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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第三章 南方から来る敵

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会戦前夜

「――というわけですが、ヴィルヘルミナ殿は如何されますか?」


 ポメレニア辺境伯はヴィルヘルミナに、ポスナニア公らが攻め込んでくるらしいと伝えた。


「暇だし、面白そうだからついて行くよ。敵に吸血鬼でもいない限り手伝いはしないけど」

「ヴェロニカのことは無償で面倒を見てくださっているのに、ですか?」

「それは私がやりたいからだよ。私が特にやりたくないことを私にさせたいなら、それ相応の対価を払ってもらわないと」

「対価次第では戦争に協力してくださると? ヴィルヘルミナ殿が味方になってくださるのなら、これ以上に心強いことはありませんが」

「十分な対価をもらえればね」

「例えば、どのような対価をお望みなのですか?」


 ヴィルヘルミナが人間同士の戦争に加担することはないと思っていただけに、条件次第では動くかもしれないと言われ、辺境伯は食いついた。


「そうだね。君が一生で一度しか払えないような対価を望むよ。例えば君のところの初代アドルフの剣とかね」

「なるほど。それは確かに譲り難い」


 勇者こと初代アドルフの剣は、ポメレニア辺境伯家の象徴である。単なる折れて錆びた剣ではあるが、とても他人に譲れるものではない。


「どうだい? そこまで誠意を見せてくれるのなら、手伝うのも吝かではないよ?」

「その契約は、いずれ本当に必要になった時に取っておきます」

「そう。私の力なしで三倍以上の兵力差を野戦で覆せると?」

「無論です。もっとも、ヴィルヘルミナ殿が味方してくだされば、犠牲が少なく済むとは思うのですが」

「……」


 この戦い、どんな展開になろうと最終的には敵の士気を挫き、敗走させることになるだろう。不死身の化け物が辺境伯軍にいるとなれば、それは大いに早まる。両軍ともに犠牲が抑えられるのは間違いない。


 ――いや、戦争してる時点で、人は死ぬんだ。人数の問題じゃない。


「そんなこと言って、私が味方するとは思わないでもらいたいね」

「随分と悩まれていたようでしたが」

「結論は変わらない」

「左様ですか。では、ひとまずヴィルヘルミナ殿にやっていただきたいことはありません。引き続き、ヴェロニカのことをよろしくお願いします」

「頑張ってはみるけど、正直言って望み薄だよ」

「それでも、よろしくお願いします」


 辺境伯アドルフの言葉は切実だった。この件については、彼の軍略は全くもって役に立たない。ヴィルヘルミナにただ縋るしかないのである。


 ○


 結局のところ何の進展もなく、三十日近くが過ぎた。


 ヴィアドルス宮中伯とポメレニア辺境伯は動員を完了し、およそ三千五百の兵を揃えて、辺境伯領南部の国境へ向けて行軍している。辺境伯軍には、最初にヴィルヘルミナと遭遇した貴族であるブロベルク伯ハインリヒも加わっていた。


「殿下、やはり籠城した方がよいのではありませんか……? 我がブロベルクはいつでも籠城の用意を整えております」

「籠城せざるを得ないのであればそうするが、野戦で撃退できるのならその方がよい。卿に預けている領民も領地も傷つかずに済む」

「それはそうですが……それで負けては元も子もないかと……」

「卿は私が負けると思っているのか?」

「その、いくら殿下であっても、これほどの兵力差を野戦で覆すのは困難では?」

「心配には及ばぬ。無用な心配はせずついてくるとよい」

「はっ……」


 やはりと言うべきか、ポメレニア辺境伯の武名をもってしても、兵らの不安は消えないようであった。


「ところで、あの吸血鬼ヴィルヘルミナはどこにいるのですか?」

「ヴィルヘルミナ殿なら、荷馬車の中で棺桶に入っている。日光を浴びるわけにはいかぬからな」

「連れてくる意味があるのですか? どうせ日中では役に立たないのに」

「ヴィルヘルミナ殿は元より戦いに加わるつもりはない。連れてくる意味は……せっかくの戦争を楽しんでもらおう、というところだ」

「はぁ」


 さて、辺境伯と宮中伯の連合軍はブロベルク付近に到着した。そこから数村ほど南に行ったところ、街道から少し離れた小さな山の頂に、両軍は陣を敷いた。


「こ、こんなところに陣取って、意味があるのか……? 敵に無視されるだけではないのか?」


 宮中伯は辺境伯に尋ねた。


「本来ならそうするべきでしょう。適当に包囲の兵を残して進軍すれば、敵は我が領内を好き勝手に暴れ回ることができます。しかし、今回の敵にそれは難しいでしょう」

「ど、どうしてだ?」

「敵は烏合の衆です。我々のような小勢を目の前にして消極的な策を取っていては、ポスナニア公の威信に関わります。敵は必ず、我らを攻めてきます。そこを、この山の上から迎え撃つのです」

「なるほど……。だが、山の上というだけで、本当に勝てるのか?」

「まだ時間は少々残っていますので、この山を要塞にします」

「よ、要塞?」

「ええ。下から駆け上がってくる騎兵こそ、我々にとって最大の脅威となります。ですので、馬止めの設備を色々と設けようかと。馬さえ止められれば、どうということはありません」

「卿がそう言うのなら、正しいのだろうな……」


 敵が到着するまで、二日ばかり。辺境伯軍と宮中伯軍によって、一つの山が丸々要塞と化した。

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