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「せっかく得た、機会?」
「……そうだ。予定はしていたんだ。だがまさか今日になるとは思わなかった。いや、郁也の奴が、勝手に今日、この機会を作って寄越したんだ。確かに頼んでいたのはわたしだが、さすがに憤りを感じたぞ」
「ちょっと、待った」
急速に引いて行った体温が、引いた速度を上回る速さで戻り、そしてあっさり元の温度を超えて行った。
顔ばかりが、暑い。
「郁也に、なにを頼んだって?」
「湊」
琴美がスプーンとフォークを置いた。
そういう兵器であるかのような熱線が、ぼくの身体を内側から焼いている。
「わたしが好きな男はな、お前だ。嘘偽りなく、お前だ。わたしはそれを伝える機会が欲しくて、郁也に頼んだんだ。二人きりになる機会を作って欲しい、とな」
案外、似た者同士な気がしてきた。
そう言って、にやりと笑った郁也の顔が、自然と頭に浮かんだ。
あの時にはもう、琴美は郁也に相談していたのだろうか。いや、きっとそうだ。それを知っていて、郁也は話さなかったのだ。だからこそ、あの含んだ笑みだったのだ。
「そうしたら、だ。今日の予定をドタキャンして、『まあ、がんばれ』とメールしてきやがった。あのヤロウ……」
あの野郎。
ぼくは琴美への返答を考える。
考える必要もないはずなのに、考える。
何もかもが唐突過ぎて、いい言葉が見つからない。
ぼくは琴美の顔を見る。彼女の瞳を、見る。
その表情は、やはり硬い。瞳に宿る光は、鋭い。でもそれが彼女なのだ、とわかる。男のような口調で、女性そのものの真摯さで、ぼくと向き合い、選ぶことなく紡いだ言葉の答えを待っている。
あの野郎。
郁也の含み笑いが頭の片隅から離れない。
あの野郎。
お怒りは、ごもっともだ。
今度、飯でも奢らなければなるまい。