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太陽の下に隠れた傍観者  作者: 紗倉 悠里
≪第一章≫ 裏表裏。
3/17

平和と笑顔


 今日は、桜の花が咲き乱れている。とっても、綺麗な日。


 ボクは、特に意味もなく、道を歩いていた。笑顔の人達が、私の横を通り過ぎていく。幸せそうな人達をみると、それを壊したくなるのはいつものこと。


 でも、そんなこと、しちゃいけない。


 ボクは、自分にそう言い聞かせる。

 そして、立ち止まった。額に何かが降ってきたのだ。それを、額から取ると、目の前に持ってくる。淡いピンク色で、ハートを細長くしたような形のそれは、桜の花びらだった。


――春だなぁ。


 もう春だと分かっているけど、つい、そんなことを思ってしまうのは何でだろう。なんでだろう。


 でも、そんなこと、考えちゃダメっていってるのかな? また、桜の花が上から降ってきた。ボクは、それを両手でキャッチした。

 そういえば、昔はこんな遊びをよくしていたっけ? 友達と一緒に、誰が一番多く集められるか、なんて競争をしていた。

 まぁ、それは、ボクが小さい頃の話で、今はそんなこと、別に興味はなかった。なのに、何故か捕まえてしまったその花びら。

 ボクは、花びらを一瞥した後で、ぎゅーっと握り潰した。二枚の花びらは、私の手のひらの中で潰されてしまった。それが面白くて、その後も何枚か集めては握りつぶした。


 しばらくして、ボクはいつものボクに戻った。やっと我に返ったボクは、周りをキョロキョロと見回す。

 見覚えがある建物が見えた。そこは、丸菜学園の校門の前だったのだ。校門のところには、「入学式」と筆の文字で書かれている紙が、大きく貼り出されている。

「へぇ、今日は入学式かぁ」

 ボクは、そう呟いて、ニヤリと笑った。


 そして、ここまできて、やっとボクは今日の目的を思い出した。さっきまで、全く忘れていた今日の散歩の目的。


 それは、丸菜学園の入学式に出ること。


 そう! 今日、ボクはこの学園に入学するの! もう、全く忘れてて、もうちょっとで意味のない散歩と思いながら帰るところだった! 

 「もうっ、ボクって忘れっぽいなぁ」


 そう呟いて、自分の服装を確かめる。

 いつもの着慣れたワンピースじゃなくて、丸菜学園のセーラー服。白い長袖のセーラー服に、青いリボンとスカートは、よく合ってる……と思う。

 まぁ、いつもワンピースしか着てない私に、そんなファッションセンスは無いから、どんな服でも可愛く見えるんだけどね。 

 そういえば、前のワンピースがもう水を吸わない位に真っ赤になっちゃった時、新しい白いワンピースを買いに行ったけど、レースがいっぱいついているワンピースが何万円もしていて、吃驚した。ちなみに、ボクが買ったのは数千円の安物のワンピースだよ。

 ボクは、服でそんな高いのは、要らないし買えない。

 ま、服の話はどうでもいいや。


 ボクは、丸菜学園の校門を堂々とくぐった。すると、学園の庭の方に、ボクの“保護者役”の人が見えた。


 あの人は、高川 時雨。さっきもいったとおり、ボクの保護者役。ボクが嫌いでは無いけど、好きでもない、ただの保護者役。これは、“傍観者(ノーサイド)”が決めたことだから、従うしか無い。今は、こんなことに逆らってる時期じゃないから。


「おーいっ、時雨! 来たぞっ」

 ボクは、笑顔で彼に手を振った。


 彼は、校庭のチューリップに触れながら、なにか真剣に考え事をしてたけど、私に気づくと、笑顔で手を振り返してくれた。そして、ボクの方に歩み寄ると、いかにも保護者らしくボクの髪を撫でてくれた。


 だけど、ボクはその手を跳ね返す。


「こら、時雨。 ボクに向かって、少し無礼じゃないかい?」

 ボクは、わざと上から目線で言ってみる。でも、確かに彼はボクよりも位が低いから、ボクは悪くない。

 位に、年齢なんて関係ないからね。

「はは、それはすいません、俺としたことが。 でも、今日は入学式ですし、親の役なので、少しは頭くらい……」

「やだ」


 僕は、彼の言葉を遮って、思いっきり断った。


「君がそういうなら、ボクは思春期の娘だからね、お父さんが嫌いになり始める時期、とでもいって対抗しようかな?」


 ボクがにっこりと皮肉を込めた笑顔で言うと、時雨は「あ、はい、すいません」とこれまた薄っぺらい笑顔で引き下がった。


「よし。 じゃあ、そろそろ会場に行こうかな?」

「そうですね、もうちょっとで時間ですから」


 ボクは、時雨の手を引いて、会場へと向かった。





 二人で会場に入ると、たくさんの人がいた。いや、入学式だから当たり前なんだけどね。

 ボクは、ずーっと、生きている人が殆ど居ない世界で生きていたから、こんなに人が居るところは行ったことがなかった。なんかとっても、新鮮。


 時雨の手を引きながら、会場を進んで行く。すると、何処かで見たことがあるような少年二人を見つけた。


 一人は、オドオドしながら歩いていく。彼のポケットからはちらっとチョコレートの包み紙が見えた。

 黒い、綺麗に整えられた彼の髪は、つい触りたくなってしまう。背も高い方だし、きちんと制服を着ているから、頭は良いんだろうね。


 もう一人は、だらしなく制服を着崩している。髪は、染めてない黒色だけど、ボサボサ。ボクの印象からすると、普通の不良ってところかなぁ。

 

 この二人とは面識がある気がして、話しかけようとしたら、時雨に「今は忙しいので、後にしましょうよ?」と言われてしまった。抵抗したいとも思ったけど、事実、忙しかったから、従うことにした。それに、彼等も忙しそうだったから。

 

 そして、二人から離れた時だった。

「あ、あいつ見てみろよ! 髪が青いぞっ」

 後ろから声がした。その後、何人かの男の笑い声。

 イラッ!

 ボクは、軽くキレながら、後ろを向いた。

「なんだい、ボクにそんなこと言うなんて、無礼だろう」

 いつもの口調で後ろを向いてみたら、ボクよりも大きい男達が四人ほど立っていた。リーダーらしい男は、ゴリラみたいな顔をしている。

 (うぇっ、気持ち悪。 こんな奴と話さなきゃならないのか……最悪ぅ。 神様を呪ってやろうかな)

 心の中で悪態をつく。

 この時のボクは、この男もさっきの時雨と同じようにすぐに引き下がるものと思っていた。

 だけど、なんか現実ってのは甘くなかったみたい。


「あぁ?」


 男の目つきが変わる。こいつ、無礼にも、ボクの方を、キッと睨みつけてきた。ボクよりもずーっと位は低いはずなのに。


 (あれ? もしかして、臨戦体勢に変わっちゃった?)


そう思いながら、男の取り巻きをみてみると、取り巻きは、安全な所まで逃げて行ってしまった。

 ボクは、確信した。

 今から、喧嘩が始まる、ってね。

 すると、なんだか、ワクワクしてきた。それに、ドキドキしてくる。

 これ、全身の血が騒ぐってヤツなのかな?

 ま、そんなの、どうでもいいや。

 それより、ボクに喧嘩をしかけてきたその度胸だけは褒めてあげる。

 だけどね、君は。

――ボクには勝てない。ぜぇーったいに、ね!


 だって、ボクは『最狂』なんだから。

 




「ボクに喧嘩を売るなんて、面白いね、君は」


 そういって、ボクも男を睨みつけた。

 

 先に攻撃してきたのは、男だった。

 がむしゃらにボクを殴りつけようとする男。ただ自分の力に頼っているだけのそれを避けるのは、いとも簡単なものだった。


 くるり。


 ボクは、優雅に回転する。青くて長いツインテールが翻る。

 そして、男の拳がボクの体の横を通った。ふぅ……回避完了。

 男の攻撃が失敗して、今からがボクのターンになる。


 避けるために回転した力を使って、そのまま男の鳩尾に肘鉄をくらわせる。ボクの方が背が低いために、ちょうど男の急所に腕が届いたから、これは簡単な攻撃だった。その後、回転が止まった腕を軸に、体をねじらせ、回し蹴りを男の顔に向かって炸裂させる。これは、あんまり簡単なことじゃないから、ボクの体が柔らかくて良かったと思った。最後に、ボクは地面にスチャッ、と着地した。


 男が後ろで倒れるのが分かる。


「おぉ……」


 周りから、どよめきがあがった。

 そりゃ、驚くだろうね。


 青いツインテールを腰まで伸ばしている青いつり目。色白で華奢な体つき。丸菜学園の可愛らしいセーラー服をきちっと着こなした姿。


 ボクは自分のことを『可愛い』と思っている。なんでも正しいボクが思うんだから、勿論周りの人たちもそう思ってる。

 それなのに、そんな可愛いボクがこんな大男を倒した。

 こんなこと、皆、驚くに決まってるよね。多分、今日のことはずっと記憶に残ると思う。


 でも、ボクにとって、それは当たり前のこと。


 毎日血で血を洗うような戦いをしてきたボクには、この程度の喧嘩(?)はショボすぎて、次の日には忘れちゃってるだろうね。もしかしたら、今日の午後には忘れてるかも。

 そんなことを思いながら、ボクはもう一度、倒れた男の頭を踏みつけた。


(今日は、銃が使えないんだよねー)


 そして、男の体の上をスキップしながら、その場を後にした。


 次に向かうは、入学式の会場。



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