『クラィング山を目指しての旅路3』
前回から続いている。
ジョイントさんと合流し、クラィング山へ向かうついでに、俺たちはバルゼン公爵の護衛もすることにした。
とりあえず、公爵に挨拶して護衛としてついて行くと言いたいが、公爵は昼間は寝ているらしく、夜になるまで待つ必要があった。
「公爵は辺りが暗くなればおきてくるんだが、まだあかるいからだめだろうな」
「まさか公爵が吸血鬼とかじゃないですよね?」
「いや、吸血鬼だったら日光で灰になるだろ?日光を浴びた時があったが、肌が赤くなっただけだぞ」
「本当に肌が弱い人なんですね・・・」
ついでに言うなら、吸血鬼の存在はこの世界にはない。モンスターはいるのになぜか一部のものは空想上のもののままだった。
夜になり、今夜はここで一夜を明かすことになった。
他にいる護衛のおっさんたちは、新たに俺が護衛に加わるといったら、せっかくだし酒でも飲んで歓迎しようぜとかいう感じになり、酒盛りを始めていた。
さすがに俺は未成年なので、酒ではなくて、王都からもってきていたジュースで混ざった。
「がはははは!今夜は飲むぞー!」
「「「イェーイッ‼︎」」」
この人たち、ただ酒を飲みたいだけじゃないか?
「しっかし、昼間はすごかったぜ。あの綺麗なアラクネのネーちゃんが次々とオークどもの首を締め上げていったもんな」
「首が少しわかりにくかったので、首と思えた部分の肉の隙間に糸を通しただけですけどね」
「いやそれでも十分すごい。肉が厚いオークの首を締め上げてしまうなんとほんとすごい」
「いやぁ、それほどでも・・・」
褒められてまんざらでもないようなハクロであった。というかお前、酒のんでない?一応年齢的にはいいかもしれないけど。
「それだったら我の方がすごいじゃろ。オークどもを叩き潰しまくったからな。いくら肉が厚かろうとも、衝撃を体内に浸透させれば問題ないからな」
「なるほど、そういう倒し方もあるのか。勉強になりますっ!アルテミスの姉御‼︎」
「なんで姉御と呼ばれるんじゃろう・・・別にいいんじゃかなぜじゃ?」
見た目からじゃない?2メートルぐらいの身長で、それでいて強くて気さくだし、スタイルがいいし、姉御っていいたくなるんじゃないかな?しかも今、酒何杯飲んでるの?飲み比べしてた相手が酔いつぶれているじゃん!
そうこうしているうちに、眠くなってきたのでアルテミスたちを従魔用空間にいれ、少し離れた位置で寝た。ついでに言うなら、表彰式の時にもらった魔道具のテントである。簡単に組み立てられ、完全防水、完全防爆つきのもので、中の温度がちょうど過ごしやすくなるようになる優れものであった。
そういえば結局公爵が馬車から出てこなかったな。挨拶しておきたいんだけどな・・・。
真夜中、ふと目が覚めた俺はテントから出て少し夜風を浴びていた。少し肌寒いが、なんとなく心地が良く、たまにこうして起きることがあった。
数分ほどたち、テントの中でまた寝ようとしたとき、何か物音がした。
音のした方角を見ると、馬車の扉が開いていた。公爵が外に出たのだろうか?
だが、それにしては足音がしなかった。
警戒しつつ、馬車の中を覗いてみると誰もいなかった。
『警告!!上空より何か飛来してきます!!』
「なっ!?」
突然の世界の声の警告に驚くも、その飛来してくるものをかわすために素早く横に飛びのくと、先ほどまで自分がいた地点に何かが落ちてきた。
だが、地面に激突する寸前に、「それ」は素早く急ブレーキをかけてゆっくりと着地した。
月明りがかかり、その光が映し出したものに俺は言葉を失った。
そこにいたのは、いないとされてきた吸血鬼のように、青白い肌に黒い翼を持った、口に血が付いたモンスターのような姿をした公爵と思われる人だった・・・・。
吸血鬼?それとも人間?それとも・・・