盲目
「読み解くって、どうしたらいいの?」
まっすぐにお隣りさんを見ると、深い瞳が少しだけ緩んで、長い指が時計モドキの表面を示す。
「両手で握って、目を閉じるっス。あとはこいつが示してくれるっスよ」
私は疑わなかった。
その一瞬の間も惜しく、今にも溢れそうな時計モドキを抱きしめるように握りしめて目を閉じる。
「一度来られたでしょう?」
真っ暗な中で、小人が私を見上げた。
「えぇ、一度来たわ」
「考えてください。現実が、夢より選ぶ価値がないのかを」
「考えたわ」
薪を割る双子。
カボチャの馬車と騎士。
時計モドキとお隣りさん。
豪奢な屋敷と女。
荒廃した世界の石像とこども。
上の姉と彼女。
眠る男とトカゲ。
女王と猫。
道化師と兎耳。
そして、小人と私。
「誰のことを、でしょう」
「私のことを、よ」
私は私のことばかり考えていた。
二つの瞳は沢山のことをみているようで、何も映していなくて、それでは盲目も同じだった。
「双子は、私と彼女。そうよ、二人でいるときは特別だった。お互いが自由に好きなことをしていられた。そこに他人が入ってくるから、彼女との間に齟齬が生まれたのよ」
彼女は私で私は彼女。
見分ける人間が存在しなければ、私達はお互いに不自由ない生活をしていた。
「あの騎士は、図書館の彼。結局、私は人を見る目がないのよね」
彼女は知っていたのだ。
クラスメイトの女の子達に触れ回ったのは彼で、本当に彼が求めていたのは自分に靡かない女の子がいないこと。
彼女はそれをぴしゃりと跳ね退けたのに、私はそれを見分けられずに、あまつさえ私自身が認められたと思い込んだ。