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魔法帝王の異世界記  作者: 柳染春馬
第1章 魔王召喚
1/7

1 勇者を召喚しようとしたら鬼畜魔王が出てきました

第1章は中二魔法バンバン撃って、屍の山がバンバン作られます。

 エルミス王国王都、路地裏に人知れず佇む小屋の中、随分と広い部屋で40人程の白いローブのような服を着た男女が床に描かれた魔法陣を囲み、何か呪文を唱えていた。

 それぞれの表情は真剣そのもので、長らく詠唱を続けているからか額には汗が浮かび、唇は乾いている。

 そんな儀式を眺め、小銃を持ちながら話す者が二人いた。



「いよいよ、ですな」

「ええ、この王都も今回召喚される者達の手によって崩壊するでしょうね」

「隷属術式で神聖なる神のみに使われることができ、その者等も光栄でしょうな」


 そう嘲笑うかの如く言った男はこの場にいる42人の所属、聖セフィラーゼ教会の意思により、神敵たるエルミス王国を滅ぼすために送られた司教であった。


「異世界の不信者を神の下に隷属させ、神敵を討つ。もう間もなくその時だよ」


 顔を汚く歪ませ小銃を構えるその姿は神聖さなど微塵も感じさせないそれだが、本人達にとっては神の意にのっとた神聖な儀式の最中である。

 そして、その時は訪れた。


「……我ら祈り、捧げ、御名に依りて、異界より使徒を招かん。<使徒召喚>」


 召喚術式と隷属術式を組み合わせ、範囲を異世界の才能ある者へと絞った魔法の発動により、魔法陣の東西南北に描かれた召喚門の役割を果たす円から人が出てくる。

 そして、東の使徒は言った


「……まーた僕は異世界召喚されたの?」


 北の使徒は言った。


「拓哉はこんな時でも変わらないわよねえ」


 どうやら東と北の使徒は一緒に召喚されたようだ。

 この少年少女は状況の深刻性を分かっていないようだと司祭はにやりと笑う。

 その後、西から出てきた使徒は言った。


「この世界にも兵器があれば良いんですけどねえ」


 南の使徒は言った。


「まーた異世界かよ、地球がそろそろ懐かしくなってくるな」

「キュウ」


 何か白い物を肩に乗せた南の使徒のその言葉に他の使徒が反応する。

「「「地球?」」」


 その言葉に南の使徒は返す。


「あれ、随分と若返ってるけど、まあ、俺もだが、お前らも巻き込まれてたんだな、二重召喚」


 そう、この四人は、元々地球と呼ばれる星があった世界の日本と呼ばれる国から転移して、他の世界で過ごしていたらまた他の世界へ召喚によって転移してしまった()()()達だった。

 東から出てきた拓哉たくや

 北から出たきたあおい

 西から出てきた祐介ゆうすけ

 そして、南から出てきた光明みつあきの四人(と白い何か)が、この世界に召喚されたのである。

 そして四人が口を開く。


「久しぶりだね、光明」

「随分拓哉も雰囲気変わったな」

「葵さん、カノン砲の魅力は理解してくれましたか?」

「祐介もかわらないね、外見は幼くなったけど」


 思い思いに喋る四人だが部外者にしてみれば鬱陶しいとしか言えない。そしてここには部外者がいる。


「貴様ら、私が命令しているのだからさっさと王城を潰さんか!」


 司祭が吠えるが四人は頭がおかしいのがいるな、と思うだけだ。それも前の世界で何度も体験している。一切命令を遂行する素振りは見せない。足元に構築された魔法陣の術式は皆とっくの昔に解析を終えているが、非常識な術式にあえてだれも突っ込まない。

 そんな様子で喋り続けている四人を見た司祭はさらに怒鳴る。


「おい、隷属術式はどうした! ちゃんとやったのだろうな!」

「は、はい。全て予定通り施術したはずです」


 じゃあこれはなんだ。そう思った司祭の思考を光明が言葉で遮る。


「こんな術式抵抗(レジスト)するに決まってんだろ、阿保か」

「あ、阿保だと、貴様! このセフィラーゼ様に愛された司祭たる私を侮辱するか!」


 その言葉に四人(と一匹)全員が溜息を吐く。


「「「「また宗教かあ……」」」」

「キュウ……」


 そんなどこか過去を見つめるような目をした四人を見て司祭が叫ぶ。


「お前ら、捕らえろ! 信仰心の力と言ううものを思い知らせてやれ!」


 上司からの命令を聞いた40人はすぐに、剣を構える者と杖を構えなおし数歩引いて詠唱を始める者、銃を構える者に分かれた。


「葵、殺す?」

「殺していいと思うよ、こんなの」

「銃器が存在する世界ですか。当たりですね!」

「ミーシャ」

「キュウ!」


 そして、召喚されてから10分も経たず戦闘が始まった。




 四人は最初に、魔方陣を展開し武器を召喚する。


「やっぱ考えるよな、収納」

「便利ですからね」


 光明が取り出したのは装飾が為された指揮棒タクトだ。


「はっ、指揮棒だと? 舐めるなよ!」


 剣を持った男が振りかぶってくるが光明は怯みもせずにそのタクトを剣が向かってくる方向に合わせる。


「お前も、舐めるなよ?」


 すると、確かに木製であった指揮棒だが、剣に叩き切られることもなく、逆に剣をへし折ってしまった。


「なっ」

「ああ、安物かよ、面白くないなあ」


 光明は文句を言い、男を切り捨てるとタクトを振り始めた。

 それよりも前に他の魔術師が詠唱をしていたが、光明は無詠唱で魔法を放つ。そしてその直後に魔術師の詠唱が終わる。


「……故に、我が目前の敵を焼け。<ファイヤーボール>」


 生み出された火球に対し光明の魔法はライトボール。

 しかし、光明のそれがファイヤーボールに当たった瞬間、ファイヤーボールは飲み込まれ、何事もなかったかのように魔術師に向かいライトボールが進む。


「くうっ!」


 避けようとしたが当たってしまったライトボールは結界を張れなかった魔導師の右腕を消し去る。他の者もその光景を見て唖然している。

 あの男はどれだけ魔力が良質か、莫大か、もしくは元素適正が高いのか。そんな考えが巡る。

 実は全て正解なのだがセフィラーゼの面々が知る由もなかった。


「最後に魔法のやりかたというのを見せてやろうかな」


 いつの間にかミーシャが飛んできて光明の肩に乗る。光明がタクトで正円を描いて左指を弾き鳴らすと円周から中央に向かって術式が構築されていく。

 精密魔法陣の瞬間構築だと⁈

 魔導師には分かった。これは私なんかの敵う相手ではない、と。


「汝等が罪過重きを以って此処に、神聖なる炎を生み、焼かん」


 詠唱を始めた光明に剣士が襲い掛かってくるがタクトに胴を切断される。

 駄目だ、こんなの、勝てる訳がない。


「其の罪過を糧とし燃える業火を前にして、懺悔、憤怒、後悔、怨嗟、総て意味は無し」

「ああっ、神よ、その力をもってして我を守り給え。<防御結界>!」


 魔術師がヤケクソ気味に防御の魔法を唱えるが、その間にも光明の魔法は完成へと向かう。

 火のように赤い魔法陣が輝きを増し、次第に炎を纏っていく。


「来れ、聖炎。<煉獄>」


 一般に魔法の鍵と呼ばれる最後の呪文を唱えると魔法陣から地面に炎が這う。しかし、その炎は小屋も光明も焼くことはなく、広がっていくと魔術師たちの元へと辿り着く。すると、生き物であるかのように魔術師達の身体を炎が包み、優しく、それでいて地獄の如き熱を伴って燃やし尽くす。

 後には炎も身体も一切名残はなく、それ以外のものは何もなかったかのように、そこに存在を許されていた。


「今日の晩御飯は何にしようか?」

「キュウ!」


 ミーシャと光明の頭には既に消えた存在のことは残っていなかった。




「はっはっは、遠隔戦闘なども良いですが、白兵戦の類もやはり昂りますね!」


 そう言いながら拳銃を右手に構えるのは祐介だ。

 襲い掛かってきた剣に対して左手に魔法陣を展開し防御した後に右手を出し、トリガーを引いて無反動に設定した銃弾を撃つ。それだけで剣士の頭部が爆散して他の者の視界を妨げるが、それを魔法陣で阻んでいた祐介に影響はない。


「ここはあまり広くないですから……さっさと終わらせちゃいましょうか」


 そう言うと拳銃を謎空間にしまって代わりに紫と白の輝きが特徴的な小銃を出し、右手をトリガーにかけ、左腕を伸ばして銃口の方へ手を添える。


「其れが抱けば、紅き潮。<指向性圧迫術弾>」


 そう唱えると銃身に紫の魔法陣が展開される。

 そして、祐介がトリガーを引くと銃口から紫に染まった弾丸が9発分ゆっくりと出てきて9人へとそれぞれ弾丸にあるまじき軌道で迫る。

 慌てて対処しようとしたが、その頃にはもう術弾が体に当たり、それがバウンドして弾けると、中から紫色の液体のようなものが出てきて身体を包み込み、強烈に締め付ける。

 『闇』と言われる物質だ。

 悲鳴を上げる9人を見届けて祐介が小銃で床を軽く叩くと、闇が与える締め付けが強くなり、耐えきれなくなった体が爆散して鮮血を撒き散らした。


「やっぱり指向性圧迫術弾なんて名前じゃ味気ないですかね」


 小銃を構えたまま祐介は呟く。


「『紅蓮の抱擁』とかですかね?」




 一方、葵と拓哉は二人で一緒に敵の前で佇んでいた。


 夜空を思わせる群青色の巨大な大鎌を持って笑っているのが葵で、少し高価な時計からそのまま長針を外して使っているかのような金色を基調とした両手剣を構えているのが拓哉だ。


「あの二人強いねー」

「にしても、こうして見ると僕を含めて誰もまともな武器を使ってないよね」

「ほら、あの二人は懐かしいけど、さっさと倒しちゃおうよ、敵」


 今も武器を向けられているのだが葵の笑みは崩れない。


「じゃあ、やろうか」


 そう言って拓哉が駆け込んだのは剣を持った男の懐だ。


「ふっ!」


 迫る剣を弾いて一閃を放った拓哉は上半身と下半身で綺麗に切断された男を蹴り飛ばして他の前衛を後ろに下げる。

 その傍らで葵は魔術師に対して大きく鎌を持ち上げ、それを軽々しく振り下ろす要領で袈裟斬りするとその勢いのまま大鎌の柄の先端にあたる刃が剥き出しになっていない部分を床にあてるとさらに勢いを利用して鎌の柄を頼りに自分の体を宙に浮かせ、その状態から大鎌を引き寄せて下向きに振り、呪文を鍵のみで唱える。


「<雷獄>」


 すると、刃の軌跡から赤黒い雷が現れて下に降り注ぐ。葵が放った小屋ごと焦がす一撃を前にしても拓哉は呑気な調子だ。


「魔法で生み出された電気って色で人気判れそうだよね」

「知らないよ。早くなんか凄い魔法撃とうよ」


 先ほど葵の放った一撃も十分凄い魔法と言えるのだが本人に自覚はない。

 そして『凄い魔法』を撃つ為に拓哉は長剣を構えて目の前に魔法陣を展開する。


「我が呼ぶは裁定の天秤。天高くより出で、目前の者等に裁きを下せ。」


 そう唱えると魔法陣の各部分が線で繋がって天秤座を描く。その天秤座が浮き出て積層魔法陣が完成する。


「<リブラ>」


 鍵を唱えきると魔法陣から天秤座が独立して本物の天秤を形作り敵の頭上に移動する。拓哉が長剣を鞘に収めた金属音が鳴ると、天秤から溢れ出す魔法に使われることの多い光元素が物質化したもの(今回は液体状である)、通称『光』が敵のみを攻撃する。


「なんだ、これは!」


 叫んだ剣士を光が飲み込む。と、その光は収縮し、天秤に戻って取り込まれた。他も同様に取り込まれると静かに天秤が消える。後には、人間など一人も残っていなかった。


「つくづく星時計の針って普通の長針みたいな形じゃないと思うんだけどなあ」

「ほら、あっちも終わってるみたいだから行くよ」

 

 四十人は全て死に、残るは司祭のみだった。


「な、な……」


 彼も、長くはないだろうが。




 王都の外、街道を走る女は先ほどまで司教の横で儀式を見ていた者だった。

 そんな彼女が走った先には廃れた屋敷があった。


「失礼します、第一儀式班所属鑑定員のアンナです! 至急報告の受理をお願いします!」

「どうしたのかね? そんなに慌てて」

「全く、神の御前で愚かですぞ」


 そんなことを言っているおっさん達は、セフィラーゼ教会で司教に就いている者達だ。アンナにとっては自分よりかなり上にいる存在であって、緊張せざるをえないが、今は報告がある。


「召喚儀式の件です!」

「あの異界から不信者を呼び寄せ王都を壊滅に持ち込むというやつか」

「はい」

「それで?」


 そう問うた司教の表情は真剣なものだ。


「っ……その、思ったより被召喚者が強力でして」

「良いことではないか」


 他の司教も頷く。


「それが、隷属術式を破られました」

「なっ」


 その一言は予想だにしていなかったのか司教たちがざわめく。


「……上級魔導師相当でなければ一切抵抗されないはずだが解析の結果は?」


 アンナが儀式に関わっていたのはこの、解析能力故だった。

 解析能力とは、対象の大まかな能力とそれより上位の存在である称号と呼ばれる能力を見ることができる能力である。

 この能力は生まれ持った才能によってしか習得されることはなく、その確率も低いため、非常に重宝される能力なのだ。一応道具で代用もできるのだが。

 そんなアンナが、口を開く。


「……魔導王、魔術王以上の称号を全員が持っています」


 その答えに上を見上げる司教だがそこには天井しかない。


「……はっ?」


 司教が素をさらけ出したが無理もない。

 そもそも『王』とつく称号はそこら辺をさがせば出てくるものではない。剣王、魔導王、魔術王、錬金王、そんな称号を持った者がそこら辺に転がっていたら世界が変わってしまう。と言うか滅びる。その位強力な能力を持つ者でしか王とつく称号は持っていないのだ。


「そして、本来4人召喚する予定でしたが、1匹、まぎれこんでしまったのが」

「まだあるのかね……」

「特殊型のホワイトドラゴンでした」

「は? あの指定級A+ランクモンスターのドラゴンか?」

「はい。それの特殊型です。モンスターの癖に魔術帝でしたよ、称号」

「は?」


 王の上に位置する『帝』最早想像も難い実力である。


「……それを、解き放ったと?」

「はい……」


 場を静寂が支配する。

 こんなの、どうすんだよ。誰もがそう思っていた。


「それに」

「まだあるのかね⁈」

「最後です」


 そう言ったアンナの眼はなにかを決意した者のそれだった。


「この五名は、神敵である、魔王の称号を持っています。」


 その言葉を聞いて司教の一人が泡を吹いて倒れたが一人としてそれに反応しない。


「神敵、魔王、か」


 その言葉の持つ重みはセフィラーゼ教会において凄まじいものであった。


「本国に早馬を走らせるぞ。大至急だ」


 慌ただしくなってきたな、と司教は思う。


「我々でどうにかなるものではない。接触禁止令を出す」


 アンナは知っている。帝という称号の重み。それ以上が確認されていない最上級の称号。魔王の意味。教義において絶対なる悪であるということ。

 だが、アンナには諦めなど無微塵も無い。自分たちは最高神に愛されている者であり、他の者は全て等しく滅ぶべき有害物なのだから。


異世界に旅立った悠久の後にまた召喚された主人公×4です


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