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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第一章 ポメレニア辺境伯領 1252年

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『平和』になった世界 826年

 それは四百年前のこと。魔王が討伐されてから二年の月日が過ぎた帝国暦826年、魔王軍の残党はもはやレムリア帝国にとって大きな脅威ではなくなっていた。


 戦火に巻き込まれた魔王城は打ち捨てられ、つい数年前までの栄光は影も形もなく、廃墟と化していた。そんな廃墟の片隅に、瓦礫の上に腰をかける人影が二つ。


「ヴィルヘルミナ様、また吸血鬼が人間を襲ったそうです。場所はブレスニツェ公国の南部だとか」

「はぁ……。まったく、私がいなくなった途端にこれか」

「どうされますか?」

「暫くは放っておいていいよ、ラウラ。人間だけではどうしようもなくなったら、こっそりと殺しに行くとしよう」


 魔王と呼ばれた吸血鬼ヴィルヘルミナ、そして彼女の側近だったエルフのラウラ。勇者に討ち取られたはずの彼女たちは、ひっそりと健在であった。


「それと、北方帝と東方帝の関係が悪化しているそうです。東方帝領のうち、かつて魔王が制圧していた地域の宗主権を巡って、水面下で争っているとか。いずれ実際に戦争になるかもしれません」

「まったく……。魔王を倒してたったの二年で戦争か。それとも、私のせいなのかな」

「これに関してはそうですね」

「おいおい」

「しかし、意図的にやったわけではありませんし、気にすることもありませんかと」

「それはそうかもしれないけど」

「そもそも、ヴィルヘルミナ様は戦なき世を作ることは諦められたのでは?」

「ははっ、そうだったね。人間もエルフもオークもドワーフも、その他の人型種族も、そして吸血鬼も、知的種族である限り、闘争が止むことはない。それはそういうものなんだ」

「はい。ですので、せめて戦争の激化を防ぐ。それが我々の成すべきことであると、ヴィルヘルミナ様は仰いました」

「そんなこと言ったっけ」

「…………本気で言っているのですか?」


 ラウラは信じられないものを見たような目をして言った。


「いやいや、冗談冗談。さすがに覚えてるよ。ああ、人間から争いがなくなることはない。何故なら人間の攻撃性がなくなることはないからだ。それが外に向けられれば戦争に、内に向けられれば弾圧か内戦になるというだけだ。ここ五十年でよく分かったよ」

「その点、人間の攻撃性が外に向けられているのはよい兆候ですね」

「ああ。どうせ殺し合うなら正々堂々と戦争する方がマシさ。まだそっちの方が制御が効く。私が介入することもできるってものさ」


 それは言わば、諦めの極致だった。彼女の理想は世界に否定され、残ったのは戦争の是非を問わず、その手段のみに介入するという消極的な態度だけ。


「では、もしも戦争になれば、介入しに行くのですか?」

「普通に戦争している限りは、手を出すつもりはない。しかし人の道に悖る戦い方をするのであれば、介入するかもしれない」

「よくそう仰いますが、具体的にはどのようなやり方がお嫌いなのですか?」

「吸血鬼を戦争に使うとか」

「ついこの間まで吸血鬼を戦争に使っていらっしゃったのに」

「それについての反省の意も込めて、かな」

「吸血鬼とは自分勝手な存在ですね」

「君もその同類だろう」

「エルフが吸血鬼になったところで大して変わらないものでして」

「まあいいや。せっかくだし、東方帝領に様子を見に行こうか」


 人類は魔王などあっという間に忘れ去り、人類同士で争い始めていた。魔王にとってそんな世界は、望んだ世界に近づいたと言えるのだろうか。


 ○


 さて、魔王の下で傀儡として存続しながら、勇者アドルフによる反攻作戦が始まってすぐに魔王を裏切ったレムリア帝国北方正帝ルートヴィヒ3世は、北方帝領の帝都ウィンドボナにて、諸侯に対する論功行賞を行っていた。


「グダンツ伯アドルフ、卿の活躍は人類史に大いに名を残すものであった。古代の英雄にも勝るとも劣らないものであろう」

「ありがたきお言葉です、陛下」

「よって、余は卿に最大限の褒章をもって報いるつもりである。ヴィアドルス宮中伯の臣下から独立し、卿が既に持つ領地に隣接する領地を新たに授ける。既に持つ土地と合わせ、騎士役地、四千人分の領地を与えよう」


 北方帝がそう宣言すると、諸侯の間にざわめきが広がった。


「畏れ多きことながら、それほどの領地を賜れば、私が北方帝領で最大の諸侯になってしまいます」

「何を申すか。卿がいなければ、ここにいる誰もが魔王に支配されたままであったのだ。卿が諸侯第一の大貴族になったとて、何もおかしくはあるまい。むしろその程度の褒賞では足りないというべきであろう。皆も、そう思うであろう?」


 確かにグダンツ伯の功績は古今類を見ないものであり、異を唱えられる者は誰もいなかった。


「そこまでの功を上げたとは思っておりませんが……」

「グダンツ伯、褒賞というのは多すぎても少なすぎても秩序を乱すものです。この領地、受け取られるのが皇帝陛下のためでありましょう」

「承知しました。では謹んで、新たな領地を拝領いたします」


 北方帝はアドルフに、北方帝領の北東の端に広大な領地を与えた。同時に新たな爵位『ポメレニア辺境伯』を創設し、アドルフを初代ポメレニア辺境伯に叙爵した。これが北方帝領最大の諸侯たるポメレニア辺境伯の始まりである。

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