薔薇の花びら
森を抜けてたどり着いたのは、ポップな町だった。
門をくぐれば、足元の石畳も立ち並ぶ家もひとつとして同じ色のないような騒がしさで、思わず足を止めると、女がけらけらと笑う。
「いやぁね。間抜け顔だわ」
「だって」
「私の家はもっと先よ。その時の顔が見物だわね」
「ねぇ、貴方も此処に住んでるの?」
男の腕を引くと、彼は途端に首を竦めた。
「まさか。頼まれたって御免だね」
「あら、どうして? こんなに、」
素敵なのに、と言葉を続けようとして、はらはらと落ちてくるものに目を奪われる。
「なに?」
後から後から落ちてくるものを視線で追いかけてくるりとまわって、私は目を丸くした。
「花びら。薔薇の花びらだわ。え?」
うまく手の平に落とした途端、花びらだったものは一瞬で溶けて消える。
「どうして? 消えちゃった」
「いやぁね。当たり前じゃない。薔薇なんだもの」
「薔薇の花は、溶けて消えるものだよ。この世界では」
良く見れば花びらは降り続いているのに、石畳で風に吹かれる花びらはなく、目を凝らせば、石畳に触れてすぐ跡形もなく溶けて消えていた。
「この花、ずっと降ってるの?」
「いやぁね。当たり前じゃない。この町に合うのは赤薔薇ってとこだけは、同感よね」
誰に云うともなく呟いて、女はひらりと扇子を開く。
「さ、見て頂戴。此処が私の家よ」