いばら
「なにこれ」
喘ぐような私に、お隣りさんは僅かに肩を竦めて、開いた手を時計モドキに被せる。
「何を聞いたかは知らないっスけど、これは君の心なんスよ」
「私の、心?」
「そうっス。だから、君が読み解かなきゃならないっス」
「読み解くって云ったって」
「でないと、持たないっスよ」
くいと顎で示された男は、青年の容赦ない攻撃の的になって、けれど身を躱しながら青年を睨んでいる。
「ネコとネズミの喧嘩っス。どっちに分があるかなんて一目瞭然スよ」
「だったら、見てないで止めてよ」
「無理っス。聞かなかったんスか? 気まぐれは空間を裂くんスよ。下手に口出しなんかしたら、それこそ眠りはエネルギーが底をつくまで付き纏われるっス」
エネルギーの話に、私ははっとしてお隣りさんの腕を掴んだ。
「あの人、どれだけ動けるの? エネルギーの消費って」
「眠りは最近エネルギー貯めてたっスから、すぐにすぐはないっスけど、このままだとギリギリっス」
肩を竦めて、お隣りさんは私の手ごと、時計モドキを持ち上げて、私の視線を引き寄せる。
「君がこれを読み解けば、この世界は君の夢に変わって、君の想像が世界を弄れるんス。気まぐれと眠りの間を阻む茨を生み出すことも、帰るための扉を開くこともできるわけっス」
「私が、生み出せるの?」
「そうっス。元来この世界には、"問い"は存在しないんスよ。君の周りに生まれた問いは、これを読み解ければエネルギーに変わるっス」
唐突にお隣りさんの手は離れ、けれど私はその時計モドキをしっかりと握りしめていた。