閑話 帝国軍会議
まだ戦争は続くよ。
「なに?全員捕虜になっただと?」
「はっ、確かにそのようになったと、定期連絡魔導部隊からの連絡がありました」
王都から少し離れた森に陣取られた帝国軍の陣地内にて、昼間に送り出したガルバン先行突撃部隊が全員捕虜になったという知らせが届いた。
「馬鹿な、先行部隊とはいえその数は2000人いたはずだ。それなのにそんなに大勢がたった1回の出撃で全員捕まったというのか!!」
今回の侵攻にて、全権を任されている帝国軍のブデール将軍は、その腹周りについた肉をふるわせて怒声を放った。
「はい、それも罠にかかって」
「罠だと?」
「なんでも沼地の罠だとか」
「そんなものにひっかかるとは情けない。それでも貴様らはこの帝国軍の兵士か!!20年以上たってその腕さえもさび付いたというのか!!」
腹周りに重そうな肉がついて、全身がたるんだような体系になってもそこは歴戦の将軍。その迫力だけはいまだに衰えてはいなかった。
「で、ですが今回その罠を張ったのはゼロという冒険者によるものだという報告もあります」
「ゼロか。確か『怪物殺し』だったよな」
ゼロの名はその本人があずかり知らぬところで実は結構広まっていた。『怪物殺し』という異名が付き、従えている従魔たちの推定ランクは全員Sランク。そして本人の実力も『怪物殺し』の名の通り怪物すら倒すほどであるという事であった。
「その噂は確か数年前からあったよな。なぜそいつを我が帝国に勧誘していないのだ?それに、それだけの実力があるならば他の国からの勧誘を受けているはずではないか?」
「調べたところ、実は王国側についているというわけでもないようです。単に今の活動拠点としているのが王国側にあるというだけでしょうが・・・。今回の戦争にも、おそらく冒険者であるため雇われただけのようなものかと」
「本当にただ雇われただけか?そいつはどうも自分の意志でわが軍をとらえたようにしか思えないんだが」
体形が緩んでいても心までは緩んでいない将軍。その考えは実は結構正解に近かったのであった。
「しかし厄介だな。怪物殺しが今王都にいるとは・・・」
「少し前の報告ではいまは離れているとありましたからね。それを信じて今こうして進軍していたというのに」
帝国軍は『怪物殺し』の異名を持つゼロとはあまり戦いたくなかった。そんなやつと対峙したらこちらが確実に負けるだろうとわかっていたためである。
「だが、今更引き返すわけにもいかんしな」
「でしたら本国に増援を頼んではいかがでしょうか?」
「馬鹿を言え。今ここに集結しつつあるのが全軍なんだ。増援なんかできるか!」
「それならば、いっそのこと数で攻めるのはどうでしょう。いくら怪物殺しでも体は一つ。東西南北と周りから攻められれば対応しきれないに違いありません!」
「なるほど、その考えがあったか・・・。よし、ならば各隊にそれぞれ割り振って東西南北から同時に攻めさせろ!その伝令を伝えろ!!」
「はっ!!仰せのままに!!」
かくして、帝国軍の作戦が用意されることになった。
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その様子を見ていた者たちが近くの木の陰にいた。
「なるほど、そう来たのか・・・YO」
「東西南北周りから同時って、数がなければできないですよね」
「だが、そんなことは無駄だと思うな。彼はその程度では簡単にはやられないだろうし」
「じゃあ、今回も静観という事か・・・YO」
「そういう事にするけど・・・口癖が治っていないよ?」
「気に入ったんですか?」
「いYA!なんか慣れてしまったようでYO!いい加減止めたいのに治らないんだyO!」
「「お気の毒に・・・」」
一時の変装のためにわざと付けた口癖が治らない男を見て、残る二人はなんか申し訳ない気持ちになったのであった・・・。
「いつになったらこれ止まるんだYOOOOO!!」
なんかこの人の口癖直したいのにさ、全く治らないんだよね。国王様と同じかな?




