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妖精
「道化師と兎耳だけは、なんでもない。私の背中を押してくれた。あれは、あなたがくれたものでしょ?」
小人は表情を変えなかった。
ただ黙って、私の次の言葉をまっている。
「猫は夢に逃げたい私。眠り男は現実で頑張りたい私。掴まないことになれてしまった私には必要ないと思っていたものを、あなたは全部拾い集めてきてくれた」
このまっすぐな瞳を、私は知っている。
この小さな身体が本当は誰なのか。
「ごめんなさい、」
「見えたみたいっスね」
不意に闇の中に浮かび上がった姿と対象に、小人の姿が崩れるように熔け落ちる。
「っ」
「心配いらないっス。あれの身体はただのホログラム。入ってる心はそうっスけどね。でも身体と心の大半はほら、君に貸してくれたっスから」
「え?」
ぎょっとした私の目の前に差し出されたのは、あの時計モドキ。
「嘘」
「嘘じゃないっス。お陰で助かったんスけどね。本当なら、君の心を引きずり出して、時計の妖精を生み出さないといけなかったんスから」
「時計の妖精?」
「君の今までの時間と心を振り返るに役立つ水先案内人スよ。彼女は役目を果してくれたっス」