花火
何処からか啜り泣きが聞こえる。
その塔は随分遠い気がしたけれど、崩れた石畳のかけらを辿るように越えていくと、ぽっかりとした空地に、それはしゃんと建っていた。
啜り泣きもそちらの方から届いてくるらしい。
怖ず怖ずと近づくと、妙に傾いた屋根先に、厳つい顔をした鳥のような獣のような石像が佇んでいて、調度その真下で、子どもがぐずぐず泣いていた。
「あぁ、娘さん。来てくれてありがとう」
「あなた、誰なの?」
明らかに声は、子どもとは違って上の方から聞こえてきて、私が驚いて仰ぐと、石像が羽を広げる。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
酷く場違いな挨拶と、姿と声のギャップに思わずそう答えると、泣き声が一層酷くなった。
「ちょっと、何で泣いて」
「何もかもが哀しいからに決まってるヨ」
「何もかもって」
助けを求めるように石像を仰ぐと、どこ吹く風と知らん顔を決め込んでぴくりとも動かない。
なおもわあわあ泣く子どもに、覚悟を決めて手を伸ばす。
「泣いてたら何も解らないってば」
「何でもかんでも聞かないデ、少しは自分で考えなヨ」
「なんでそんなこと云われないと」
かっとして声をあらげると、不意に花火のような大きな音が響き渡り、砂嵐が巻き起こって視界をすっかり取り囲んだ。
目を庇うように手をあげると、何処からか唄が聴こえた。
塔の下には骨の山
公爵夫人は風呂の中
真っ赤な絨毯染め上げて
次の娘を探してる