人はギルドマスターの話を聞くことになった。


「俺はエルミス王都ギルドマスターのアレク。んで、お前らを召喚した馬鹿共がセフィラーゼの連中、自称聖セフィラーゼ教会だ。他称はセフィラーゼ連合だな」

「やっぱり宗教なのかあ……」

「犯罪集団の方がよっぽど近いと俺は思うけどな」


 室内が溜息で満たされる。この中で宗教にいい思い出がある者は確かにいるのだが、それを覆して余りある程の嫌な思い出が全員にあった。


「あの馬鹿共、侵略、略奪、迫害、乱獲、その他悪行は全てやらかしてるからなあ」

「何のためにあるんだ、その宗教」

「さあな。奴らの好きな神の為ってやつじゃないか?」

「「「「はあ……」」」」


 セフィラーゼというのは非常識な連中だった。

 それはもう、心から信奉している者と、心から嫌悪している者の二極化が激しいほどのものである。


「で、どうする、冒険者として登録するんだろ?」

「ああ」

「とりあえず、冒険者としてやっててくれ。後に呼ぶかもしれんが」


 アレクが棚からカードを四枚持ってくる。


「ほい、ギルドカード。結構ハイテクだからな」


 4枚のギルドカードが投げ渡される。


「じゃあな、セフィラーゼには気を付けろよ」

「ああ」

「またね」


 そう言って退室していく五人を見届けてアレクはようやく力を抜く。


「面倒を起こさないと良いが……」


 その願望は叶わない。


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