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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第三章 南方から来る敵

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堅牢な要塞

 ポスナニア公の最初の攻撃は散々な目に遭って失敗に終わった。一方で、ポメレニア辺境伯とヴィアドルス宮中伯は山頂に陣取り、その様子を悠々と眺めていた。


「さ、さすがだな、辺境伯! これほどの数の差がありながら、まるで一方的な戦いではないか!」

「お褒めいただき光栄です、宮中伯殿下。しかし、まだ前哨戦に過ぎません。相手の騎士などはまだ全く動いていないのですから」

「ま、まあ、そうだな。敵は騎士だけで二千はいよう。従騎士を合わせれば四千……。それだけで我らの全軍と同数だな……」


 やはり騎士こそ戦場の花形、騎兵こそが主力部隊だと、一般的には考えられている。宮中伯も当然そうである。そんな精鋭部隊だけで、こちらの全軍と同じ数がいるのだ。勝利に疑念を持つのは仕方がない。


「そんな数で勝てるのかい?」


 と、ヴィルヘルミナが問いかけた。


 今は昼間だが、ヴィルヘルミナは全身を真っ黒な外套で覆い隠し、頭には荷馬車の車輪のような広いつばの帽子を被って、直射日光を完全に遮断している。吸血鬼は意外にも、これだけで昼間にも活動することができる。もっとも、服を破られるだけで致命傷なので、非常に危険ではあるのだが。


「当然ながら、騎兵というのは城攻めに向いていません」

「そうだね。でも今は野戦をしていると思うんだけど」

「それは間違いです。宮中伯殿下にご協力いただき、この山の陣地は非常に堅牢です。城と言っても過言ではありません。それを見極められないのであれば、敵には敗北があるのみです」


 そう言っている矢先、ポスナニア公らが動き出した。


「お、おい、敵が来るぞ、辺境伯!」

「敵の数はざっと二千といったところだね。全て騎兵だ」

「やはり騎乗突撃で陣地を突破するつもりのようですね。愚かなことです。全軍、守りを固めよ!」


 敵軍の重装騎兵二千が、山の麓から突撃を開始した。馬が地面を踏み鳴らし、地鳴りが起こっているようにすら感じられる。


 しかし、その威圧も長くは続かなかった。矢の射界を確保するために木を切り倒しているが、切り株は残しているので、まずそれが障害物となり、突撃を始めて早々、彼らの足並みは乱れていた。


「弓兵、放て! 敵を打ち倒せ!」


 山上に悠々と構える一千と少しの弓兵が、連弩による射撃を開始する。落下によって勢いを増した数千の矢が飛来し、重装騎兵の鎧と言えども、角度次第では貫通されてしまう。


「このまま矢だけで追い払えたらいいものですが」

「そ、それは無理そうだぞ! そう簡単に鎧を射抜けはせぬ!」

「予想の範囲内です。すぐさま騎士に迎え撃たせます」


 最前線の堀と柵の後ろには下馬騎士が斧や槍を構えて控えている。優勢になっても追撃する余裕はないだろうとの判断から、馬は遠くに置いてきている。全員が下馬騎士だ。


 弓兵によって撃ち倒され、足並みが乱れているところ、目の前には堀と柵があり、押し通ることは不可能である。ランスによる突撃を封じられたと見るや、敵軍はすぐにランスを捨て、斧や剣による白兵戦に移った。冷静な対応である。


 だが、騎兵本来の能力はまるで発揮されていない。突撃ができなければ、ただ馬に乗っている歩兵と何ら変わらないのだ。辺境伯と宮中伯軍の下馬騎士が中核となり、多数の農兵が柵の後ろから槍衾やりぶすまを作って迎え撃つと、さすがに歯が立たなかった。


「敵勢、撤退していくようです!」

「よろしい。弓兵は敵を背後から撃て。その他の兵は追撃の必要はない」


 かくして、ポスナニア公の最初の突撃は散々な失敗に終わった。辺境伯軍はほとんど損害を出さなかったが、敵側の死者は四百ほど。騎士だけでそれほどの損害を出したのであれば、大損害というべきであろう。


「さすが、やるね。ここまで圧倒的に勝てるなんて」

「敵が攻め込んできてくれなければ、こうはなりません。敵が統制の取れている軍隊であれば、ここに閉じ込められて手も足も出なくなるところでしたから」

「賭けに勝った、というところかな?」

「確かに賭けではありました。とは言え、敵が誰なのかを見れば、こうなる公算が高いことは予想がつきましたが」

「た、確かに、敵の諸侯の中では、ポスナニア公の力が圧倒的というわけではない。力を示さなければ統制が取れない、ということか……。いやはや、卿の采配には感服するしかないな」

「過分なお言葉です。そして、一度始めてしまった以上、もはや諦めることはできなくなりました。敵は我々を打ち破るまで何度でも攻撃を仕掛けてくるでしょう」


 ここで諦めるようでは、ポスナニア公は諸侯からの求心力を失うだろう。調子に乗って戦いを仕掛けた時点で、公爵は辺境伯の罠に嵌っているのだ。


「ほ、本当に大丈夫か? 敵がもっと本気を出して突っ込んでくるかもしれんぞ?」

「問題ありません。最初の攻撃があのように悲惨な結果に終わったからには、敵の士気は落ちていることでしょう」

「そ、そういうものか」

「敵勢、動き出しました! 再び騎乗突撃を試みている様子!」


 敵の戦力はまだまだ豊富だ。今度は三千の騎兵を並べ、一気に辺境伯軍の陣地を突破するつもりのようである。

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