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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第一章 ポメレニア辺境伯領 1252年

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首都グダンツ

 舞台は十三世紀に戻る。


「へえ、ここがグダンツか……」


 ポメレニア辺境伯領の首都グダンツは、辺境伯時代になってから大幅に改修され、三重の厚く低い城壁を持つ大要塞となっている。城塞都市の例に漏れず、城内に住んでいるのは自由市民と貴族のみであり、農民はほとんど城壁の外で暮らしている。


 その中央には一際高い白亜の城が聳え立っているが、それはあくまで象徴的なものであって、実際の領主は城の麓にある館で日々を送っている。


 吸血鬼ヴィルヘルミナは、真夜中になっても人の流れが絶えない大通りを堂々と歩いていた。彼女の異様な雰囲気は、ただの人間でも何となく感じることができ、誰もが距離を取った。


 声をかけてくる者もおらず、ヴィルヘルミナは領主の屋敷に到達した。鉄の柵で囲われており、門には完全武装の兵士が常に見張りに立っている。この前見かけた対吸血鬼用の兵装――全身を覆う鎧と棘がたくさん付いた棍棒――の兵士である。


 ヴィルヘルミナは当然そんなものに怖気づくことはなく、気さくに話しかけた。


「やあ、諸君。辺境伯殿下はいらっしゃるかな?」

「……何だお前は。名を名乗れ」

「私はヴィルヘルミナ。吸血鬼だ」

「なっ……!?」


 言いながらフードを脱ぐと、真っ白な肌が月明かりに照らされる。


 兵士たちは直ちに臨戦態勢に入ったが、すぐさま襲いかかってくるわけではなさそうだ。


「殿下に害を加えに来たのか?」

「いやいや、そんなつもりはないよ。ただ話したいことがあるだけだ」

「信用できるものか」

「だったら、これを見てくれたまえ。ブロベルク伯からのお手紙だ」

「手紙……?」


 ヴィルヘルミナが差し出した封筒を、兵士はひったくるように受け取った。少々乱暴に封筒を破って中身を検分する。


「……お前をある程度は信用できる、か」


 手紙には、ヴィルヘルミナがヴレデック村の多くの民を救ったことと、人間に無差別に危害を加えるつもりはないということが記されていた。


「そもそも、これは本物なのか? こんな紙切れだけで信用できるか?」

「しかし、この封蝋はブロベルク伯のもので間違いない。偽造されないとは言えんが」

「この程度で吸血鬼を信用できるものか!」

「やれやれ。じゃあ伯爵様を連れてくればよかったのかな」


 兵士たちは半信半疑というより、疑いの方が強い様子。


「お前が辺境伯殿下にお会いしたい目的は何だ? 正直に吐け」


 兵の一人が棍棒の先をヴィルヘルミナに向け、脅すように問う。


「君達は今、東の国境で帝国外の蛮族と戦の最中なんだろう?」

「そうだが、それが何か?」

「そこで吸血鬼を戦争に使っているという噂を聞いてね。辺境伯を問い詰めなければならないと思ったんだ」

「それは、同族を戦争に使われるのを嫌うからか?」

「そういうのじゃない。そんなことをしてるバカを殺したいだけだよ」

「そうか。であれば、それをしているのは我々の敵、帝国領外の異民族と異種族の方だ」

「そうだったか」


 どうやら風の噂は本当だったらしい。


「どうだ? これで満足か?」

「いやいや、まさか。私はそういうバカを殺しに来たって言ったじゃないか。相手が吸血鬼を使っているのなら、そいつらを殺し尽くすまで、私は君たちに味方しよう。辺境伯殿下に会いに行く目的は、今これに変わった」


 ヴィルヘルミナは特に何の感情もなさそうに、当たり前のように言い放った。


「俺達の味方? 吸血鬼が味方だと?」

「そう言ったけど?」


 ――まあ、吸血鬼殺しを専門にしていた連中が、そう簡単に受け入れてくれるわけもないけど。


「馬鹿を言え! 吸血鬼と手を組むなど論外だ!」

「どれほどの戦友が吸血鬼に殺されてきたか、お前は知っているのか?」


 理不尽な怒りを向けられ、ヴィルヘルミナは少しばかり苛立ちを覚えた。


「知らないよ、そんなの。大体、吸血鬼に友達を殺されたからって吸血鬼全体を憎むのは馬鹿げている。人間に知り合いを殺されたら、人間を皆殺しにしようとするのかい?」

「そ、それは……」

「だが貴様らは、人間を殺すために生まれてきた生き物だ。違うか?」

「違うね。人間の血をもらうことは、殺すことじゃない。まあそういう野蛮な連中が多いことは否定しないけれど」

「善良な吸血鬼もいるとでも?」

「ああ。私みたいにね」


 やはり感情的な理由から、吸血鬼と人間は互いを信用することができない。まあヴィルヘルミナは人間に騙されたところで、どうとでもできるが。


「――まあいいや。君達に信用してもらうつもりはない。だけど、私と協力するか決めるのは、君達の主だろう?」

「それはそうだが」

「君達が勝手に私を突っぱねるのは、よくないと思うけどね。私を信用してくれなくてもいいけど、辺境伯殿下に話を通すべきじゃないかな?」

「それは確かに」


 主君に仕える者として、彼らはヴィルヘルミナとの交渉を拒むべきではない。信用してもらうことは諦め、理詰めで話を進めることにした。


「分かったら、とっとと辺境伯にこのことを伝えてくれ」

「……よかろう。しかし、辺境伯殿下は今、ここにはいない」

「おや、外出中かい?」

「そうじゃない。殿下は今、最前線で自ら軍の指揮を執っているんだ」

「なるほど。まあ勇者の末裔だしね」


 ――本当に自ら最前線に赴く必要があるのかは疑問だけど、嘘じゃないだろう。


「まあいい。だったら魔導通信で伝えてくれ」

「……分かった。屋敷には入れてやるから、暫く待っていろ」

「あ、入っていいんだ」

「ずっとこんなことをしていたら、無駄な騒ぎになるだろうが」

「妥当な判断だね」


 館の門の前で延々と門番と言い争いをしている少女がいる、などと知れれば、野次馬が集まってくるのは目に見えている。

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