『やっと出国』
やっと魔族の国へ向けて出発。ワポーンが思ったよりも長かった。
あたり一帯が吹き飛ばされ、更地になったのは相当な被害が出たようである。
飛んできたがれきなどで怪我をする人や、行方不明者を探す人など混沌とした状態になっていた。
ギルドへ向かうと、ギルドも一部が損壊している被害が出ているようで、冒険者たちやギルド職員たちが慌ただしく動いていた。
できる限り怪我人間の治療などを行って、やっとだいぶ落ち着いたのは4日後だった。
何かが吠える声がした後にこの災害が起きたので、ギルドはこれを「咆哮事件」として記録。
事実を俺たちは知ってはいたが、引き起こしたきっかけのような立場でもある。
そのため、言おうにも言いにくくなってしまっていた。
なので、ある程度までは話したが、詳しくはわからないと言って伏せることにした。
その代わり、全員で協力して倒壊した建物を再建築し、復興がある程度まで進んでから俺たちはワポーンを出国し、魔族の国がある北の方面へ出発したのであった。
「ひどい寄り道になったなぁ・・・」
「今回は僕らが引き起こした事件ではなかったけど、魔王様に負担がかかってしまったのは申し訳ないよ」
「・・・そういえば、あのハーピーと男の行方が知れませんね」
今回の事件を起こした黒い翼を持ったハーピーと、それに命令していた男とやらは、あの衝撃波でど言葉かに吹っ飛ばされたらしく、行方不明となった。
「どこかに墜落しているじゃろうが、飛ばされた方角はわからぬ。案外、北のほうかもしれん」
魔族の国に着くまでに、また遭遇するのだろうか・・・。
「ん?雪が降ってきたな」
だんだんと雪がちらほらと降ってきた・・・。
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「・・・ん」
降り積もる雪の中、黒い翼のハーピーは目を覚ました。
どうやらあの咆哮でこんな雪が降り積もるところまで飛ばされたらしい。自分の知らない土地のようであった。
「・・・ここどこ・・痛い」
ふと、痛みを感じたので見ると、自分が着ていた服がボロボロになっていて、あちこちの皮膚が裂けて血が流れていた。
ここで足に父親のような男を掴んでいたのを思い出し、足元を見た。
だが、足にはちぎれた服しか掴んでいなかった。
よく見ると、辺りには肉片のようなものが散らばっていた。
ハーピーは理解した。
その肉片こそがあの男だと。
あの時、咆哮を間近で受けた時に発生した風の刃。
衝撃波の方が威力があったものの、風の刃も周囲を切り裂いた。
上空に行くほどどうやら強くなったらしい。
モンスターは丈夫だったから切り裂かれることはなかったが、人間は案外もろい。
そして、飛んできた刃に男が切り裂かれ、衝撃波でまとめて吹き飛んだのである。
ハーピーは翼の羽でガードしたため、血を流してはいたものの、切り裂かれなかった。
だが、男には身を守るすべがなく、生きたまま切り裂かれ、肉片と化したのだ。
ハーピーはそのことがわかり、どうすべきか分からなかった。
自身も怪我をしており、暖かい羽毛があるものの、このままでは死ぬと思えた。
だが、生きていて何になろうか?
己はこれまで男に命じられて、精気を吸って人々を殺してきた。
そのツケが今来ただけだろう。
それに、生きる意味なんてもうない。
変わり果ててしまったとは言え、あの男は父親の様に昔は接してくれた。
自分の周りにいた血が繋がってはいないと言え、唯一の家族だった。
その家族がいなくなり、もはやひとりぼっち。
「・・・でも」
その時、ふと思い出した。
最後に精気を吸い取ろうとして、その仲間に邪魔をされて失敗したときの人を。
彼は周りにたくさんの仲間がいた。家族の様にも見えて、羨ましく思えた。
最初に見た時、なぜかついていきたいと思えた。
精気を吸い取ろうとしたけど、彼の仲間が夢の中にまで助けに来ていた。
彼は何か惹きつける力がある。
そして、なぜか胸が苦しくなる。
「・・・せめて、謝りたかったな」
精気を吸い取ろうとして殺そうとしたが、本心からではない。
男に命じられてやっただけである。
もし、この場にいたら謝りたい。
「迷惑をかけてごめんなさい」と。
だんだん体が冷えてきた。
次第に感覚がなくなっていき、意識が朦朧としてきた。
飛べばどこかにたどり着いて助かるかもしれない。
だけど、自分はモンスター。もしかすると、人の見た目に近いから弄ばれて終わりかもしれない。
それに、もう気力も体力もなくなった。
羽も傷ついて血がついてうまく羽ばたけない。
体が雪に埋もれていきながら、空を寝転んで見上げる。
雪のせいで、灰色の曇り空。
だけど、最後に叶うならば・・・。
あの時に出会った人、謝りたいけどもう無理な人。
その人と一緒に、青空のもとで一緒に飛びたかったなぁ・・・。
まぶたを閉じ、両翼を広げ、飛ぶイメージを浮かべる。
どうせこのまま死んでしまうなら、最後に思い浮べよう。叶わなかった望みを。優しかった昔の日々を・・・・・
その時、彼女が意識を失ったとき、何かがそばに降り立ち・・・。