予言
真っ赤な花が咲くところ
ちらちらはらはら花吹雪
緋色の花の散るところ
ひらひらはらはら花吹雪
舞い散るは紅の
大地を染める花絨毯
ころころ転がる
くるくる廻る
大きな胡桃の行く先は
輪唱のように広がる唄は、出所が解らない。
ただ広まって広まって、吸い込まれるように不意に消える。
バルコニーから城下を眺めていた女は憂いを含んだ瞳で溜め息をこぼした。
「嫌だ、忌ま忌ましい」
「ご機嫌すぐれねぇのな、女王陛下」
「解っているのなら、聞くのでないよ」
唐突に背後から届いた声にうろたえることもなく、女は視線を外さないまま切って捨てる。
けれど背後の声は怯えた様子もなく、楽しそうにきゃらきゃらと笑った。
「こいつは失礼。ご機嫌は斜めのようで」
「ふん。貴様には解っているのだから、云っても詮のないこと」
「残念。俺にも解らないことはあるんだぜ。例えば、あの娘の選ぶ先とか」
「やれ、忌ま忌ましい。貴様の口から聞きとうはないわ」
「心配しなくても、暫くは高みの見物だ。精々頑張って逃げて貰おうじゃないか」
背後の声はまたきゃらきゃらと笑って、それからすぅと潮が引くように、唄が引くように静けさを返す。
「でも、あれは逃げ切るさ。賭けても良いぜ」
「予言と解っていて、貴様と賭けなぞするものか」
捨て台詞のように宙に浮いた言葉に吐き捨てるように答えて、女はバルコニーに咲いた真っ赤な花をぐしゃりとその手で握り潰した。