棺
「大きな屋敷に一人で住む女の人は、上の姉ね。家の中で私を見るのはあの人だけだったから」
私は上の姉が大好きだった。
けれど同時に畏れてもいた。
私を認識したまま、上の姉が手を伸ばしてくれたら、私は嬉しくて堪らない。
けれどそれは同時に私と彼女の決別を意味していて、それは彼女だけに手を伸ばされても同じことだった。
「石像は私の迷い、こどもは恐怖。荒れ果てた街は、あの華やかな街を夢見る脆弱な心の現れなのよね」
心の動きが浮き上がったから、あの時にも小人は現れたが、私は何も読み解けずに、帰りたいと云い張って困らせた。
「トカゲは私の望みだった。他の何かになりたい私。でも、結局高望みもできなくて、全部捨ててまで叶えても、私には強く望めないの」
今すぐ棺に入って眠りにつくとしても、私には目覚めを促してくれる恋人もいなければ家族もない。
でもそれを欲しいと望んで、上の姉や彼女と縁が切れるのなら、やっぱりいらないと思ってしまうのだ。
「だから、女王は彼女なのね」
畏れてもいたし、憧れていた。
距離をとりながらも、結局は嫌いになれなかった。
本当は誰よりもお互いを大切にしてくれていたから。