『見ちゃいました☆』
前の話の一部後日談あり
リーゼのコンサートから数日後、コンサート前に辞めたアイドルたちは全員土下座して戻ってきたらしい。なんでもアイドルをやっていた時には見えていなかった世の中の厳しさとやらを文字通り身に染みて学んだという。金を積まれて辞めたらしいが、辞めてたった1日で使い切って路頭に迷ったという。そして、それからしばらくは何かしていたようだが・・・。
一応、ゼルゲさんはいつまでもリーゼに頼れるわけではないのですぐに雇い直したそうだ。まあ、少し減給したらしいがそれでも泣いて喜んでいたという。本当に一体何があったんだ・・・。
そして、今俺は自分のずっと忘れていたスキル「隠蔽2」を使用して王都を散策していた。自身の姿を消せるこのスキルは実質ほとんど使用することがないが、たまに使ってその感覚を覚え直している。使う機会があったら使いたいからね。
「ん?」
ふと、路地裏に入っていくアルテミスの姿が見えた。
今日はこのスキルの使用のこともあり、みんな自由行動を許可していてそれぞれ思い思いのところにいる。
そんな中で、てっきりどこかの飲食店にて大食いでもするのかと思っていたがどうやら違う方に行っているようである。
スキルを使用しながら後をつけてみると、スラム街近くにある教会のような建物にアルテミスは向かっていた。
「あ!ドラゴンのお姉ちゃんだ!!」
「ホントだ!!久しぶりーー!!」
なんかわらわらと子供がアルテミスの周りに集まっていった。
「おー久しぶりじゃのー」
「ダンジョン行ってたて聞いたけどどうだったの!?」
「ダンジョンでの話を教えてー!!」
どうやらここは孤児院のようである。そして、アルテミスは今、子供たちに囲まれてうれしそうな顔をしていた。
聞こえてきた感じからして、これまで何度もここに来ていたのだろう。
アルテミスの意外な一面を見た気がした。
しかし、この孤児院に通っていた話は聞いていない。たぶん、自分のイメージ的に見られたくはないだろうと俺は察して、その場から去ろうと思ったときだった。
パキン!
(あ)
「誰じゃ!!」
うっかり足元に落ちていた枝を踏んずけて、その音にアルテミスは気が付いたようである。
「そこの姿を消しているやつ出て来い!!見えなくても臭いで今わかったぞ!!」
ということは気配までは気が付かなかったのか。
仕方がないので俺はスキルを解除して姿を現した。
「え?あ、主殿・・・?」
「えっと・・」
なんかすごい言いにくい雰囲気になった。
「主殿、どのあたりから見ていたのじゃ?」
「ここに入るころから」
「ということは全部・・・」
「見ちゃいました☆」
シュッ、ボオォォォン!!
その瞬間、アルテミスの顔が一瞬で赤く染まって湯気が出て爆発した。羞恥がどうやら、今の一瞬で振り切れたようであった。
「主殿!!このことはできればほかの皆にはいわないでくれ!!特にハクロに!!我のイメージ的なものに関わるしなんかわらわれそうなのじゃ!!」
孤児院の中で、羞恥のあまりに爆発して気絶したアルテミスは今土下座をして頼み込んできたのであった。
「いや、別にいいんだけどさ・・・」
むしろ、今の周りの目がちょっとね・・・。
「ドラゴンのお姉ちゃんが土下座している・・」
「もしかして彼氏か?」
「いや、主とか言っているからたぶん、姉ちゃんっが使えている魔物使いだぜ」
「ということはあれが怪物殺し・・?」
周りの子供たちのひそひそ声が聞こえるんだが・・・・。というか、子供たちの中でもそういわれるのね。
「ま、別にいいんだけどさ、そんなに恥ずかしいことをしているのか?」
「じゃって、我のこう、頼れる高貴なお姉さん的なイメージが、保育母的なものになってしまうのではないかと・・」
そんなイメージを自分に持っていたのかよ。間違っているようなあっているような。
「少なくとも、アルテミスは別に恥ずかしいことはしてないぞ。むしろ誇らしいと思うがな」
「へ?」
「だって、ここの孤児院に通って子供たちの相手をしていたのだろう?しかも、その懐かれ方からしてかなり優しく接していたんだろ?それならいいことじゃん」
「でも、我のイメージが」
「イメージがなんだ!別に堂々とやってもいいことだと俺は思う。イメージを気にするほどこれは恥ずかしいことか?」
「・・・主殿の言う通りじゃの。そうじゃな、イメージがどうこうとかは主殿にとっては些細なことか。目から鱗じゃったわい。確かに、別に話していいことかもしれんの」
話を聞くと結構前からここに通っていたという。なんでも「魔桜」を見に行く際にここを管理している人と知り合い、それからここの孤児院に通って子供たちの相手をしたりしていたそうだ。
「それでな、今日ここに来たのは孤児院の経営しておる園長、エルフのキャイさんが風邪をひいたらしいんじゃ。そしてしばらくここにきていないらしくてのぉ、ここの孤児院のお手伝いをしておる他の冒険者のその話を聞いて、我は今日ここに来たんじゃ」
「ふーん、ということはこの孤児院ってそのエルフの人と、他の冒険者たちが手伝っているんだよな。俺も手伝おうかな・・・」
「主殿に手間をかけさせたくはないが・・・それはうれしいの」
「ついでに全員で今孤児院の手伝いをするか」
「ま、もう秘密にする意味はないしのぉ。あ、ハクロが我をこの件でからかおうとしたらしっかりと叱っておくれ」
「わかったよ」
その翌日、俺たちはまたこの孤児院を訪れた。ハクロがアルテミスに対してからかおうとしたので、ちゃんと叱ったが。
「この孤児院ですか。結構ボロボロですね」
ハクロのその感想はまあ、あっている。
「このぐらいなら一応すぐに直せますけど、ご主人どうします?」
カトレアなら確かに直せそうなんだよな。あの屋敷も直せるんだし。
「じゃが、勝手に修繕してよいものじゃろうか?」
「いいと思うぜ姉ちゃん!!」
「直してあげたほうが園長さんも喜ぶよ!!」
子供たちからは同意が得られた。
「よし、カトレア直せるな?」
「お任せくださいご主人、この程度なら20分ほどで完了します」
20分後・・・
「ついでに色も塗りなおしました」
「うわすげぇぇぇ!!」
「この木のねーちゃんすごすぎるよ!!」
「しかしカトレア、気のせいかなんか修繕前よりなんかサイズが大きくなっていないか?」
「いえ、この孤児院本来の姿にしたまでですよ。さすがに改築・増築まではしてません」
「しかしな・・・」
カトレアの手によって孤児院は修復された。なんか見た目が前よりもきれいになっていて、前とは見た目がもはや違う。あの番組のBGMが聞こえそうだな。
ついでに、その作業中俺たちは子供たちの相手をしていた。俺はダンジョンでの話、ハクロは糸を使って人形劇、スラ太郎は眷属のスライムの中から安全な奴を出して子供たちと冒険者ごっこ、アルテミスは本を読み、リーゼは歌を一緒に歌っていた。
さらに、アルテミスを姉御と慕っている冒険者たちやリーゼの歌につられてきた人たちまでもが集まって手伝いをしていてくれた。
その日以降、俺たちはたまに孤児院を訪れるようにしたのであった。
後日談
あまりにも見違えた孤児院を見て、キャイさんは今度は腰を抜かしたせいで腰を痛めたらしい。なんか悪いことしたような・・・




