第二ノ一話 「栃木県 駅前焼き鳥店の昭和レトロから席に座るまで」
以前の投稿より日が経ってしまいました。
頭に残る記憶と、レシートを頼りに執筆していきたいと思います。
俺は今、特にビールを欲していた。
以前、友人からおススメの居酒屋なる物が地元にあると聞き、俺はネットでその店を調べた。
駅の近くに位置した居酒屋であり、アクセスのしやすさからその居酒屋が気になってしまった俺は、財布の景気が良い時期に出向こうと心に決めていたのだ。
そして今、ついに財布事情が良くなった今だ。俺はその店を目指し、駅前居酒屋道楽を突き進んでいた。
いつも思うが、駅周辺の居酒屋事情は中々良い。チェーン店から個人経営のせまっ苦しい店も点々としている。
中でも海鮮と焼き鳥の二大勢力の戦力図が実に激しい。
サラリーマンが駅西口を出て最初に目にする店は浜焼きもある海鮮中心の居酒屋。漁師たちが仕事終わりに「一杯ひっかけに行こう」と勇み入るような、大胆で古臭い佇まいの店である。
古い物が懐かしく好みの世代な所謂オッサンリーマン達にとってこの店は、会社の事を交えながら杯を酌み交わすには絶好の店なのだ。
そして雰囲気はガラリと変わってもう一方の勢力、焼き鳥。
この前も俺は焼き鳥の店に入って独り飲んだ。あの店はその漁師が入りそうな店のまさに隣に位置していたのだ。
その店の他にも、向かいには焼き鳥中心のチェーン店が一軒。東口に至っては海鮮の勢力は薄い、殆どがチェーン店と焼き鳥に占領されていると言っても過言では無いだろう。
今、この駅周辺の戦局は焼き鳥勢力が優勢であるのだ。
そして今から向かう店。そこも、焼き鳥が看板商品である居酒屋なのだ。
この前の店よりも串の値段は安い。正直、俺はその店を期待している。一体どのような店なのかと。
頭の中でまず何の串を注文しようかシミュレーションしつつ、俺は駅のロータリーを尻目に小道へ入る。すると店はすぐに見つけられた。
駅前デパートの立体駐車場出口横にある、比較的細長いビルの一階部分。
平成の世の中に似つかわしくない昭和レトロ雰囲気を漂わせる居酒屋が、そこにあった。
外からでも良く分かる。焼き鳥の良い匂いが煙と共に排出されている、こりゃぁ堪らん。
そのまま秋の風に吹かれながら物欲しい思いをしていても状況は変わらん。俺はさっさと店の戸を開け、中に入った。
店内には既にサラリーマンの客で盛況だった。複数あるテーブル席は満員、カウンターはと言えばこちらはガラ空き状態。二人のおじさんが酌をしあっているのが入口から見て取れた。
と、ある一人の若い男の店員がこちらに気付き歩み寄ってくる。
「いらっしゃいませー。何名ですか?」
そう言った店員の髪は、茶色だった。まさに今風。ピアスなどはしていないものの、ファーストコンタクトはあまり良くなかった。
「あ、一人です」
そう言って俺は右人差し指をピンと立てる。「かしこまりました」と茶髪店員は言うと、顔だけカウンター前の厨房に向け一つ、
「お客様一名入りまーす!」
焼き鳥を焼く強面のオッサンや、他のツマミを作る別の若い男の店員たちに聴こえる様に言い放った。
「じゃあ、カウンターのお好きな席へどうぞ」
そう言って、男店員はすぐに厨房へ引っ込んだ。間もなく、テーブル席からサラリーマンの「すいませーん」が飛び出し、またすぐに客席へ出てそのテーブルへと店員は向かって行く。
「ホッピー中おかわりと焼き鳥五本盛り二つ、全部塩で。……あとー、塩キャベツ」
三十代くらいだろうか、サラリーマンが人差し指で壁掛けのメニューを差しつつ要求する。男の店員はファミレスとかでよく見掛けるタッチしてオーダーを入力する機械を操作し「以上でよろしいですか?」と言い、また厨房へ引っ込んで行った。
やけに忙しい店だ。店内もBGMが聴こえないくらいの騒ぎで、閑古鳥の鳴く暇も無い。
……これは、もしかすると当たりかもしれない。
俺はそんな事を頭に浮かべながら、適当な椅子を選び腰を落ち着けた。