『舞踏会:後編』
意味深なほうが多いかな?
「・・・ん?」
「どうしたのですか旦那様?」
「いや、なんか虫の知らせがね」
舞踏会中、俺はエンチャントで感覚を強化していた。
こうすることによりより素早く察知できるからな。
まあ、現在ローズと踊っているので強化しすぎた分、いつもよりローズを意識してしまっているけどな・・・。
そして、強化された感覚で今この会場外で何かが起きている気配を感じた。クーデターが始まったのかと思っていたらいつの間にか会場にいたはずのデップリンがいなくなっていた。少し目を離したすきにか・・・なーんか魔道具を使用しているな。あの体形でそこまで素早く動けないだろうしさ。
ローズの安全確保のために、俺はローズを手元に手繰り寄せる感じで近くに引き込んだ。
ドカァァァァァァァン!!!
それとほぼ同時に、会場のドアが吹っ飛んだ。
「きゃぁぁぁぁぁっつ!!」
「何事だ!?」
会場内にいた貴族たちがパニックになる。
「な、何が起きたのですか!?」
「ローズ、俺のそばから離れるなよ」
「はい!」
ローズを抱きしめる形で、俺はカトレアから渡されていた「緊急用7つ道具」の拳銃型ゴーレムを片手に持た。普通のピストルのようだが、これは一応ゴーレムで手元から離れてもすぐに飛んで戻ってくるのである。銃弾として魔法を放て、媒体となるためより強力な魔法が撃てる。
ただし、あくまで緊急用に身を守るための道具なので7発までしか耐えられないのである。何でも俺の魔法が強力すぎだからそうだ。
吹き飛んだ扉があった場所から何かが流れ込んできた。明らかに人間ではない、鎧をまとった人形のようなものである。剣や槍などを持ち、明らかに攻撃してくる気である。
「『ウィンド・カッター』!!」
慌てずに俺はそれらが明らかに敵であることを認識し、魔法を放った。
この魔法は風の刃を生み出すものだが、拳銃に物凄く圧縮して1発撃ち込んだ。
拳銃から弾のようなものが飛び出し、その敵にあたる瞬間に一気にはじけて無数の風邪の刃が時離れた。
ズガガガガガガガガガガガガ
見る見るうちに鎧が砕け、切り刻まれ、鎧をまとった人形はあっという間にすべて細切れになった。
普通に魔法を放ってもよかったが、黒魔石を組みこんでいるものだという可能性があったので念のために強化したのだが・・・これ、普通に魔法はなってもよかったな。
とにもかくにも、今のうちに新手が来る前に貴族と王族の避難を開始させるのであった。
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「えいやっつ!」
ばきぃっつ!!
「ふぅ、これで全部ですかね?」
戦闘で汗をかいたので、ハクロは手元に素早く作りハンカチで額の汗を拭いた。
ハクロの周りには、王宮に侵入してきた鎧をまとった人形だったものの残骸が散らばっていた。
糸で縛り上げたり、糸をまとめて武器にしてたたきつけたり、以前ダンジョンで手に入れた大きさを調節できるナイフを糸であたりに飛ばしまくって倒したのである。
「しかし・・・なんか弱いですね?」
これがクーデターによるものだとしたら、黒魔石が組み込まれているはずだがものすごく弱い。
黒魔石によって生まれた怪物とかを知っているハクロは変な違和感を覚えた。
「んー、たしか組み込まれているのは黒魔石の量産版らしいんでしたよね・・・」
量産すると質が落ちてしまいやすいのはわかる。でもこんなに弱いのだろうか?
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どかぁぁぁぁん!!
「そーれ」
どかぁぁぁぁぁぁん!!
カトレアは現在ハンマーをふるいまくっていた。たたいたところが爆発するハンマーなので、壁や床のあちこちに穴が空いたりしているが気にしない。
周囲のカトレア製のゴーレムたちも戦ってはいたが、今のところ有利な状況である。
「・・・・ん?」
カトレアは気が付いた。この襲ってきているゴーレムの違和感に。
あちこちで砕けたゴーレムの破片を彼女なりに集めて、戦闘中だが二コイチの要領で再度組み立て直して調べたのである。
「使用されている黒魔石は量産品とか聞いたけど、これあまりにも純度が低すぎる・・・・」
少しだけ残っていた黒魔石であろう破片を見て、そう感じた。
「量産して純度が落ちた・・・とは考えにくい。むしろ何かの純度を上げるために質を落とした・・・?」
なんとなくだが、そう感じ取れる。もともと量産されていた黒魔石の質が何かに吸い取られた。そう考える方が正しい気がするのだ。
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「やはり、あの魔物使いの従魔たちがかなり強敵ですね」
「おいおい、本当にうまくいくんかいン?」
「ええ、大丈夫です。ここまでは想定の範囲内です」
王宮のとある一室にて、「死をも恐れぬ騎士団」がつぎつぎとゼロたちによって駆逐されていく様子をデップリンは不安そうに見ていた。それに対し、マッデストは慌てずに、余裕の笑みを浮かべていた。
「少しづつですが、従魔とゼロの距離が離れてきました。今彼らが破壊しているのは、「死をも恐れぬ騎士団」のなかでも『SSGBG』の黒魔石の質を上げるために質を抜き取った最弱のゴーレムですからね。その抜き取った分、かなり強化されており、オリジナルとほぼ同一という計算です」
「その弱い奴をつかい、少しでも体力を削っておくン」
「あれがすべて破壊されたら『SSGBG』100体すべてをを出します。個々の戦闘能力は高いようですが、ある程度体力を削っておけば五分五分になる計算ですしね。ちなみに、現在2437体ほど破壊されたようですが、まだまだ余裕がありますからね」
ここまでの計算は完璧であるとマッデストは思っていた。
「あとはそれぞれ相手をしてもらい」
「そして、そのすきに王族を殺すためにオリジナルの黒魔石で作ったゴーレムで背後から奇襲をかけるとン」
「念のためにオリジナルを組み込むことにより、戦闘能力を高めて万が一に備えていますからね」
「流石、マッデストだよン。これでほぼ、この計画が完了したようなも、」
ずぶっつ!!
「ん?どうしたんですかデップリン・・・」
何か肉を突き刺したかのような音が聞こえ、デップリンの方をマッデストが見ると、彼の腹から何かが飛び出していた。よく見るとサーベルであった。
背後からデップリンは貫かれたようであると認識するのにマッデストは時間がかかった。
「え・・・・・?」
ずぼっつ、ぶしゃぁぁぁぁぁぁぁつ!!
そのままサーベルが抜かれ、彼の身体から血が噴き出て、そのままデップリンは倒れた。
そのサーベルの持ち主を見ると・・・・
「なんで・・・なんであなたが」
そこにいたのは、今回のクーデターで王族を殺すためにオリジナルの魔石を組み込んだゴーレムが、サーベルを持ってその場にいた。
だが、たしか最終調整のためにギリギリまで今この場で稼働停止させていたはずである。
「いやー、お見事お見事」
「そこまで作戦を立てていたんですね」
「惜しいと言えるYO」
その背後には、誰かがたっていた。
「あなたたちは!!黒魔石の・・・」
「そ、君たちに黒魔石を渡したものですよ」
仮面の男と、その他2名の姿があった。どうやってマッデストからコントロールを奪ったのかはわからないが、ゴーレムはその背後に行き、なぜか正座した。
「な、なぜ・・」
「そりゃ、僕らからすれば予想外だったからだよ」
「黒魔石を使って騒ぎを起こすのはいいんですけど・・・」
「それを複製・量産してしまったってのがダメだったんだYO」
仮面の男は大げさに肩をすくめた。
「黒魔石を量産してゴーレム軍団を作り、そのまま世界征服とかされるとこちらとしてもねぇ・・」
このクーデター後の予定の計画を当てられ、マッデストは驚く。
「なので、魔王復活のためには障害になると判断しました」
「だけど、邪魔しようにも俺らだけじゃ無理だったんだYO」
冷酷な声で述べるメイドと、ふざけているようだが雰囲気からふざけていないとわかる男。
「でだ、あの魔物使い君を利用したような感じにしたんだよね」
「利用?」
「ああ、君らがクーデターを起こそうとしているのを教えたのさ」
「だけど、彼らでもなかなかあなたたちがクーデターを起こそうとする証拠が見つけられなかったようで」
「せめて被害を抑えて現行犯逮捕をするようにしたみたいだYO」
ここで、マッデストは計算が狂っていることに気が付いた。
ここまでに負傷者は王宮の警備をしていた騎士たちだけなのだ。
本来の予定なら、貴族の、デップリンの障害となるであろう貴族たちはこの時点ですでに殺せていたはずである。
だが、その貴族達はすべて無傷。ちょっと予定よりも想定内分に時間がかかっている程度にしか思っていなかった。
実は、ゼロはあらかじめデップリンがクーデターを起こすとして、それに反発するであろう貴族を調べさせて、その貴族にも注意を払っていたのだ。
つまり、あの魔物使いたちはマッデスト達にもわからないように対策をしていたのである。
「それに、僕らは僕らで動いていたんだよ?」
「それで偶々私たちが渡した黒魔石で動くゴーレムを見つけてね」
「こちとら黒魔石の専門家なので、ゴーレムそのものではなくて、黒魔石に働きかけて動かしているんだYO」
簡単に言うと、ゴーレムそのものを操っているのではなく、核となっている魔石のみを操っているということになる。
「・・・でも、なぜこのタイミングであなたたちがここにいるの?」
それが分かっているならば、マッデストたちが行動を起こす前にゴーレムを操って自分たちを殺すことができたはずである。それに、デップリンはすぐに殺したのに、マッデストはいまだに生かされていた。
「うーんとね、話聞いてた?黒魔石を使って騒ぎを起こしてもらうためだよ」
「私たちで先に防いでしまいますと意味がないですから」
「でも今起きているので十分になったYO!」
「君を生かしているのはね、まあ、簡単に言えば僕の計算違いです」
どういうことだろうか?
「いやー、本当はね充分エネルギーが貯まったあとは、二人とも殺して予備分を追加でと思っていたんだけど」
「予備分がその男を殺したら貯まったのですよ」
「負のエネルギーがどうもかなりあったみたいだYO!]
「要は、その中年に君は助けられたようなものさ。で、僕らは必要以上に命を奪わないからね」
「それは嘘でしょう。本当はこんなおばさんを殺す価値がないというだけでしょ」
「あれ?わかった?」
ひどいいいようである。
「あ、あと密かに配置していたらしい『SSGBG』とかいうのは全て稼働前に中の量産黒魔石を抜き取ったからね」
「質がオリジナルに近かったですからね・・・あとでリサイクルしておきます」
さらに、オリジナルの黒魔石もゴーレムから抜き取り、そのままメイドがポケットに入れた。
つまり、マッデストの手駒として現在残っているのは、現在ゼロたちが殲滅しているゴーレムたちだけである。
だが、この状況を覆せるものではない。
「まあ、おかげでもう十分だし、もう君は王族殺しなどを企てた犯人として捕まるのも時間の問題だね」
「あのゴーレムに使用されている癖などから作成者が割り出せますしね」
「おどされてとかの言い訳は多分無理だYO!王族相手にしたから酌量の余地を考えても禁固数十年となるかもYO!」
もう、マッデストには残された道はなかった。いっそ自殺でもしようかと思ったが、そこまでの勇気はない。
「さて、ついでだしこのまま勢いに乗って魔王復活の儀式でもやっちゃおうかな?」
「今やるのはさすがにダメでしょう。空気を読んでください」
メイドが仮面の男に言った。さすがに今回の目的はこれでほぼ達成したものだからだ。
「あははははは、まあ、彼らにも休息は必要だしね。魔王復活の際には重要人物になるし」
「そういう事もあるのでしょうけど、今はとにかく私たちのもう一人の協力者に最終確認をしてもらうのが先でしょ」
重要人物とはどういうことなのだろうか?疑問に思ったマッデストであったが、もう自分はこのまま処分を待つだけだと悟り、意識を自然と手放していたのであった。
「そういえばもう意識が飛んでいるようだけど、ありとあらゆる生き物って死んだ後どうなっているのか考えたことがあるかい?」
そういうと、三人組はその場所から一瞬で消えてしまった。後に残ったのはマッデストと、出血多量ですでに死んでいるデップリンだけであった・・・・。
サーベルって「斬る」じゃなくて「突き刺す」の方であっているのかな?ドラ〇エとかで使っている人は斬っているけど・・・・。