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マギステル  作者: ふう
学園都市編
8/14

ユリッタ・カッシネッリ



(どうしよう、どうしよう・・・)


 ユリッタ・カッシネッリはおろおろと口に手を当てた。


(こんなとき、どうすればいいの・・・?)

 普段よく回る口は、いざというとき全く役に立たない。ユリッタは目の前で対峙している2人の人間を見やった。



 ・・・事の始まりは、ほんの少し前に始まる。


◇◇◇


「あの、オギワラさん!」


 ユリッタは少し勇気を出して声を掛けた。オギワラマヒロはいつも人に囲まれているようで、移動教室のときなどは孤独な少女であった。ユリッタはそのことが気がかりであった。


(これから委員会でも一緒なんだし、友達になりたい)


「オギワラさん、えーと・・・その、あ、マヒロちゃんって呼んでもいいかな?」


 しかしユリッタは若干の人見知りであった。うまく会話を引き出す能力は皆無である。


「はい、どうぞ」

「!・・・よ、よかった!ありがとう!あ、あの良ければ私のことはユリって呼んで・・・?」

「いえ、大丈夫です」

「そ、そうなんだ・・・」

「・・・」

「・・・」


(ど、どうしよう・・・)


 ユリッタが逡巡していると、彼女は踵を返して更衣室を出ようとしていた。


「あ、ま、待って!一緒に行こう?」

「・・・はい」


 彼女は一瞬、分からない、という顔をしたが、頷いてくれた。

(仲良くなるのは、まだまだこれからね・・・!)


 ユリッタは彼女とともに、更衣室を出た。


 道中、ユリッタはいろいろなことを話しかけた。天気の話題から、担任の先生のこと、イグニスたちのこと、はては学園の7不思議のこと・・・どれも彼女は興味薄そうに頷いていた。


(うう・・・そろそろ話題がネタ切れ・・・)


「・・・ええと・・・あ、そうだ!マヒロちゃん!今日のお昼いっしょに・・・」

「おい、オギワラ」


 そのときユリッタの声を遮って話しかけてきた人物がいた。振り返ると、3人の男子生徒がいた。にやにやと嫌な笑顔を浮かべてこちらを見ていた。


「・・・スペンサー君・・・」


 中心核の生徒の名前は、イヴァン・スペンサー。血統によるエリート主義意識が強い生徒である。ユリッタはなんだか嫌な予感がした。


「おい、オギワラ、お前が隠してる秘密をばらされたくなかったら、俺の部下になれ」

「・・・」

「ははは!衝撃で声も出ないか?俺はなんでもオミトオシなんだよ!」


 取り巻きの2人も笑い始める。ユリッタには何のことなのか全く分からなかったが、ただただスペンサーが悪意だけを持っていることは感じることができた。


「俺にはな、兄が3人いるんだ。一番上の兄上はどこにいると思う・・・?そうさ!アルス・マグナさ!どうだ?驚いただろう?僕はな、初めて見た時からお前にはなにか胡散臭いものを感じていたんだ・・・兄上に頼んで教えてもらったんだよ!お前が何でアストルムに来たのか!」


(マヒロちゃんが・・・何でアストルムに来たのか・・・?気にならなかったわけじゃない・・・けど)


 けれど、それは聞いてよいものなのか、分からなかった。


(マヒロちゃん・・・)


 ユリッタは伺うようにマヒロを見た、と・・・彼女は歩き出したと思うと、スペンサーを通り過ぎて行った。スペンサーたちも無視されるとは思ってなかったらしく、唖然としている。


「ま、待て!!お前の秘密をみんなにばらすぞ!それでもいいのか!オギワラ!!」


 彼女は歩みを止めて振り返った。


「・・・秘密?」


 彼女はほんの少し首をかしげて呟いた。その瞳には感情は浮かんでいなかったが、その様子に、ユリッタはマヒロはもしかしたら、とても純粋な人物なのかもしれない、と思った。


「秘密なんてありません。わたしは、わたしの目的を果たしにここへ来ました」


(目的・・・?)


 ユリッタは、何事にも興味の薄そうなマヒロが言う目的というものに非常に興味を持ったのだが、もちろんスペンサーたちはそうではなかった。


「そ、そこまで言うならお前のこと全部ばらしてやる!!」


 スペンサーは白い肌を真っ赤に染めて叫んだ。と、第3グラウンド上に居たクラスメイト全員に向かって叫び始めた。


「みんな聞け!こいつはアルス・マグナからきたってことでちやほやされているがな、実際はマギステルに追い出されたんだ!!」


 それとなくこちらの動向を気にしていた人たちも、がやがやと騒いでいた人たちも、みなこちらに注目した。


 スペンサーはそれに満足したらしく、得意げな表情を浮かべた。


「こいつが白翼親衛隊アルビオンになれたのは、こいつが汚い手を使って僕の兄上を追い落したからだ!」


 途端、皆「あ・・・そういうことが言いたいのね・・・」とでも言う感じに興味を失って離れていく気配がした。それに慌てたのはスペンサーだった。


「証拠はあるぞ!みんなこいつの魔力量知っているか?」

「!?」


 それに慌ててしまったのはユリッタだった。直後しまった、と思ったが、もう遅かった。スペンサーは目ざとく見つけてにやりと笑った。


「どうやら、カッシネッリは知っているようだな・・・こいつの魔力量は23・・・本来ならこの学園都市にくることは出来ない、とんだ落ちこぼれってことさ!」


 途端、ざわつきが始まった。


 スペンサーが言っただけではみんなもここまで信じなかっただろうが、ユリッタが動揺してしまったことがどうやら信憑性を増してしまったようだった。


(ど、どうしよう・・・マヒロちゃんごめん・・・)


 ユリッタはマヒロを見やった・・・が・・・


「ま、マヒロちゃん?何してるの・・・?」


「先生は用具を用意しておくようにとおっしゃってました」


 マヒロは倉庫から用具を引き出していた。


「ま、マヒロちゃん・・・」


 ユリッタはマヒロのあまりの豪胆さに少し頭が痛くなった。


(マヒロちゃん・・・わたし、マヒロちゃんが分からないよ・・・)


 ユリッタは、昨日の夜のことを思い出した・・・。



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