碧湖冒険記
碧湖は、その名の通り碧く静まり返った湖だった。磨き上げられた宝石のように、冷厳な山々の中心に抱かれている。
しかし穏やかな表情の下には、無数の冒険者を退けてきた深淵が隠れていた。
「よく聞け、リップル! 今度こそ絶対に大儲けするぞ!」
若い錬金術の徒弟アーフェンは湖畔の岩の上に立ち、黄ばんだ地図を興奮気味に振り回していた。
「この湖底には古代魔法工房が眠ってるんだ。そこには伝説の『永遠の雫』があるらしい! それさえ手に入れれば、俺はそのまま引退して南海で日光浴三昧だ!」
彼の傍らには精巧なガラス瓶が下がっていた。中にいるのは、全身が透き通り、体内に幽青の光を流す水晶の魚の稚魚──リップル。
そのリップルは、アーフェンの大言壮語にはまるで興味がなかった。ガラス壁にぴたりと張りつき、岩の隙間に挟まったきらきら光るビール瓶の王冠をじっと見つめている。
「その王冠を見るな! 俺たちは宝を探しに行くんだ。ガラクタ拾いじゃない!」アーフェンは呆れてガラス瓶をこつこつ叩き、自作改造の「全閉式深潜甲冑」を身につけた。重たい銅製の甲冑は人造エーテル燃料を背負っている。魔力が枯渇した時代に湖底へ入るための、彼にとって唯一の命綱だった。
アーフェンが瓶の蓋を開けると、リップルは軽やかに泳ぎ出し、甲冑の胸部に特製されたガラス水槽へ正確に収まった。推進器がしゅうしゅうと鳴り、重い銅鉄の甲冑は制御を失った砲弾のように静かな湖面を轟然と裂き、沸き立つ水しぶきの中で深淵へ沈んでいった。
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深く潜るにつれ、湖水は墨緑から漆黒へ変わっていった。アーフェンの探照灯が太古からの静寂を切り裂く。
「この湖水の『エントロピー』値、めちゃくちゃ高いな」アーフェンは検出器を見て眉をひそめた。周囲には灰色の残滓が満ち、幽霊のように蠢いている。
そのとき、灯りの届く先に壮麗な輪郭が浮かび上がった。巨大な水晶柱が砕けた穹頂を支え、宙に浮く青銅の環帯が水中でゆっくり回転している。これは錆びた廃墟ではない。古代魔法文明が残した芸術品だった。
「美しい……」アーフェンは感嘆した。だがすぐに、その瞳には金貨の記号が浮かぶ。「リップル、いい物を探すぞ! 覚えておけ、きらきら光る宝石だ!」
しかし探検はたちまち災難になった。
アーフェンが工房内部へ入った瞬間、床の魔法陣が赤く輝き、数条の高圧水流が刃のように噴射された。
「うわああ! シールド!」アーフェンは奇声を上げて防御を起動したが、水流にゴムまりのように吹き飛ばされ、瓦礫の山へ突っ込んだ。
アーフェンがまだ肝を冷やしながら起き上がるころ、リップルは先ほど水流を噴いた機構口へ興奮気味に泳いでいき、折れていて、びっしりと蝕刻文様の刻まれた導流管を苦労してくわえ出した。
「宝石を探せって言っただろ! なんで導流管なんか拾ってるんだ!」アーフェンは怒鳴った。だがリップルは頑固にその管を彼の手甲の前へ押し出し、「これは極上品だ」と言わんばかりの誇らしげな目をしていた。
その後の道中、アーフェンは罠試験機になった。暴走した魔法の箒に追い回され、灼熱の蒸気で火傷を負う。一方のリップルはずっと後ろについてきて、惨状の中から悠々と「戦利品」を選んでいた。錆びた歯車、曲がったミスリルのばね、それから煤で真っ黒になり、鍋底のように見える金属板。
アーフェンの回収袋はどんどん重くなった。彼は泣きたい気持ちで叫ぶ。「俺たちは宝探しに来たんだ。資源回収に来たんじゃないんだぞ!」
ついに、彼らは工房の中枢祭壇へたどり着いた。浮遊する水晶容器の前で、アーフェンは息を止めて中を覗き込み、笑顔を凍りつかせた。中は空っぽだった。永遠の雫などどこにもない。
「空っぽ!?」アーフェンは絶望して水晶容器を叩いた。「俺の退職金が……」
そのとき、地底から激しい轟音が響いた。青銅の歯車と水晶管で構成された巨大な怪物「星盤守護者」がゆっくりとせり上がる。巨大な機械の螯は、死を告げる赤い光を瞬かせていた。
「侵入者……排除……」
「逃げるぞ!」アーフェンは魂が抜けるほど怯えた。だが振り返ると、リップルはまだ祭壇の瓦礫の中にいて、あの忌々しい黒い金属板にしっかり噛みついている。守護者の鋸盤はすでに迫っていた。アーフェンは他のことを考える余裕もなく猛然と引き返し、リップルをつかみ、魚ごと金属板ごと水槽へ押し込み、推進器の緊急過負荷を叩き込んだ。
轟音の中、アーフェンは制御不能の水雷のように工房の穹頂を突き破り、深淵が崩壊する寸前で辛くも脱出した。
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黄昏時、アーフェンは全身ずぶ濡れで、湖畔の作業室の床にへたり込んでいた。高価な甲冑は完全に壊れた。彼のそばにあるのは、回収袋からぶちまけられた「ガラクタ」だけだった。
「完全に失敗だ……」虚ろな目をした彼は、諦めたように布を取り、洗浄液を染み込ませて、一番汚い黒い金属板を拭き始めた。廃品商に売れば、パン代くらいにはなるかもしれない。
油汚れが落ちていくにつれ、鍋底のようだった金属は、オーロラのような神秘的な光沢を露わにした。複雑で神聖な魔法回路が、拭くたびに見え隠れする。アーフェンは手を止め、何かに導かれるように高純度の「液体人造エーテル」を一瓶取り出し、金属板の溝へ垂らした。
ヴン──!
風鈴のように澄んだ音が響き、金属板は眩い青い光を放って空中に浮かんだ。床の古い歯車、折れた導管、ミスリルのばねが何かに呼応するように錆を落として次々と舞い上がり、澄んだカチリという音を立てながら空中で完璧に噛み合っていく。
瞬く間に、精巧で生命の波動を放つ装置がアーフェンの目の前に現れた。
アーフェンは図鑑を開き、驚きの声を上げた。「静謐律令陣! これ、古代に湖水を浄化していた最高級の機器じゃないか!?」
彼は幻獣瓶を見た。リップルはガラスの縁に張りつき、誇らしげな顔をしている。まるで「愚かな人間よ、だからいい物だと言っただろう」と言っているようだった。
装置の放つ青い光を見つめる。その光がリップルの透明な体を照らし、金貨のことを忘れてしまうほど美しかった。
彼は気づいた。湖水の衰えは、この装置が機能を失ったせいだった。値札をつけて売り払うことは、この装置の本当の価値ではない。
だから彼は、装置を売って大儲けする考えを捨て、現代の工法でこの古い機器を修復しようと試みた。
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翌日、アーフェンは修復した装置を湖心へ投げ入れた。
青い光輪が落下点を中心に素早く広がっていく。通り過ぎた場所では、濁った湖水がたちまち澄み、枯れた水草が再び伸び、魚群が光柱の周囲を楽しげに旋回した。湖全体が新たな命を取り戻した。
数日後、環境部門の役人がアーフェンにたっぷりの報奨金を届けた。すぐに引退できるほどではなかったが、実験室の設備を更新するには十分だった。
役人が、廃墟の中でゴミ扱いされていた中核部品をどうやって見つけ出したのかと尋ねると、アーフェンは巣にカフスボタンを隠そうと頑張っているリップルを見て、神秘的に微笑んだ。
「俺には、目利きの『宝探し専門家』がいるからな」
リップルは軽やかに尾を振った。陽光の下で、その透明な小魚は、この世のどんな宝石よりも眩しく見えた。
アーフェンは思った。次の冒険では、この「ガラクタ収集家」の助言にもう少し耳を傾けるべきかもしれない。




