鋏
「この結末は、つまらないよなぁ。なぁ、ネズミ」
ふわりと耳元を掠めた風が、嘲笑をつれてすぐそばの木の枝に腰を下ろす。
もう何度目になるか解らないが、驚いて顔をあげると、酷く固い表情の男が宙を睨んでいた。
「それはお前が決めることじゃない」
「そうかな? 少なくともお前でもないよな」
きゃらきゃらと木の上で笑い声が弾けて、私は訳が解らないまま、答えを求めるように後ろを振り返って呆然する。
あの大きな机も、目を見張るほどのティーカップの群れもそこにはなかった。
さやさやと風の通りすぎるただの森が、当たり前の顔をしてそこにあるだけ。
道化師も兎耳も、そんなものは何処にもいなかったように、一迅の風が走り抜ける。
「っ」
恐ろしかった。
それが、長閑で何でもない場所だからこそ、私は見たものが信じられずに慌てて男の服の裾を握りなおす。
怖い顔をしていた男は、目をしばたいて私を振り向いて、それから気づいたように、奥歯を噛んだ。
「お前」
「不機嫌だな、相も変わらず。もうちょい面白みがないと、つまらないぜ。コネズミ」
「なんなの、あの人」
「女王の言葉を借りるなら、空間を切り取る鋏使い、だよ」