願い事 ~もしものはなし~
お久しぶりです! 内容があまりないし、時期外れですが、とりあえずご覧ください。
「おねーちゃん。もしさ、一つだけ願いが叶うなら、何を願う?」
「どうしたの、いきなり」
七月二日の夕方。花が食器を洗っていたら、突然ちびが話しかけてきた。
「いや、もうすぐ七夕だからさぁ」
「そういえばそうね」
「ちなみにね、あたしはね、魔法少女!」
「へぇ……」
「例えば……」
・・・ * ・・・
『あたしの名前は〈魔法少女☆すもーる〉だぁっ! この世の全てはあたしの物なのさぁ! ひれ伏すがいい、ぜーじゃくな、ぐみんどもよぉ!! あーっはっはっは、あーっはっはっはっはぁ!』
・・・ * ・・・
「完全に悪者じゃないの!」
「あ、ちなみに設定は『悪にそそのかされてダークサイドに堕ちた魔法少女』だよ」
「あんたそんなことになりたいわけ!?」
すると、ちびはハッとして、視線を落ち着きなくさまよわせた。
「……いや、えっと、まぁ、ノリだよね。なりたくないよね」
「よね」
「うん。……んなこたぁいいんだよ! 変えりゃあいいんだろ、変えれば!」
「何急に口調変わってんの」
「いいの、細けぇことは気にすんじゃねぇ! ……この口調面倒くさくなったから止めていい?」
「勝手にすれば?」
「冷たっ!!」
「いつものことでしょう?」
「まあ、そうだけど! と、とにかきゅ!」
「何噛んでんの?」
「……とにかく!」
「(あ、今誤魔化した)」
「願い事変えるよ!? えっとぉ、あたしの願い事はね……。んーと、明日学校から家までを一分で帰ること!」
「ちょっと待ちなさい」
「なあに?」
「ここから学校まで三キロあるのよ? 無理に決まってるわよ」
「あたしの辞書に不可能という文字はない!」
ちびが、自信満々に胸を張る。
「『ない!』って言われても。……まあ、願い事だし、いい「ごめん。これ、もうすぐ叶いそうだから、願い事じゃないね!」は?」
「一昨日一分十秒で帰れたもん。一分で帰ることももう夢じゃないね」
「……、ちびだもん、そういうことはあっても仕方ないかぁ……」
花は思わずため息をついた。ちびは、そういうことには一切構わず胸を張っている。
「そうだ! おねーちゃんの願い聞いてたのに、すっかり忘れてた!」
「忘れんなよ」
花が思わずツッコむと、ちびは微妙に目をそらしながら言った。
「だってぇ、あたしの願いが素敵すぎたからぁ、仕方ないじゃなぁい?」
「バカ」
「ひどっ! バカっていう方がバカなんだよ!」
「そういうちびこそ……って、このケンカ低レベルすぎない?」
ハッと我に帰る二人。…………。
「あっ、何かふうちゃんから微妙な雰囲気やめろって」
「しばらくご無沙汰してたけど、ふうちゃんって誰なのよ! いまだに教えてもらっていないけど」
「わかったよふうちゃぁん! ではではっおねーちゃんの願い事を聞こうではありませんか!」
「だから、私に露骨にふうちゃんの正体を隠そうとするのは何でなの?」
花がそう聞くと、やっぱりちびはそのことをスルーして「おねーちゃんの願い事! は・や・く!」と急かしてきた。
「もう分かったわよ……。願い事言えばいいのよね? そうね、『交通安全』とか?」
「普通すぎるよ! もうちょっときばつな答えを言って」
「あんたよく『奇抜』って言葉知ってたわね」
すると、ちびはどや顔になって言う。
「あたしもう小学三年生だよ! 知らないわけないじゃないっスか!」
「何で急に後輩キャラになったの」
「いいじゃないかぁ! とにかく、きばつな願い事カモン!!」
「そうねぇ……。『いつまでも二人で暮らしていけますように』とか?」
「え」
瞬く間にちびの顔が赤くなった。
「何照れてんのよ」
「んーと、ま、まぁ、あたしも同じ願いでいいかな」
「何その返事。まぁそうね」
二人でくくっ、と笑いあう。
いつのまにか夜空が輝き、天の川が二人を見下ろすようにしていた。
来年も二人でいられたらいいな、と願うちびと花だった。
「いや、やっぱ『ご飯を無限に食べられますように』にする」
「やっぱりバカ」
「何ぃ!?」
・・・ ・・ ・
「らーらーららららら、ららららーらぁ、らーらーららららら、ららららららぁ、らららーららららぁ、ららららららら、らぁー、うぉ、うぉ、うぉ、うぉう♪」
「何歌ってんの?」
二人は笹に七夕飾りをつけている。ちびは、相変わらず歌を歌いながらだが。
「…………」
すると、ちびの声がピタッと止まった。
「どうしたの、ちび」
「ねぇ、おねーちゃん、思い出さない?」
不思議に思って花が声を掛けると、ちびが不意に話しかけてくる。
「何を?」
花は口ではそう言いつつ、気づいていた。あの時のことだと。
「あの時も、こんな空だったね」
見上げると、一面に輝く空。きらきらだ。
『きらきらだねっ、花ちゃん』
『そうだね、ちびちゃん』
昔の記憶が二人の脳裏をよぎる。ちびが、そっと言った。
「おねーちゃんと、あたしが出会った日」