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少女の蛹  作者: カラクリカラクリ
30/30


ふわふわとシャボンの床を歩くように、足を取られそうになるたびに、男が手を引いてくれる。

道が見えるかのように先を歩く男の背中を眺めながら、私は無意識に胸に手をあてた。


「もうすぐだよ」

「ねぇ、もう会えない?」


主語のない言葉に、男は微かに笑ったようだった。


「大丈夫だよ。僕達はすぐそばにいるから」


振り向いた男の手がするりと離れて、私があっと思う間もなくふわりと少し距離が出る。


「あ、」


呼び止めようとして、私は伸ばした手を引き寄せて思わず苦笑した。

結局私は彼の名前を知らない。

だから、違う言葉を、私は唇にのせる。


「ありがとう。皆にも伝えて」

「選んでくれて、ありがとう」


男が心から笑った顔を、私はその時初めてみた。




物語が聞こえる。

ずっと途切れることもなく。



「あら、起きた?」


振り仰げば、上の姉の笑った顔が目に入る。


「私、寝ていた?」

「えぇ。何だかすっきりした顔をしてるわ」


不思議そうな上の姉の向こうから、鏡に映したように、同じ顔をした彼女が近付いてきて、私の前で立ち止まった。


「お帰り」

「ただいま」


彼女の手をとって立ち上がると、私達は顔を見合わせて小さく笑う。


「大丈夫。私は私」

「そうね。私は私よ」




森の奥で空いた穴から声がする。

誰かには意味のない言葉、誰かには意味のある言葉。


Tell me,what your name?

This world welcome to you.



何処でもない何処かの、とある少女の物語。

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