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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第三章 南方から来る敵

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辺境伯の妹

 一行は首都グダンツに到着した。城の中心にある辺境伯の館、その応接間で、辺境伯アドルフはヴィルヘルミナと一対一の面会を持った。実戦使用されたと思われる傷ついた武具が壁一面に飾られた、軍事で成り上がってきたポメレニア辺境伯家らしい応接間である。


 壁に飾られている武具の中でも、とりわけ丁寧にガラスケースに収められているのは、真ん中から折れて錆び付いた剣であった。ヴィルヘルミナはそれに目を引かれた。


「ねえねえ、あの剣はどういう由来を持っているのかな?」

「あの剣に真っ先に注目されるとは、流石はヴィルヘルミナ殿です。あれは我が家祖アドルフが用い、魔王を討伐した時に使われたと伝わる剣です。魔王討伐の際に折れたと言われています」


 ――やはりそうか。尖っていない剣で刺されるのは痛かったね。


「なるほど。それは家宝にするのも当然だね」

「ええ。当家にとって最も重要な家宝です」


 ポメレニア辺境伯は初代アドルフの魔王討伐の功によって、北方帝領で最大の力を持つ諸侯となった。その象徴は確かに、この家にとってのレガリアのようなものだ。


「さてそろそろ、ヴィルヘルミナ殿にここまで来ていただいた本題をお話しましょう」

「ああ、聞かせてくれ」


 ――ここまで勿体ぶるなんて、一体なんの依頼をされるのやら。


「一言で言えば、ヴィルヘルミナ殿に助けていただきたい者がいるのです」

「助ける?」

「ええ。その者は長らく病に苦しんでおり、どんな医者を呼んでも、治る気配すらありません。エルフの医者も招聘しましたが、何の意味もありませんでした」

「私は医者でもなんでもないよ。私に力になれるとは思えないけど」

「それでも、一度だけ見ていただきたい。どうか、頼み申し上げます」


 辺境伯は深刻そうに頭を下げた。ヴィルヘルミナに縋らざるを得ないほど、打つ手がないらしい。


「別に断るつもりはないよ。で、誰なんだい、それは?」

「私の妹です」

「妹なんていたのかい」

「ええ。十ばかり歳の離れている、腹違いの妹です。とは言え、身内であることに違いありません」

「そう。ここにいるのかい?」

「はい。ご案内します」


 辺境伯アドルフは従者もつけず、自らヴィルヘルミナを案内する。アドルフが向かった先は、辺境伯の居館に隣接する小規模な館であった。とは言っても、常に兵士が見張りについており、物々しい空気がある。


 別館に入り、いくつか扉を抜けると、そこでヴィルヘルミナは違和感を覚えて立ち止まった。


 ――吸血鬼……? それにしては弱い気もするけど。


 ある部屋に足を踏み入れた途端、吸血鬼の気配を感じたのである。その反応を見て、辺境伯は何かを確信したかのように言う。


「やはり、そうなのですね」

「どういうことかな? 私以外にも吸血鬼の傭兵を雇っているのかい?」

「いいえ。すぐ前に、答えはあります」

「ベッドの上にかい?」


 部屋には天蓋に覆われたベッドが一つ。壁には大量の本が入った本棚がいくつか並べられている。簡素ながら居住者の知性を感じさせる部屋だ。


 辺境伯に手招きされるまま、ヴィルヘルミナはそこに近づいた。側に寄るにつれて、吸血鬼の気配が強くなっていった。だが、気配は弱く、すぐ目の前に吸血鬼がいるとは思えない。


「どういうことだ……」

「こちらが、私の妹、ヴェロニカです」


 ベッドを隠す幕を上げると、そこには亜麻色の髪をした少女が苦しげな寝顔を浮かべて横たわっていた。そしてヴィルヘルミナは確信する。彼女こそが、その気配の発生源であると。


 ――可愛い寝顔だ。


「…………彼女からは吸血鬼の気配がする。しかし、どう見ても吸血鬼じゃないし、気配もありえないくらい弱い」

「やはり、そうでしたか」

「どういう状況なんだい?」

「彼女は――恐らくほんのわずかだけ――吸血鬼の血を体内に取り入れてしまったのです。私が戦帰りに持ち帰った武具などに付着していたものが、ほんの小さな傷から入ってしまったのでしょう。それ以来七年もの間、彼女は重い病に苦しみ続けています。病というべきなのかすら、定かではありませんが」


 辺境伯は申し訳なさそうに語った。ヴィルヘルミナでも聞いたことのない話だったが、仮説は立てられる。


「血が少量だったから吸血鬼にはならず、だけど吸血鬼の呪いを体内から追い出すこともできず、ずっと熱病に侵されているような状態になっている、というところか」

「ヴィルヘルミナ殿はこのような事例を見たことがあるのですか?」

「いや、ないよ。だけど、血を与えれば与えるほど、吸血鬼は強くなり人間から離れる。であれば、微量の血で人間と吸血鬼の中間状態になることは予想できる」

「ヴィルヘルミナ殿が仰るのなら、そうなのでしょう」

「で、これを私に治して欲しいって?」

「はい。それが依頼です」

「今言った通り、私はこんな状態の子に会ったことはない。治し方なんて分からないよ」


 ――知ってそうな奴は知ってるけど。


「ヴィルヘルミナ殿の吸血鬼についての知見があれば、せめて糸口だけでも掴めないでしょうか?」

「試してはみるよ。私としても、興味深いケースだ」

「報酬は可能な限り、お望みのままに払います」

「この程度で報酬を取ったりしないよ。私を舐めないでもらいたいものだね」

「左様ですか? では、お願いします。ヴィルヘルミナ殿の部屋を用意させますので、ご自由にお使いください」

「それはどうも」


 こうしてヴィルヘルミナは、辺境伯の妹ヴェロニカの治療を請け負うことになった。

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