泡
「さて、そろそろ君の旅も終わりっスね」
「あの二人は?」
「大丈夫っスよ。君が認めた以上争う術はないんス。夢と現実は、寄り添って生きるものなんスから」
さぁ、目を閉じるっス-ぱちんと指が鳴らされて、私は慌てて目を開ける。
「どうかした?」
「眠そうなのな」
覗き込む四つの瞳に、私はぱちぱちと目をしばたいた。
黒のハットは変わらないのに、鮮やかな緋色のタイ。
男のストライプのシャツは木漏れ日を受けてお洒落に揺れる。
その横で着崩した黒のタイをTシャツに引っ掛けて、サルエルを纏う青年がポケットに手を入れたまま肩を竦めた。
「ほらみろ、心配しすぎだろうが」
「それこそ、お前の方がだよ」
二人の周りには、先程のようなよそよそしさも、何処から生まれてくるか解らないマイナスもない。
「あの、」
「ああ、解ってるって。帰るんだろ?」
無造作にポケットから出した手を、青年が空に向かって滑らせる。
裂けるように割れた空間を見遣って、あっけに取られると、男が徐に手を出した。
「選んだかな?」
私は一瞬男を見上げて、それから嬉しくなってにこりと笑う。
勿論、答えは決まっている。
男の手を取ると、割れた空間に踏み込んで、促されるままに振り返ると沢山の目が私を捕らえた。
「あ」
「ま、見送りは豪勢にってな」
双子。
カボチャの馬車と騎士。
お隣りさん。
女。
石像とこども。
トカゲ。
青年が裂いた空間のそこかしこから現れた人々は、揃って私に手を振った。
女王も道化師も兎耳も、皆がそこにいて、けれど私が瞬きする間に、空間の裂け目が、泡のように柔らかに彼等の輪郭を掻き消した。