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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第三章 南方から来る敵

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ドラゴン討伐作戦

「さて、問題は成体のドラゴンをいかにして討伐するかです。我々の対空兵器は一切役に立たず、当然、個人の魔法攻撃も役に立たないでしょう」


 対空投石器と対空弩砲はドラゴンの鱗に完全に無力化されてしまっている。兵士個人が持つ弩や長弓が通じるはずもない。成体のドラゴンに傷を負わせるのは不可能と言っていい。


「まあそうだね。私が全力で矢を放っても通じないだろう。音速を超えてても、サイズが違いすぎる」

「音速?」

「音の速度が有限なのは知ってるだろう? 吸血鬼の矢は大抵それより速く発射されるんだ」


 音が光より遅れて来ることは、文字が発明される前の原始人ですら知っていたはずだ。


「音の速度を測ったことがあるのですか?」

「およそ1秒につき350メートルだ。まあ吸血鬼なんて常に暇だからね。今度は光の速度を計測したいと思っているんだけど、光はとんでもなく速くてね。計測できる見込みはない」

「なるほど……」

「まあともかく、私が全力を出してもどうしようもないってことさ」

「それは困りましたね。ヴィルヘルミナ殿には他に何か攻撃手段はないのですか? 吸血鬼らしい魔法とか」

「吸血鬼なんて、再生能力がつくのと筋力が少々上がるだけだよ。あとはまあ、血を固めて武器とか作れるけど、攻撃力は普通の人間の武器と大して変わらないよ」


 ちなみに、普段のヴィルヘルミナは人間の魔法で武器を作っており、血で武器を作ることはほとんどない。


「ふむ。吸血鬼と言えばもっと多彩な能力を使うように思われますが」

「個人差だよ。私は再生能力が高いだけで、他は大したことない」

「確かに、心臓まで再生できる能力というのは、他の能力を犠牲にするだけの価値はありますね」

「ははっ」


 互いに面白くなさそうな笑みを浮かべ、暫しの沈黙が両者の間を満たした。


「とにかく、どうしたものかなぁ」

「あの鱗を貫通してダメージを与えることは諦めた方がよいでしょう。なれば、考え得る選択肢としては、毒を使うか、柔らかい場所を狙うかしかありませんね」


 ドラゴンを殺す手段を練っている辺境伯は、どこか楽しそうに見えた。


「毒なんて通じそうにない。あんな巨体を殺すのに一体どれだけの毒を用意すればいいんだい?」

「そうですね。そもそも幼体のドラゴンに効く毒があるかすら分かっていないのですから」

「じゃあ柔らかい場所を狙うのかい?」

「ドラゴンの鱗は頭から尻尾の先まで隙間なく覆っています。正確には全く隙間がないとは言いませんが、そこを突くことができたとて、致命傷には程遠いでしょう」

「じゃあ詰んでるじゃないか」

「ええ。ですからヴィルヘルミナ殿に頼ろうと思ったのですが、どうやらそれも無理そうです」

「凄い馬鹿にされてる気がするんだけど」

「まさか。ヴィルヘルミナ殿には、何か策がおありですか?」

「そうだねぇ……」


 ――毒なんてのはどうやっても効かないだろうから、柔らかいところを狙うってことになりそうだ。柔らかい場所で、致命傷を与えられそうなところ……


 関節を狙っても、致命傷を与えるのは難しいだろう。目は頑丈な瞼で守られているし、必ずしも致命傷になるとは限らない。


 と、ヴィルヘルミナは一つ閃いた。


「そうだ。口の中を狙えばいいじゃないか。ドラゴンの舌を吹き飛ばしてやろう」

「口の中、ですか。なるほど。確かに、上手くいけば致命傷を与えられるかもしれません。そうでなくとも、エルフがドラゴンを制御できなくなれば十分です」

「うん。まあ、都合よくこっちに向かって口を開けてくれないと無理だけど」

「その時は、こちらに向かって火を噴いてくる時ですね。真正面にいたらただでは済まないでしょう」

「私なら死なないけど」

「我々の対空兵装はドラゴンの吐息に耐えられません。困りましたね」

「うーん。困ったねぇ」

「無理強いはしたくありませんが、ヴィルヘルミナ殿の弓でドラゴンの口の中を攻撃していただくのは可能ですか?」

「ドラゴンの火なんて喰らったら、弓が燃え尽きちゃうよ」

「左様ですか。であれば……剣か槍でドラゴンの口の中を攻撃していただく他にありませんね」

「正気かい?」

「ええ。ドラゴンの口の目の前で槍を作り出し、その舌に突き刺すことができれば、勝機はあります」


 魔法で槍を生み出してドラゴンの炎に焼かれる前にドラゴンを殺せというのが、ポメレニア辺境伯の提案であった。


「無理があると思うんだけどねえ」

「無理は承知の上ですが、そうでもしなければ、あれは倒せません。どうかご協力をお願いします」

「まあ、私は何があっても死なないし、君の策に乗るとするよ」

「ありがとうございます」


 辺境伯は深々と頭を下げた。ヴィルヘルミナが辺境伯に従わなければならない理由はないので、辺境伯としてはただお願いすることしかできないのだ。


「ドラゴンが来なければ嬉しいんだけど」

「それはいけません。ドラゴンは討伐しなければならないのです」

「どうしてかな?」

「あれが存在する限り、我が軍の行動は大幅に制限されてしまいます。あれは必ず打ち倒さなければならないのです」


 ――侵略戦争に加担することになる、か。いや、そんなことは今は関係ない。


 果たして、成体のドラゴンを討伐した後、辺境伯が何をしでかすのか。ヴィルヘルミナはあえて考えないことにした。

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