クリスマス ~おいしいプレゼント~
〔ひゅー、どろどろどろ……。ひゅー、どろどろどろ……。ひゅー、どろど〕
ちびは、目覚ましを止めた。時間は午前六時、まだ朝日は出ていない。
「さむっ」
彼女はそう呟きながら、ベットから出た。この時間にちびが起きるのはとても珍しいことだ。ちなみにいつもは、九時くらいに布団ごと部屋から出てくる。
「服、服、暖かいの」
ちゃんと服を着て、玄関へと軽い足取りで向かう。といっても家がそこまで広くないので五秒ほどで着いてしまうが。
「あぁ、あった!」
ちびが目を輝かせてそれを見ている。何故ちびがこんな表情なのか。答えは簡単。
「クリスマスプレゼントぉっっ!」
そう、今日はクリスマス。ちびにとっては、プレゼントを貰える日である。
・・・ ・・ ・
「なーにが、入ってぇる、プーレゼーントぉー♪ わっくわくぅの、クーリスーマスぅー!」
ちびが自作の歌を歌いながら、包みを破いていく。ちなみに花は、包んである紙は破かないタイプだ。
「こ、これは……」
そうして出てきたものとは、一体!?
「け、け、ケチャップ!?」
何と、ケチャップを容器に入れた物が箱詰め二十個入りで入っていたのだ! 流石のちびも怒るだろう――
「やったぁぁぁぁあああああああああっっっ!!」
――と思いきや、むしろ喜んでいた。
「だいこぉぶつの、ケチャップだぁ!」
また自作の歌を歌いながら、今度はリビングへ向かっていく。
「おはよう! おねーちゃん、おねーちゃん、ケチャップだよ! あたしの好きなものが分かるサンタさんってやっぱりすごいね!」
「おはよ。……良かったね、サンタさんがすごい人で。ちび、今日からまたいい子にしてなさいよ?」
実は、業務用のケチャップを夜通し箱詰めしていた花が言った。
「うん!」
プレゼントを貰ったちびは、元気な声で答える。
「じゃあさ」
花は早速と言うように告げた。
「静かにしなさい」
「……はい」
そういえばまだ午前六時を過ぎたところである。早くもテンションを下げて冷蔵庫にケチャップを入れに行く妹を見て、姉はため息を吐くのであった。
・・・ ・・ ・
「おはよう、ラッキーちゃん」
「あら、おはようちび」
午前七時半。ちびは散歩をしていた。もう、帰ろうかなと思っていたところに,近所の茶色のウサギ、ラッキー<三十六歳>が声をかけてくる。
「どうしたの? 今日は嬉しそうな叫び声が聞こえてきたけど」
ラッキーの問いに、ちびは若干顔を引きつらせて答えた。
「叫び声って……。きょ、今日はクリスマスだから」
「あぁ、そうか、プレゼントね? そういうことなら」
ラッキーが、ポケットから何かを取り出す。
「飴?」
ちびがそう呟くように言うと、ラッキーがニコッと笑った。
「そう。二つあるから、花と二人で食べなさいね」
「いいの?」
「いいの。私からのクリスマスプレゼント」
ラッキーが、焦げ茶色の下に垂れた長い耳を優しく揺らす。
「……ありがとう! じゃあね」
「うん、じゃあね」
ちびは、軽い足取りで家に帰っていった。
・・・ ・・ ・
ちびは家へと戻った。早速あれを渡そうと、鞄の中をあさる。
「あった。おねーちゃん、ラッキーちゃんから」
「何? ……飴? ラッキーちゃんに後でお礼言わなくちゃなぁ」
ちびから飴を受け取った花は、そんなことを言いながらそれを口に入れる。
いちごみるくの味がした。
ちびもなめ始めて、顔を綻ばせた。
「おいしいね」
「うん」
朝日が窓から差し込んできて、少し暖かくなった気がした。
「あたしたちのクリスマスは、いつもより少し優しかった、とさ。めでたしめでたし、ちゃんちゃん」
「だから誰に向かって話しかけてるのよっ!」
クリスマスの話です。
あれ、ギャグのはずなのに……。