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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第一章 ポメレニア辺境伯領 1252年

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人間と吸血鬼

「あなたに俺達を喰い殺そうとするつもりがないのは明らかだ! どうか待って欲しい!」

「何言ってる! お前も見ただろ! こいつは化け物だ!」

「化け物っていうのは、人を見境なく喰い殺すような奴のことを言うんだろうが!」

「はぁ……。結局どっちなんだ」


 村人たちは当の本人を置き去りにして、真っ二つに割れて言い争いをしている。ヴィルヘルミナは黙ってその様子を眺めていた。この論争がここにいる人間だけで完結するはずもなく、村全体が紛糾した。


 ヴィルヘルミナは村の端で待たされることになった。彼女は律儀に、言われた通りそこで待っていた。


「結論は出たのかな?」


 数時間後、ようやく村人がヴィルヘルミナを迎えに来た。いや、村人だけでなく、村長のカールも姿を現した。


「ヴィルヘルミナ殿、あなたにお礼をしたい。それが村の総意です」

「……そう。吸血鬼にお礼がしたいなんて、珍しいこともあるものだね」


 ――本当に、珍しいこともあるものだ。待っててよかった。


「我々はヴィルヘルミナ殿に命を救って頂いたのです。当然のことでしょう」

「それでも、化け物を拒絶する人間はたくさんいるけどね」

「我々はそうではない。ただそれだけです」

「そうかい」

「それで、ヴィルヘルミナ殿には何かお望みのものはありますかな? なにぶん、吸血鬼と関わりを持ったことなどないものでして」

「ははっ。吸血鬼が欲しいものなんて、一つしかないに決まっているじゃないか」


 ヴィルヘルミナがその言葉を発した途端、またしても空気が凍りついた。村長も含め、村人たちの顔が曇る。一部は無意識に武器を握りしめてすらいた。


「……それは、血液ですかな?」

「ああ。だって吸血鬼なんだから」

「村長! こいつはやっぱり、俺達を殺す気だ!」

「黙っておれ! ……申し訳ない。ヴィルヘルミナ殿、それは誰かを喰い殺すという意味ですかな?」

「いいや、まさか。皆から少しずつ血をもらうだけだよ。誰も殺す気はないし、特に害はない」

「それだけで、本当によいのですか?」

「ああ。吸血鬼が生きるのに必要な生命力は、それほど多くはないからね」

「しかし……そうであるのなら、どうして我々は、このように多くの者が殺されたのですか?」


 生存に必要な血の量が人を殺すほどではないのなら、吸血鬼がこんなにも大勢の人間を殺す必要などなかったはずだ。カールはヴィルヘルミナを完全に信用しきったわけではない。


「それは簡単な話だよ。生きるのに必要以上の食事を摂ってはいけない、なんてルールはないだろう? 現に、人間の大半は生きるのに必要な分しか食べないが、貴族や王族は贅沢三昧している。それに加えて、吸血鬼は基本的に食べ過ぎにはならないんだ。血を吸えば吸うだけ、生命力として体内に蓄えることができる」

「つまり奴らは、人を喰うのを楽しんでいたということですか」

「そういうことになるね。もちろん私はそんなつもりはないよ」

「では……命を救っていただいたお礼です。まずは儂から血を吸ってくださればよい」

「じゃあ、腕を出してくれるかな? できるだけ動かないでね」


 ヴィルヘルミナは膝立ちになって、カールの右の上腕に噛みついた。鋭い牙の先端がほんの少しだけ突き刺さり、血を吸い出す。


「ふむ。痛くないですな」

「ちょっとした魔法で痛みを消してるんだ。別にそんなことしなくても、大して痛いわけじゃないけど」


 吸血は数十秒で終わった。ヴィルヘルミナはカールの傷口を魔法で塞ぎ、何の痕も残さなかった。


「体調はどうかな? 目眩がしたりしないかい?」

「いいえ。不調は全くありませんな」

「加減を間違えていないようでよかった。次は誰かな」


 そういうわけで、ヴィルヘルミナは健康な村人全員から少しずつ血をもらい、腹を満たした。


「――とは言え、何も対策をしなければ、あの連中が戻ってくるかもしれない」

「左様ですな……」


 ヴィルヘルミナがいなくなれば、ヘルムートらが再びヴレデック村を襲うことは間違いない。


「仕方ないから、私が暫くここに残ることにするよ」

「それは……本当によいのですかな?」

「ああ。安心して寝られる場所を引き続き提供してくれるなら、喜んで。まあ昨日借りた洞窟をそのまま使わせてくれればいいんだけど」

「痛み入ります……。どうか、お願いします」


 カールは深々と頭を下げた。人間にそんな風に頼まれることなど久しぶりで、ヴィルヘルミナは少々面食らってしまった。


「よしてくれ。そろそろ日が昇るから、私は寝るよ。お休み」

「え、ああ、左様ですな。ごゆっくりとお休みくだされ」

「そんなに畏まらないで欲しいんだけど」


 ヴィルヘルミナはむず痒さを覚えながら、昨日と同じ近くの洞窟に入った。吸血鬼は昼に寝て夜に活動するものである。


 彼女が寝ているうちに朝と昼が終わり、太陽は地平線の向こうに沈み、再び夜がやって来た。


「近くに吸血鬼がいる気配はない。私を警戒してるんだろうね」

「それはよかった……」

「ただ、人間が大勢近寄ってきている気配はするけどね」

「なんですと? ようやく救援でもやって来たのですかな」

「さあ。どうだろうね」


 間もなく、村の見張り台から伝令がやって来た。

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