末っ子
鎧をがしゃがしゃ云わせながら、お家の中に入ってきた青年は、何故か私の目の前で膝をついた。
「ようこそいらっしゃいました。私は貴女様のお越しを今か今かと」
「能書きはいいよ。キミの台詞は歯が浮くんだ」
またひとつ、暖炉に薪を投げ入れた男を睨んで、青年は鎧をがしゃがしゃ云わせながら立ち上がる。
「何をいうか。貴様こそ、一番に会いに行ってあることないこと吹き込んでいるのではないのか」
「失礼だな。吹き込むもなにも、お嬢さんの頭はパンク寸前で、大したことは入らないよ」
男の言葉は、会った時からストレート過ぎる割に婉曲な気がして怒りがわいてこないから不思議だ。
寧ろ、青年の方が青筋をたてて、男に詰め寄った。
「貴様こそ失礼な。レディに対してその云いようはなんだ」
その大きな声は、上の姉を思い出させて私は思わず身を竦める。
そう、私には姉がいて、その姉と庭で本を読んでいたはずだ。
それから、母に呼ばれた姉が家の中に入って、待っている間に、私は何かを見つけて気がついたら、此処にいたのだ。
「うるさいな。キミの大きな声で、そのレディが怯えてるよ」
「す、すみません。レディ。怖がらせるつもりは」
「あ、いえ。大丈夫です。姉を」
「はい?」
「姉のことを、思い出して」
私が呟くと、青年は不思議そうな顔をした。
「アネとはなんですか?」
「え?」
「アネ、とは思い出したくないものではなかったですか? 不快な思いを、しませんでしたか?」
不安そうな青年の後ろで、男が面倒臭そうに肩を竦めて、ポケットから取り出した煙草を暖炉の火に近づける。
それに火がつくと、漸く男と目が合った。
「あの、」
「此処には兄弟なんて概念はない。来るのは末子と決まっているし、例外は双子だけだ」
「来る?」
「云ったはずだよ。異世界に、ようこそ。お嬢さんの選択肢はふたつだ」