『病み上がり』
やっとそろそろまともに話が進みそう
翌朝、完全回復したのだが病み上がりなので今日も冒険者業を休むことにした。
なので今日はゆっくりと読書である。
ちなみに、一応冒険者としての依頼でもらえる達成報酬で生活費を稼いでいるのでアルテミスとスラ太郎が代わりに簡単ですぐ終わるような依頼を受けに行くそうな。他の皆は家に残っている。病み上がり名折れを心配してである。
ハクロの糸やカトレアの特許による収入などがあるが、それらは貯金である。頼りきりってのはさすがにまずいからね・・・って、依頼を任せるのも頼っているか。
「そういえば、久しぶりにゆっくりしているな・・・」
ふとそう思った。慰安旅行しに行ったのは確か春らへんで、それ以降はいろいろしているからな。
「たまにはいいんじゃないですか?ゼロ様だって休みたい時は休めばいいんですよ」
「ご主人も休むことを覚えるべき」
ハクロ、カトレアの意見である。なお、彼女たちも読書中であった。
たまに王都の本屋で買うのだが、この世界一応印刷技術が魔道具で進んでいるようだからそれなりに安いんだよね。冒険者の中には手記を出版している人がいるようだしな・・・。そういや数年ほど前に国王のポエム集とかが発売されていたっけ。
もともとモッセマンさんが手に入れていたのだけど、ローズにわたって、そこから城の人たちにわたって、いつの間にか出版されていたからなぁ・・・・。内容がそこまで悪くはなく、黒歴史的なもので笑えていたので国王の人気は上がったらしいけど当の国王本人はしばらく引きこもっていたらしいんだよな。
いつの時代、どこの世界でも自分の黒歴史ってのは恐ろしいよな。
ちなみに、俺が今読んでいるのは月間「スライムクラブ」から派生してできた小説「スライムの伝説」である。作者は秘密でわからないのだが、なかなか面白い。小説というのもいいよな・・・。
なお、かなり売れているようでコミカライズされていたりする。ただしこちらは売れていないようだ。やはり想像するのが面白いってのがあるんだろうな。この世界、漫画もほとんどないし、テレビがないからドラマとかもないしな。映画はあるけど。
カトレアが読んでいるのは植物に関する本かと思いきや魔道具に関する本。ハクロの方は・・・・。
「恋愛系小説?」
「いえ、コメディ系です」
タイトルが恋愛系なのだが・・・・。ツッコまないでおくか?
こうして本を読むという時間はゆったりできるな。まあ、明日からはまた冒険者として仕事しますけどね。
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王都から少し離れた貴族の邸宅にて・・・・・。
「では、準備はできているのかン」
「ええ、黒魔石とやらも組み込みましたし、これでいつでも稼働させられます」
そこにはずらりと並ぶ多くの人形があった。人ほどのサイズでどれもが鎧を装備し、剣や槍、盾を備え付けられたまるで騎士のようなものばかりであった。
それを見るのは、白衣に眼鏡を着た女性と、ここの貴族当主ボワル・アンダー・デップリンという名の中肉猫背の男性であった。
「これで戦力は十分とン。後は実行の時期だけン」
「春に、第1王子と第1王女が留学先から王城に帰ってくるそうです。その時期ならまとめて王族を始末できるかと」
「そして、その空いた部分にミーが入れば良しと」
「ええ、ですがこの戦力のいくつかを『怪物殺し』に割く必要性があります。王族を始末するには怪物殺しがまず一番の障害になるからですね。彼にある程度の戦力で時間稼ぎをし、そのすきに王族すべてを始末するという事です」
「それが厄介だよン。怪物殺し自身も、その従魔たちも強いからそれなりにいるけど、割きすぎると王族の始末の方に支障をきたすからねン」
「黒魔石が手にはいったことによりこの『死を恐れぬ騎士団』を作成できましたからね。ハグエェなんかのよりもすごいゴーレム軍団ですよ」
「・・・ネーミングがそのままなのねン。それに、そのハグエェはお前の親戚だったろン。マッデスト・テルゾよ、そうだろン?」
「あの男はおろかにも飲み込まれて散りましたからね。そのせいで私たちまで被害を受けたのですからね・・・」
「それは同情するン」
忌々しそうに歯ぎしりをするマッデストにデップリンは同情してはいた。
自身も昔、今の国王の前に先祖が何かやらかして最初は辺境の貴族にされていた。
だが、先祖からのそれがいやだから努力して今の王都に近い都市部の貴族にまで成り上がった。
ここまで来れば十分すごいが、そのうち彼には野望の火が付いた。
このグライトス王国の乗っ取りである。彼の一族で乗っ取り、新たな国として生まれ変わらせようとした。
何十年も前から準備してはいたが、数年前にあった怪物事件で計画の変更を余儀なくされた。
ゼロという魔物使いにである。
その従魔たちの強さや、ゼロ自身の強さも考えると新たに計画を変更せざるを得なくなり、本来ならすでにこの手に王国があったものの、いまだに手に入れられなかったのだ。
また、ゼロが第2王女との婚約をしたのも要因である。つまり、この国の王族とのつながりがあるという事にもなり、もし王族に何かあればゼロが出てくると思ったからだ。
そのため、何とかしようと暗中模索、試行錯誤をし、つい先日やっと黒魔石とかいう魔道具の大量入手に成功したのである。
黒魔石によって怪物が生み出されたりするのはわかっている。そのエネルギーを兵器に使えないかと思い、こうして取り込んだのがマッデストなのである。
彼女はあの怪物事件の首謀者のハグエェの唯一の親戚であった。そのため、ハグエェがやらかしたことにより彼女自身もいろいろ辛い目に合ったのである。
そこへ飛び込んできたこの話。彼女自身国を同行してやるつもりは余りなかった。悪いのはあのハグエェだし、その罪を自分も背負っているのだと考えていたからだ。
だが、ハグエェの親戚である彼女はゴーレムなどにも興味があり、黒魔石を組み込んで何やかんやすれば物凄いものが作れるのではないかと思い手を組んだのである。
「こうして、作ってみますとかなり苦労しましたが・・・」
「まあ、後は実行するときまで待つだけだねン。それまでもう少し計画を練るのねン」
ちなみにこの二人、互いに手を取り合っているうちに恋仲になってました。この王国乗っ取り計画が済んだらついでに挙式を上げるつもりでもある。
互いに笑みをかわしながら、静かにその時が来るのを待っているのであった・・・・。
そういえば第1王子と第1王女って名前出たときあったかな・・・・?