『そんなのはめんどくさいじゃん』
前回の続き
アルテミス視点
「なぜじゃ?我の力があれば可能だというのに」
アルテミスは分からなかった。己の力があればそのようなことは赤子の手をひねるよりも容易いことなのだ。それに、たった今己の主として認めたこの少年、ゼロ自身の膨大な魔力があれば、魔法を全て覚えればどのような大魔法でもたやすく実行することができる。それこそ自分などを軽く倒せるぐらいなのだ。なのにそうするつもりはないという。
「だってな、そんなことはめんどくさいじゃん」
「「「は?」」」
そのゼロの一言により固唾を飲んでいたハクロとモッセマン、そしてアルテミスたちは間抜けな声をだした。
「だってさ、まずそんなことして何になるの?」
「それはその力で気に入らない奴を消し去れるのじゃが」
「消し去っていったら最後はどうなる?気に入らない、嫌い、憎い。そんな理由で滅ぼしていったら最後は何も残らないじゃないか?」
アルテミスはその言葉に聞き覚えがあった。
どれだけ昔か忘れたが、同じようなことを尋ねて今のような返事をもらったことがあったのだ。
『なぜじゃ?お前ほど力があれば世界を滅ぼすのも容易いというになぜそうしない』
『だってよ、確かに俺は■■だしそれだけの力があるのは自分でもわかっている。だが、それをやって結局何になる?』
あの返答を返した者はもう記憶もかすかにしか残っていない。それにその時は気にもとめていなかった。だが、今のゼロの言葉はそれをよびおこさせた。
今、アルテミスはその記憶にいる者とゼロが重なって見えた。
「そんなことをしたら最後は結局誰も残らないひとりぼっちになる。そんなことはいやだ。そうなるよりも俺は冒険者になって魔物使いとして従魔たちと一緒にいたい。地位?金?そんなものもらうよりも適当に今の生活を生きたいんだよ」
アルテミスはその言葉の意味を理解した。
強大な力を持ちながら、それをどうこうするというわけではなくただ今ある仲間たちと今の生活を過ごしたい。世界を滅ぼす従魔ではない。自らの仲間。そう言っているのだ。
「そうか、そういうことじゃのか・・・」
アルテミスは先ほどまでのことが恥ずかしくなった。エンシェントドラゴンである己の力に自信を持っていた。だが、それはただのおごり、慢心であったのだ。
今までアルテミスは心のなかで人とは所詮力に溺れる者だと思っていた。だが、自分もそれとは変わらないことを思っていたことに気がついたのだ。
モンスターも人も関係ない、そういう心があったのに気がつき、そしてそれを気がつかせるきっかけをくれた今の主の少年。
アルテミスはその少年の心に感動した。力に溺れないで生きるその考え方に。
「主殿、我が間違っていた。これからは我もそう考えよう。そして先ほどの軽率な発言を許しておくれ」
「いや、許す許さないじゃないんだが。ま、とりあえずこれからよろしくな。アルテミス」
「はい」
アルテミスはこの主、ゼロに一生ついていこうとおもったのであった。
まだまだ続く
書いているうちになんか恥ずかしくなった




