閑話 肝試し
季節に合わせてみました。今回は長め。
「肝試し大会?」
「はい、本日夕暮れ時に開催されるんです」
夏祭りのほんの数日前、ギルドにて依頼がないか探していた俺たちはそんな話を受付嬢から聞いた。
「なんでも、最近の冒険者が腰抜けが多いからたまにはこうやって鍛えてやろうというギルドマスターの提案です。大体突発的に開催するんですけどね。今回は8年ぶりですよ」
「本音は?」
「私たち受付嬢へのセクハラしてくる冒険者への憂さ晴らしです。あと、ギルド職員の怨嗟や嫉妬なんてのもあります。ちなみに、王都にいる冒険者全員が強制参加ですよ」
あっさり本音を言ったな。
「肝試しってなんですか?」
「簡単に言うと・・・度胸を試す?」
「なんか面白そうですね」
ハクロが目を輝かせる。その一方で、
「今年は開催されるのか・・・」
「8年前の悪夢が・・・」
「おい、俺がもし生きて帰れたらその時は」
「言っておくけど死亡フラグよそれ」
「逃げたいけど、王都周りの衛兵がこの時だけ超強化されて逃げられないんだよな」
・・・なんかやばそうだな。
家に戻り、話すと皆参加を望んだが。
「でも、これ2人一組の参加ですね」
そのハクロの言葉のあと、「ゼロ様はちょっと待ってください」といい、皆が家の地下に作ってあった模擬戦場に向かい、何かしらの凄い音が聞こえたあと、皆ややボロボロになって、ハクロと組むことになった。
・・・何をしてたんだ。
ちなみに、従魔を1人と数えていいのか疑問だったが、魔物使いは従魔と組んでいいと書いてあったから別にいいんだろうな。
アルテミスたちは今日は家に残るといい、俺はハクロと共に肝試し会場へ向かった。
会場は王都近くの森である。ここは以前薬草採取の依頼の時にも来てはいたが、暗くなってきたのもあってかなり雰囲気が出ていた。あ、モンスターの危険?冒険者だから自分で守れだとよ。
「結構人がいるなぁ」
会場手前にはすでに多くの冒険者たちがいた。
全員が2人一組の決まりを守っている。男女ペア、女ペア、男ペアと様々である。魔物使いも混じっているので従魔とペアなのもチラホラ見かけた。スライム、ウルフ、ゴーレム、マッチョだるま・・ん?
「あ、ジョイントさんだあれ」
「なんであれと一緒なんですかね?」
マッチョだるまと組んでいるジョイントさんの姿を見つけた。確かゴーレムもいたよね?なぜにあの筋肉だるまを・・・見なかったことにするか。
参加者を見渡すと、顔を蒼白にしている者、逃げ出したい者、面白そうに期待している人などすごい温度差があった。
中には、俺の方や他の男女ペアを見て嫉妬や怨嗟の目線を飛ばす人もいたがな。ちょっと怖いぞ。
『えー、本日8年ぶりの肝試し大会に集まって頂き誠にありがとうございます』
あ、ギルドマスターのメタドンさんの声だ。拡声の魔道具でも使っているみたいで、声はすれども姿は見えず、会場全体に響いていた。
「ふざけんなぁぁあ!」
「俺たちは来たくなかったよ‼︎」
「8年前のトラウマを蘇らせる気か!」
8年前に参加した人たちからクレームがとぶ。
ちなみに、強制参加だから参加者しなかったら罰則があるらしく全員が参加している。前門の虎後門の狼か。
『もちろん、参加した皆様方になんの利益もないことはありません。しっかりと根性、度胸が鍛えられ、強者の前でも落ちつけるようになります』
「それは前と同じじゃねーかー!」
「トラウマでむしろ弱体化したわ‼︎」
『さらに、今回の肝試しでは優勝賞品があります』
優勝賞品?
『優勝者には次の3つのうちの1つが選べます』
そういって空中に魔法で投影されたものがった。
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①ギルドの受付嬢の中から好きな人と1日デート券×10
②ランクUP
③冒険者に聞いたほしい魔道具BEST5
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「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!まじかよ!!」」」」」
単純であった。
「うーん、①と②は別にいらないな」
「でしたら③を狙いましょうか」
俺たちは別にそこまで商品を求めてるわけじゃないからな。というか、優勝条件はんなんだろう?
『優勝条件は、今回は気絶しなかった人が集まってじゃんけんで決めます』
適当だなおい。
『ですが、今回は以前の100倍怖くなっていますので、気絶しない人がいない可能性の方が高いです。では、野郎どもがんばれよ!!』
こうして肝試しは始まった。
あらかじめ配られた順番によって一組ずつ森に入っていった。
森から
「ぎゃあああああ!!」
「タスケてぇぇぇぇ!!」
「いやだぁぁぁぁぁ!!」
と、いろいろな絶叫が聞こえるな。
ちなみに、森の奥まで行ってその奥にある今回のためだけに作られた祠にある証を持って帰ってくればよいのである。なお、行方不明者の捜索は翌日の昼からだとか。出るんだ・・・・。
「さて、次はゼロさんとハクロさんです」
あれよあれよという間に俺たちの番になった。
森の中には言うと以前より不気味であった。あたりは暗く、夜目がきいても怖いな。
「ハクロ、大丈夫か・・・って」
「こ、こわいですねゼロ様」
そう見ても超怖がっているのだが。顔色が少し悪くなり、足が細かく震えていた。
どうやら参加者の悲鳴を聞いているうちに怖くなったようである。
「お前な・・・怖いなら腕につかまっていろよ」
「はい!!」
そういってがっしりつかまってくるハクロ。腕をつかまれた瞬間に柔らかいものが当たっているのだが、今の雰囲気からして感じ取る余裕は余りない。
「ひぇえぇぇぇぇぇぇ!!」
「もぎゃあぁぁぁぁっぁ!!」
なんかまだ悲鳴が聞こえる。そして、悲鳴が聞こえるたびにハクロが強く腕をつかんでくるが・・・。
めきっつ!めききっ!!
そのたびに腕が折れそうな音を立てるんだが。この肝試し中に腕が折れそうなので身体強化のエンチャントを重ね掛けしてはいるが、それでもそっちが不安だった。
目印の看板があるため迷うことは余りないが、お化け役で出てくる人がなかなかいない。
「なんか脅かす人がいないな」
「そ、そそ、そうですね」
もうものすごく怖がっているよ。目から涙が出ているよ。普段は美しい見た目だけになんか可愛かった。
「うぉぉぉぉぉぎぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃーーーーーっ!!」
べぎぎぎぎぎぎぎぎ!
「痛ったぁぁぁぁっ!!」
脅かし役の人が出た瞬間、ハクロが可愛いような叫び声をあげ、その瞬間俺の腕を思いっきり抱きしめられて腕が危うく変な方向に曲がりかけた。だが、今更腕話せともいえないしなぁ・・・。
「ぜ、ゼロ様大丈夫ですか!」
「あ、ああ大丈夫だよ。ただできるだけ力を入れないで」
「ばあっつ!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
むぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
「もが、がっ!がががが!!(ちょ、胸が!息がつまるって!!)」
今度は体全体を抱きしめられ、頭を胸に押し当てられた。ハクロは胸は大きいのでその柔らかさと圧迫差に押され、危うく窒息しかけているのだが、恐怖のあまり俺を胸に押し当て続けた。
「みゃぁぁぁっ!!」
ぎしい
「ふぁぁぁぁ!!」
めきっつ
「うわぁぁぁっ!!」
ぎちっつ
「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
ぼきっつ・・・・・
あ、今確実に右腕が折れたな・・・。痛みはあるのだが、それよりも窒息しておるんだが・・・・。
そのまま俺たちは俺のは体がだんだん力が入っていかなくなるとともに、やっとこさっとこ祠についた。
「ぜ、ゼロ様大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃない・・・・」
ここまで着くのに窒息死しかけ、右腕が折れて体中の骨が悲鳴を上げていた。帰ったらスラ太郎に治療してもらわんとまずいな・・・・。あ、もしかして。
そこで俺はある可能性に気が付いたのだ。
今回の肝試しで文句を言っていた冒険者たち。彼らは今回は皆男ペアで組んでいた。
もしかすると、以前は女性冒険者と組んでいたかもしれない。だが、女性とは言え冒険者。腕の力は冒険者ではない人に比べると確実に強い。
そして、恐怖で抱き着く際にペアの男性冒険者たちを抱きしめ殺しかけていた可能性があるのだ。
そのためトラウマになったものが出たのであろう。なんか納得いくような予想であった。
それで今回は男性同士で組んだのであろう。男同士なら抱き合いたくはないからな。
「あ、証がありましたよ」
「これを持って帰ればいいんだったよな」
まあ、今はそこまで気にする必要もあるまい。
証を持って帰ればやっと終わると安堵したその瞬間、
「ひーっひっひっひっひっひっひっひ!!」
証を持とうとした瞬間、祠が開いて中から不気味な人形が出てきた。
ここで俺は過ちに気が付いた。
安堵した瞬間が最も恐怖を感じやすくなるという肝試しの鉄板を忘れていたことに。
そして、今俺がいる位置はハクロの手の届く範囲である。つまり、
「き、きやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
がっし!ぼききききききききききききききき!!
「もっがががががががががががががっ!!(ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)」
がっしりハクロに体全体をつかまれ、ハクロの放漫な胸に押し当てられながら俺は全身の骨が悲鳴を上げて、そのまま意識が薄れたのであった・・・・。
翌日。優勝者は結局ジョイントさんに決まったらしい。彼が選んだ景品は①だったが、それはすべて友人全員に配られたようである。
俺にも届いたが、使い道がないので他の冒険者に譲った。
『すいませんゼロ様・・・・』
「危うく死にかけたからな」
そしてハクロは危うく俺を窒息死and全身骨折させかけたのでその罰として俺が許すまでしばらく従魔用空間にて謹慎させたのであった。
次また開催されたら、今度はアルテミスに乗って逃げるか、ハクロ以外のメンバーと行こうと俺は固く誓ったのであった。
後日談
参加者のうち、95%が気絶したらしく、捜索隊が出されたのだが、その後救助された人たちはしばらく引きこもったそうな。
次回から新章です




