御隣さん
「首狩りってなによ!」
耳元で叫んでやると、男は面倒臭そうに目を細めた。
「だから、キミが手をとるかもしれないもののひとつだよ」
「手をとる? 首を狩られろって云うの!?」
「そうだね。キミが望むなら」
「望むわけないでしょ」
「それならさっさと逃げるよ」
あっさりと腕を捕まれて、でも首を狩られるなんて嫌だから反抗もできずに引かれるままに走り出す。
「ちょっ」
「頑張ってね、お姉さん」
「御隣さんには伝えておくね」
「え? 御隣さん?」
通りすぎる時に少年達に告げられた言葉は、疑問に回答のないまま耳元を通りすぎて結局扉が二人を閉じ込めた。
「あの、御隣さんて」
「この世界の管理人だよ。時間を廻してる、暗い顔した」
「悪かったっスね、暗い顔で」
唐突に目の前に立ちはだかったのは、長い前髪で視界を隠した子ども。
長すぎる袖で大きな円盤を掴んでいる。
そのまま放り投げられたそれを掴んで、足を止めた男は軽く肩を竦めた。
「うっとおしい前髪切れば、もう少し褒めるよ?」
「結構っス。さっさと逃げるっスよ」
くるりと踵を返して去っていく子どもを、見送るともなく見送っていると、思い切り腕を引かれる。
「ちょ」
「首刈られたいなら、立ち止まっても良いけどね」
「立ち止まったのは貴方の、」
「キミにあずけておくよ。キミの逃げ続ける時間だ」
先程子どもが投げた円盤を無造作に手渡して、男は僅かに足を早めた。
空いた手で円盤を掴めば、それは大きな時計のようだった。