『ダンジョンに災いをもたらすもの』
前回の続き
「我が名前はジョンマイル・グリン・ガハラッド。このダンジョン都市の領主でもある伯爵さ」
黒魔石を使っていた男はそういった。
「ガハラッド伯爵・・・確か、伯爵という地位でありながら冒険者としても活動しているという貴族だったかな?」
「正解だよ。よく知っていたね」
あっはっはっはと軽快に笑うガハラッド伯爵。その姿はどことなく不気味に思えた。
「そうさ、我輩は伯爵という地位でありながら、退屈な日常が嫌で冒険者にもなっている。ランクはCだがね」
「Cランクであの炎の魔法?確か、ガハラッド伯爵は戦士系の職業で、全く魔法が使えないと聞いたが・・・」
「そこでこいつの出番さ」
ガハラッド伯爵は高々と黒魔石を上にかざした。
「君自身も知っているだろう?あのハグエェの怪物事件を」
数年しか経っていないが、まだはっきりと覚えていた。
「我輩はね、あの事件の時にいた貴族なのさ。その時にこの黒魔石の存在を知ってね、なんとか手に入らないかと探ったのさ」
「なんで手に入れたかったんだ?怪物化する危険性があるだろう?」
「怪物になるのは単に扱い方を間違えた人だけさ。使用方法さえしっかり守ればそんな危険性はないさ」
これまでは間違えた使用をされただけだというように、悲しそうな目で黒魔石を見ていた。
「ああ、それと手に入れたかった理由かい?このダンジョン都市をダンジョンから守りたかっただけなんだよ?」
「どういうことだ?」
「黒魔石が魔力を吸収できる力があるってことはあのハグエェが言っていたよね?それを聞いて考えたんだ
。ダンジョンは20年に一度、モンスター・パニックが起きる。ならば、起きたときにモンスターから魔力を奪って弱らせて、倒しやすくして被害を減らせないかと思ってね」
意外にもかなりまともな理由である。確かに、魔力を奪われたモンスターは弱体化する。ならば、その方法を使えればモンスター・パニックの被害を減らせそうであった。
「それに、吸収した魔力はさっきボスモンスターを倒した時のように魔法に変換してだせる。つまり、もしこれを大量生産できれば誰でも手軽に魔法が使えるようになるのさ!さらに魔道具に組み込むなどしても使える!素晴らしい可能性が広がっているのさ‼︎」
言っていることは確かにまともだ。だが、喋り方からしてどこか狂気じみたものが感じられた。
「お主、黒魔石に若干精神を飲まれていないかの?強すぎる力は精神をも飲み込む。いくら使用方法とやらを守っても、その力は蝕んでいくのではないか?」
「何を言っているんだいエンシェントドラゴン君」
「我は女じゃ!君付けはいらん‼︎」
「これは失礼。まあ、確かに若干精神を蝕まれているかもしれないね。けどね、我輩はただ、ココのダンジョンからミなをまモリタイだけな・・・あレ?ナんかウマく話がデきナイ・・・」
なんだか様子がおかしくなった。急に黒魔石が黒く点滅をし始め、喋り方が所々変になっている。
「な、ナンだこれハ‼︎か、カラダガうごカナイ‼︎」
どうやらガハラッド伯爵自身にも理解できていないようだった。
だんだん点滅が激しくなっていき、黒魔石からあの黒い霧のようなものが徐々に出てきた。
「あーあ、やっぱりだめだったのか。今回は暴走しないと思ったんだけどなー」
「誰だ⁉︎」
いきなり誰かの声がし、振り向くとそこには前にも会った仮面の男がいた。
「ヤッホー、久しぶりだねぇ。怪物殺し君」
「お前は確か前にも会った仮面の男!」
「おや、覚えていてくれたんだねぇ。嬉しいから一ついいことを教えてあげよう。あの伯爵、やっぱり暴走しちゃったよ」
「悪いことの上にみりゃわかるよ‼︎」
伯爵はだんだん黒い霧に包まれ、また怪物になるのかと身構えた次の瞬間、黒魔石が砕け散った。
「へ?」
「あー、暴走しかけたけど耐久性を落としていたから怪物になる前にも耐えきれなくて壊れたのか。あれ?でも黒魔石から出た霧は残ってる?」
黒い霧はそのまま伯爵からはなれたかと思うと、ダンジョンの床に染み込むように消えた。
「ど、どうなっているんだ?」
「ん?我輩は今まさに取り込まれかけたのになんともないぞ?」
黒魔石が砕け散った瞬間に、どうやら伯爵自身も黒魔石から解放されたようである。
「あーっ⁉︎お前は我輩と黒魔石を取引した仮面の男‼︎」
「伯爵の自我もしっかりしている?黒魔石に魔力を少し奪われただけか?」
伯爵はなんともなかった様子で元気で、何か考え込んでいる仮面の男に詰め寄った。
「使用方法はしっかりしたのに飲み込まれかけたではないか⁉︎どういうことだ‼︎」
「単に、力に抗えていなかっただけだと思うよ。使用方法を守っても、使用者の器が小さいだけじゃないかな?」
グォォォォォォォォォォン‼︎
「な、なんだ一体⁉︎」
いきなりダンジョンが大きくゆれ、うなり声のような音がしたかと思うと、ダンジョンが振動し始めた。
「あー、なるほど。そう作用したのか」
仮面の男は何が起きたのかわかったようである。
「・・・⁉︎」
リーゼがいきなりゴーレムの中で暴れだした。その顔は蒼白で何かに怯えているようだった。
「どうしたんだリーゼ‼︎」
どうやらかなり慌てているようでうまくジェスチャーができていない。
「主殿、リーゼはこのダンジョン出身。もしかしたら我ら以上にこのダンジョンに対して何か感じておるのかもしれん」
「何かやばいことが起きそうなのか?」
「◯」
どうやらやばいことが起きそうである。
「急いでダンジョンから出るぞ!転送室まで急げ!」
俺たちはまだ何かと言いあっていた伯爵と仮面の男をハクロに縛って引きずってもらいながら急いでダンジョンから出るために転送室へむかったのであった。
あの黒い霧はどこへ向かったのか・・・




