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太陽の下に隠れた傍観者  作者: 紗倉 悠里
≪第一章≫ 裏表裏。
4/17

煌びやかで華やかに



「ちょっと、なにやってたんですかっ!」

 ボクが、満足してスキップしていた時だ。

 後ろから、誰かがこちらに走ってくる音がした。


 ……時雨か。


「なんだい、時雨。ボクは、髪色に文句をつけてきた野郎に、当然の報いを……って、思っただけなんだぞ?」

 くるっ、と振り返って、時雨に向かってそういった。

「俺がちょっと迷ってた間に、……はぁ。困りますよ、本当に。悪いイメージしかつきませんよ?」

 時雨は、そういって、ふぅーっと、態とらしく肩を竦めた。しかし、肩を竦めたいのは、実は、ボクの方であった。

 校門から、一階の廊下まで。人間しか障害物が無い中で、時雨はどのようにして迷うのだろうか。

 あり得ないだろう。どれだけの方向音痴でも、なかなか間違えないぞ。

 

 ――どう考えても、“ちょっと迷ってた”じゃないだろう。ボクの悪いイメージはともかく、お前の方向音痴は。


 まぁ、ボクがあれだけ暴行していたから、時雨がいなくてちょうど良かったけどね。

 中途半端に時雨に、喧嘩を止められたら、それほど銃を連射してしまうに違いない。

 まぁ、今日は普通の高校生って設定だから、銃は、“傍観者(ノーサイド)”に没収されちゃったけど。


 実際、時雨の方向音痴は、ボクや“傍観者(ノーサイド)”が呆れるほどに、大変なものなのだ。

 分かりやすく説明するのさえ、難しい。

 そうだな……いわゆる、「元きた道が戻れない」ってやつかもしれない。


 これは、四年前の話。

 あ、ちなみに、これは余談なのだが、ボクは、もう十年前からずっとこの姿なんだよ。ツインテールの、幼女の格好。

 さて、話を元に戻して……えっと、なんの話だっけ?

 そうそう、時雨の方向音痴の話だっけ。


「おーい、時雨ー?」

 “傍観者(ノーサイド)”が、面倒臭そうにしながらも、声を張り上げた。

 ――それも……森の中で。


 なんで、ボクたちがこんな森の中で時雨を探し回っていたのか、それにはある意味で重大な理由があった。


 ボクと“傍観者(ノーサイド)”と時雨は、街の花火大会に来ていた。元々、ボクと時雨はそれほど乗り気ではなかったのだが、ある有名な花火技師が来るらしく、“傍観者(ノーサイド)”がどうしても行きたいというので、仕方なくボク達は、その花火大会に向かうことになったのだ。

(はぁぁ……めんどくさいな)

 その時のボクの感情は、そんな感じだった。


 さてさて。花火大会には着いたものの、人が多すぎて花火どころじゃなかった。

 というか、ボクは人ごみに飲み込まれて、流されてしまいそうだった。 

 ってことで、ここらへんの地図に詳しい“傍観者(ノーサイド)”の提案で、森の木の上から見ることにした。

 森の道を三人で歩く。暗い夜道は、正直言って、怖くないものでは無い。あ、いや、別に怖いってわけじゃないけどね。

「なんで、最初からこの森のことを言わなかったんだ? ここなら最適だし、態々大会で見る必要もなかっただろう?」と、ボクが言うと、“傍観者(ノーサイド)”は、

「雰囲気さ。森から見るよりかは、大会で見た方がいいだろ?」

 なんて、自慢げに返してきやがった。


 ボクは、それに関しては、もう少し口論をしたかった。だから、勿論、言い返す。


「あのなぁ、そういうのは効率を追求するべきだろう」


 ボクは、そう反論しようとした。だが、実際に口に出すことができたのは「あのなぁ」までであった。


 なぜなら、ボクの方を振り向いた、“傍観者(ノーサイド)”の間抜けな声に遮られたからだ。


「あれ? 時雨は?」

「は? 時雨なら、ボクの後ろにいるだろう」


 ボクも、振り返る。そこには、スーツ姿の気怠そうにしている男が居るはずだった。だが……いない。


 つい、冷静なボクでもキョロキョロしてしまう。

 




「はぁ……勘弁してくれよ、大の大人のくせに……」

 “傍観者(ノーサイド)”が、面倒臭そうにため息をついた。


 そして、“傍観者(ノーサイド)”とボクの、ガキ(時雨)探しが始まったのだ。 面倒臭いのは、“傍観者(ノーサイド)”だけじゃない。ボクも、面倒臭かった。


 だって、皆も考えてみて欲しい。


 スーツ姿の大の大人を、幼女の姿をしたボクと、白衣を着た“傍観者(ノーサイド)”が探さなきゃいけないんだぞ?


 もう、そのまま時雨を捨てて行きたいところだが、そんなことをしたら、どうにか帰ってきた時雨が発狂しそうなので、それはやめておいた。

 まぁ、捨てて行ったことがあるからこそ、躊躇することができるのだけど。


「おーい、時雨ー?」

 ボクが大声で呼ぶ。

 しーん。

 森に、ボクの声が響いた。

 しかし、返事をする“生命体”はいないようだ。このボクに返事をしないなんて、後で罰が必要だな。


「はぁぁ……。なんで、こんなこと、俺が……」

 “傍観者(ノーサイド)”が、もう一度ため息をついた。それも、盛大に。

「仕方ないじゃないか。あいつは馬鹿なんだから」

「それにしても、酷いな。僕らの後ろをついてきて、なんで迷子になるんだか……」


 “傍観者(ノーサイド)”は、困ったように苦笑している。

 まぁ、その通りだ。

 あいつの目は、ただ穴に眼球が入っているだけで、機能していないんじゃないか? そんなことをよく思う。


「もう、放っていかないか?」

「まぁ、そうしたいんだけど…そんなことしたら、時雨が……」

「幼児並みに、喚き散らすだろうな」


 はぁ。

 大きいため息と、長い沈黙。


 そして、暫くしてまた探しに歩き出そうとした時だ。

「おーい、“傍観者(ノーサイド)”、“狂った子供(チルドレン)”っ!」

 後ろから……声がした。それは、間違いなく、時雨のものだった。

 振り返ると、時雨が笑顔でこちらに走ってきていた。


「時雨か。お前、何をしてたんだ?」

 さっ、と振り返った“傍観者(ノーサイド)”が、厳しい表情で聞いた。

 すると、時雨は親に叱られた子供のように縮こまる。“傍観者(ノーサイド)”、恐るべしってところだ。

「あ、いや、“狂った子供(チルドレン)”の背中を追いかけてたら、いつの間にか居なくて……」


「つまりは、よそ見をしていたと言うわけだ?」

「あぁ。本当、すまないって」

 ボクが横から口を挟むと、時雨が苦笑混じりに頷いた。


 実は、今の空気は、とても重いんだけど、彼は分かってない。「ちょっと怒られちゃった。テヘッ」レベルの謝り方だった。

 ボクは、あまりの彼の鈍感さにため息をついた。

「それは、罰が必要だね。早速、執行しようかな?」

 ボクが、にこにこと微笑みながら小首をかしげる。

「あぁ。罰がいるな。今から始めるぞ」

 “傍観者(ノーサイド)”が笑った。


 その後、どんな惨劇が時雨の身に降りかかったのかは、もう言うまでもない。





 って事が、四年前の話。


 もう昔の話だから、あまり気にしてはいないけど、そういえば時雨の体を軽く「ゴキッ」って言わせるようなことしたかな。“傍観者(ノーサイド)”も、笑顔で結構やばいことしてた気もするけど、それはもう昔の話。気にしたら、負け。


「ほんと、“狂った子供(チルドレン)”は子供なんですから。髪色程度の挑発に乗らないでください」

 時雨が、昔の思い出に浸っていたボクに偉そうな口をきいてきた。


 なんだい、子供だと? それは、ただの異名じゃないか。それに、『狂った』を付けろ、『狂った』を。お前よりかは、大人だと思うぞ、ボクは。


「は?」

「すいません、なんでもないです……って、え?」


 え?

 今の、ボクじゃないぞ?

 明らかに、男の声だった。それも、初めて聞く声だった。“傍観者(ノーサイド)”でもないし、さっきの強面馬鹿男でもないし……誰だ?


「女の子は髪が命なんだよ、おっさんっ」


 どちらかというと可愛らしい系に入るであろう少年が、時雨を見上げながら、そう言っていた。


「うむ、その通りだな」

 ボクは、彼の言葉に頷いたが、時雨は頷けないらしい。

「ちょっ……!? 俺、もうおっさんに見えますかね?」

 彼は、ぺたぺたと顔を触ってそうつぶやいた。

「20代越えたら、おっさんだろ」

 またまた少年の言葉に、深く頷くボクと、がっくりと項垂れる時雨。

「その通りだ。もう、時雨は『おっさん』だな」


 ボクが面白そうに笑っていると、少年がこっちをちらりとみた。

「うわっ、可愛いなぁ、お前っ! 新入生か、俺と同じじゃねーかっ」

 そして、ボクの手を取り、そんな賞賛の言葉を並べた。


 可愛い、と言われると、やはり照れるものだな。ずっと言われ続けているけども。


「ちょっと待っててな。おーい、真人!! 可愛い子見っけたぞーっ」

 その少年は、『真人』という少年の名前を呼んだ。


 その名前を聞いた時雨の顔が、なんとなく歪んだ気がしたが、気にしないことにしておこう。


「お、おー? 確かに、可愛いけど……どうした?」


 少年に呼ばれて、人の波から出てきた少年は、眠たそうに欠伸をしながらの登場であった。

 頭の上に、寝癖が飛び出ている。俗にいう「アホ毛」というやつなのだろうか。

 黒髪に、黒い目。顔も整っているし、まぁ美男子だ。


「なんだよー、反応薄いなーッ! 折角の美少女だぞ?」

「まぁ、お前みたいなナンパ野郎とは違うからな」

 悔しそうな顔をする少年と、からからと楽しそうに笑う少年。


「おい、お前たち。そんなことより、お前たちの名前はなんという?」

 楽しそうな二人の雰囲気をブチ切るのは、ボク。といっても、普通に質問をしただけ。いつも通りに、ね。


 本当は、ボクに軽々と喋りかけるのはちょっと気に入らないけど、それは口調には出さないようにした。

 すると、二人とも、きょとんとしたが、なぜか、すぐに爆笑しはじめた。


(なんで笑うんだ? おかしいところなんて、あったか?)


 なんだか、一人取り残された気分になった。

 後ろの時雨も一生懸命、笑いを堪えていた。



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