踊り
それは奇妙な時計だった。
似ているものは時計だけれど、時計に似ているかと云われれば、首を傾げざるを得ない。
数字はひとつもない。
コトリコトリと動く針は二本あるが、12時と6時の位置を指して、まるで繋がっているように、同じタイミングで右回りに動いていく。
けれど私がじっと見ていると、不意に下向きだった針がぐにゃりと歪んで、振り子のようにふらふらと踊り出した。
「やだっ、なにこれ」
「針が振れたら、キミの選択肢が近いってこと」
「選択肢って、いるか帰るか?」
「そう。その針が示す間は、キミはお客さん。僕以外の誰かの手を取れば、住人になれる。帰りたいなら、最後まで僕の手を離さないこと」
「ねぇ。首を狩られたら、どうなるの」
「どうなるって、首を刈られるよね」
走りながらポカポカと男を叩くと、振り向いた男がぱちりと指を鳴らした。
「あのね、お嬢さん。僕は聞かれたことしか答えられない。キミが的確な問いを投げてくれないと」
「いやぁね。それくらい悟りなさいよ。これだから男って嫌だわ」
乾いた音に足を止めると、先端に毛皮をあしらった扇子を閉じた女が口角をあげる。
「その可愛い子、あたしに頂戴な。あんたには勿体ないじゃない」
「だ、誰? もしかして、首狩り?」
思わず男の腕にしがみつくと、女は目を丸くしてからけらけらと笑い出した。
「いやぁね。違うわよ。あたしの家にくるのなら、美味しい料理を出してあげる。云っとくけど、豪邸よ。ちょっと赤ん坊の面倒さえみてくれたら、衣食住付き。ね、最高でしょう?」
男の顔を見上げると、肩を竦めて、嘘ではないよ。あっさりと云う。
「そうじゃなくて、あの、証拠みたいな」
「聡い子は嫌いじゃないわ。良かったら見にいらっしゃいよ」
「あの、行っても、良い?」
腕を掴んだまま尋ねると、男は面倒臭そうに片目を眇めた。
「好きにしたらいいよ。選ぶのはキミだ」




