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第三ノ一話「栃木県 オフ会帰り、駅前のチェーン居酒屋」

 国道五十号線から駅まで歩けば疲れる。


 そんなもの百も承知だったが、思った以上に疲弊してしまったようだ。

 足が痛い。新調した靴をオフ会で履いて来たからか、靴擦れを起こしてしまったようだ。

「……強がらないで素直に迎えを呼べばよかったかな?」

 と、歩きながらポツリ呟く。

 オフ会の後、近くにあったパチンコ屋に寄ってみたが、これといって目ぼしいパチンコ台も無かったからすぐ店を出た。その時の時間や七時近くを回っていたから、俺は悩んだ。

 迎えを呼ぶか、呼ぶまいか。

 きっと、家族は今頃夕飯を食べているのだろう。そんな中、迎えを呼んで席を立たせるのも心苦い。

 そうして考えた結果、折角だからと俺は歩いて帰る事を選んだのだ。

 しかし、かれこれ歩いて三十分以上。足は痛いわ、精神的に疲れが溜まるわ、肉体的にも疲労が積み重なっていくわで、まさに心身ともにヘトヘトな状態であるのだ。


 川のように流れる時間は止められない。すでに短針は八時近くを指している。ヘトヘトが、過ぎた時間と相まってペコペコに変化してしまっていた。

 気が付けば、俺はもう駅周辺にいた。

 背に腹は変えられぬ。

 俺は財布を開いた。中には諭吉が一人と野口が二人、樋口は外出中のようだった。

 残金一万二千と小銭がいくつか、か……。どうやら余裕はあるようだ。

「……そうと決まれば」

 呟き、俺は脳内である店をイメージする。

 前々から気になっていた居酒屋があったのだ、そこへ行こう。

 自然と足先がその居酒屋へと向く。

 茶色が基調とされたあまり明るくはない装飾、オシャレな古風空間。

 明らかなチェーン店特有の雰囲気を醸し出す焼き鳥がウリの店。

 店に向かう途中、俺は頭の中で算段した。

 まずは何を頼もう、何を飲もうかなと。

 昨日はパジャマパーティーという名のお泊り飲み会に参加した。だから、しこたま飲んだはずなのだ。

 それなのに、俺の脳は肝臓の警鐘を聞き入れもしない。

 まずはやはりビールか? いやいや、ビールは昨日嫌と言う程飲んだ。ならば日本酒か? と。

 そしてツマミだ。ツマミは何が良いだろう。

 やっぱり焼き鳥か。串がウリの店だ、それも悪くはないだろうが……。ここは敢えて別の何か――そう、刺身とかを注文するのも良いかもしれない。

 次第に歩く速度が増していく。俺は足が痛かったんじゃないのか?

 このアルコールに対する自分の健康に糸目を付けない性格、なんとかせねばなるまいな。


 店に着いたのは八時一分過ぎだった。

 駅前はいつでも賑やかだ。日曜出勤のサラリーマンやら、東京からの帰りなのか夢の国の紙袋をぶら下げている若者もいる。

 ――おっと、あそこには俺と同類もいるようだ。アニメ柄の紙袋……どっかの同人即売会の帰りとかだろうか。

 有象無象が各々考え行動し蔓延る唯一の場所、それがこの駅前。

 そしてその駅前……正確に言うと、駅の中にある串がメインの居酒屋。

 俺はその目の前に仁王立ちして、店の状況を確認していた。

 日曜だってのに大盛況だ、出て行く人と入って行く人が休まずに代わる代わるやって来る。

 みんな、自らの肝臓を試しにやって来たのだろうか。俺も、早々に試したい。

 店の前にある、テーブルにある物よりも少し大きなメニュー表を、近付き見下ろしてみた。

 ドリンクの一番最初はやはりビールだ。そこからチューハイ、ハイボール、日本酒、焼酎と続き、カクテルやワイン、下戸向けにソフトドリンクで収まっている。

 食べ物はと言うと、やはり店の特徴、長所でもある串物が先頭を切っていた。

 焼き串に揚げ串、見れば様々な物を焼いたり揚げたりしている。

 ――トマト揚げだと? 三個ほどの衣を纏ったプチトマトが串に列を成して皿に横たわっている写真だが……トマトって、揚げられるのか?

 チーズやらアスパラガスやら……串の名前を冠している店だからか、串にはやはり相当のこだわりを持っているようだ。

 串物の次は海鮮もの。これは申し訳程度といったほどか、刺身やほっけ、寿司なんてのもあるが串よりは品数が少ない。

 海鮮の次は枝豆などの一品物が顔を出している。その後にはご飯ものが重鎮の如く腰を下ろしているのが見て取れるが、今日は眼中にない。

 メシは帰ればいくらでもある。俺は居酒屋メニューでご飯ものを頼まないことで有名なのだ。


 さて、ここまでで俺は一通りのメニューを窺う事が出来た。あとは作戦を立てるだけだな……。

 まずやはり最初のドリンクはビールだろう。昨日はオフ会で海外ビールを山ほど飲んだ。

 ――が、これでも俺は呑兵衛の端くれ。呑兵衛が「とりあえずビール」に行かずしてその名を語れるか? 否、語る事はできない。寧ろ騙っている。

 そしてこの店にはどうやら瓶ビールが置いてあるようだ。ならば決まり。

 まずはビールだ、瓶ビール。

 いつもいつも生ビールだし、たまには自分で注ぐビールもいいじゃないか。

 問題は二番打者だ。

 相次ぎビールもいいが、昨日大量に飲んで胃は警報を鳴らしている。

 ここは炭酸ではなく日本酒で行こう。焼酎も捨てがたいが、まだ少し肌寒いこの季節。日本酒の熱燗もまた良い。

 よし、とりあえず開幕二番打者までは組んだ。後続は店の中で決めるとしよう。


 で、お次は食い物ときたもんだ。

 勿論串は行く。皮、つくね、ももにねぎま……せせりが無いのが残念だ。

 以前、ある店に行った時に初めて食べたせせり。あれ以来、俺は焼き鳥でせせりというものが好物になってしまったのだ。

 ……まぁ、無い物は仕方がない。ここは砂肝かハツ辺りで我慢しておこう。

 海鮮ものは……いや、刺身もほっけもいらぬ。ここは串で攻めて行こうじゃないか。

 幸い串の量は豊富。焼き串に揚げ串。トマト串なんてものに手を出すのも悪くはないんじゃないか?


 よし、作戦は決まった。


 これより、第一次串系チェーン居酒屋、侵攻作戦を開始する。

 者どもよ――いや、私の肝臓よ。

 連日の戦となるが、呑兵衛魂を見せつけてやれ。

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