火の少年はお人よし
「外部生?」
「そうそう!」
小麦色の豊かな髪を躍らせて、ユリッタ・カッシネッリは微笑んだ。
「それがどうしたんだよ、外部生なんて毎年30人弱はいるだろ?」
朝食兼昼食の栄養・・・なんとか剤?クッキーに似てるけどカロリー高いやつ・・・にかぶりつきながら俺の席の前に立っている彼女を見やった。先ほど入学式を終え、クラス発表を終え、担任紹介を終え、ついでにクラス内の自己紹介も終えた。というか学校自体終わった。今はこれから体育館で始める新入生歓迎会・・・いわゆる部活動の勧誘までの準備時間である。強制ではないので興味のないやつは早々に帰った。
「もー、イグニスってば聞いてなかったのー?今日校長先生が言ってたでしょう?外部生クラスが廃止になったって!」
「・・・そうなんだ」
ユリッタは少し呆れたような顔をしたが、いつものことと諦めてくれたらしい。
「ほら、一番前の席の3つ、空いてたでしょう?欠席じゃなくって外部生用の席よ?最も、いろいろ準備してからこのクラスに入ることになるから、一週間後なんだけど・・・ってさっき先生言ってたじゃない・・・」
「・・・」
自分が悪いと思ったことでは弁解はしない。これが兄妹に妹と妹と妹しかいない俺が身に着けた処世術である。うん。にしても、外部生クラス廃止かぁ・・・高校ともなると、外部生の人数は少なくなる。1クラス程度だ。でもって小学校や中学校から一緒の内部性はだいたい顔見知りだ。その中に放り込むのは可愛そうという意見で続けられていた外部生クラス制度だったが、逆に学園への適応を妨害してるのでは?という声もあったらしい。ということで一週間の準備期間の後、各クラスへ数人ずつ所属させるというのがこの新しい制度の概要だ。
「どんな子が来るのかなぁ?楽しみだね」
にっこりとほほ笑んだユリッタは向日葵のようだった。その笑顔には外部生と仲良くなりたいという心しか見えなかった。
学園都市という閉ざされた空間、変わらない顔ぶれという日常では些細な変化は好意を持って迎えられる・・・大多数の人間には。少数派の人間がこのクラスにはいたなぁ・・・と顔を思い浮かべ、よし、なんかあったら俺が助けてやろう・・・と考えたところで、新入生歓迎会のアナウンスが教室に入った。
◇◇◇
「おーー!ヨンウーーン!」
俺は昇降口の人混みのなかで水色掛かった銀髪を見つけ、その人物へと走り寄った。
「・・・」
うん、あからさまに迷惑そうにされても俺、めげない。
「ヨンウンも新歓行くのか?珍しいなー!あんま騒がしいの嫌いだろ?」
「・・・はぁ」
うん、この溜息はあれだ、お前がその騒がしいの筆頭だろ・・・の溜息だ。めげない。
「なんか入りたい部活でもあんのか?一緒に周ろうぜ!」
「・・・」
無言は肯定とみなす。俺はヨンウンの腕を掴むと人の多い昇降口を抜け出すために人と人との間をすり抜けていった。
「まずはどこいくよ?運動系?文系?って外に出ようとしていた時点で運動系だろ・・・?でも珍しいな!どっちかっていうとインドアじゃなかったっけ?」
「・・・」
「運動系って言っても、魔術使う奴と使わない奴あるよなー、でもお前のことだから、魔術なしは却下だろ?ってことはー」
「俺は4大魔法学園対抗運動祭の実行委員会に入る」
「え・・・」
4大魔法学園対抗運動祭・・・それは1年で最も盛り上がるイベントだ・・・そして今年は我が魔法学園で行われる・・・。しかしただでさえやんちゃな魔法学園の生徒だ。×4したらどうなるか。誰の目にも明らかであろう。運動祭当日の彼らには鬼気迫るものがある・・・。彼らの血走った眼は、大会の名物になっているという・・・お、恐ろしい・・・。
「・・・」
「い、委員会って文系だろ・・・?体育館じゃないのか・・・?」
「外だそうだ」
「え・・・」
「外だ」
それは、文系の枠から外れてるってことなのか?それとも文系志望の生徒には勤まらないという意思表示なのか・・・?ど、どちらにしても恐ろしい・・・。
「な、なんでよりにもよって実行委員会なんだよ!あそこがマゾ養成実行委員会って呼ばれてるの知らないのか?お前、マゾなのか!?」
「・・・マゾじゃない。」
「悪いこと言わないからよしとけよー」
「俺は俺の目的があって委員会に入るんだ。どけ」
だ、だめだこいつ!
「お、俺も行くよ!行くだけだけどな!!」
野次馬根性とほんの少しのヨンウンへの憐みの結果、数十分後、俺は立派に4大魔法学園対抗運動祭実行委員になっていた・・・。