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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第三章 南方から来る敵

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本当の悪

 トワングステの戦いはポメレニア辺境伯の勝利に終わったが、北方戦争そのものが終わったわけではない。諸種族連合軍の四万を超える戦力は依然として健在であり、辺境伯は東の国境に兵を置き続けざるを得ない。


 とは言え、ひとまずの戦闘状態は終息した。ポメレニア辺境伯アドルフは自身の執務室で、吸血鬼ヴィルヘルミナと一対一で会談していた。


「ヴィルヘルミナ殿に吸血鬼にしていただき、命を永らえた八名は、それぞれ家に帰すことにしました。よろしいですね?」

「ああ。極度の飢餓状態にならない限り、人を襲うことはないだろう。少なくとも数年は、特に問題なく過ごせるどころか、村人も喜んで血を分けてくれるだろうね」


 吸血鬼の怪力は貴重だ。農民としても非常に役に立つだろう。村に一人でもいれば大活躍だ。血を集めることに苦労することもないだろう。


「少なくとも数年は、ですか」

「陽の光に当たることができないのはいいとしても、生きている時間が違うのは、時間が経つにつれてはっきりしてくる。いずれ分かることだよ」

「それでも、本来なら家に帰ることのできなかった命なのです。私としては、悪いことだとは思いませんが」

「その時になれば分かることだよ」


 ――人間が思っているより、吸血鬼と人間はうまくやっていけないものなんだよ。


 ヴィルヘルミナはそれ以上のことは言わなかった。少なくとも数年は上手くやっていける公算が高いのは事実。その短い期間くらいは幸せに暮らさせてやろうと思ったまでである。


「時に、敵方の吸血鬼はこの戦争から手を引いたようですが、ヴィルヘルミナ殿はどうされるのですか?」

「そうだね。吸血鬼がいないんなら、私が関わる理由はないかな」

「やはり、左様ですか」

「でも、少し気になることはあってね」

「と言うと?」

「成体のドラゴンだよ。あいつらはエルフだろうとなんだろうと、人型種族には懐かないはずだ。それを戦争に利用しているっていうのは、ロクでもないことをしている気がするね」


 ヴィルヘルミナの長い人生でも、成体のドラゴンを軍事利用している例は見たことがない。ヴィルヘルミナが嫌うような手段が取られていると直感していた。


「では、ドラゴン討伐に協力してくださると?」

「ああ、そのつもりだよ。もちろん、それ以外の相手に手を出すつもりはない」

「問題ありません。あの巨大なドラゴンさえ倒せれば、真っ当に戦争ができますから」


 辺境伯にとってあのドラゴンは余程不快だったのか、ヴィルヘルミナが協力を申し出ると、表情に喜びが滲み出ていた。ヴィルヘルミナはそれを見逃さない。


「ただし、条件がある」

「――聞きましょう」

「今から聞くことに正直に答えてくれたら、協力してあげるよ」

「ふむ。国家機密などを聞かれては困りますが、どうぞ」

「この戦争、一体誰が始めたのかな?」

「私ですが、それが何か?」


 ――最初に会った時はそう言わなかったクセに……白々しい。


「君が東のエルフ居住地に攻め込んだのがそもそもの始まりってことでいいのかな?」

「ええ。しかし、この辺りはあくまで雑居地で、誰の領地でもありません。であれば、私が手に入れたところで何の問題もないでしょう」

「住んでいた人がいるだろう」

「私は決して、異種族だからといって迫害するつもりはありません。しかし彼らは私の支配下に入ることを拒み、抵抗してきた。それがこの戦争の始まりです」


 この北方戦争は、ポメレニア辺境伯が東方に領土を拡大するべく攻め込んだのがきっかけであった。トワングステも辺境伯の領地ではない。諸種族連合軍は本来の土地を奪還するべく戦っているだけなのだ。


 要するに、辺境伯は単なる侵略者なのである。敵は正当防衛をしているだけだ。


「誰だって知らない奴に支配されるのは嫌だろう」

「自分で言うものではありませんが、我が軍は非常に精強であり、我が支配下に入れば安全が保証されます。経済的にも遥かに豊かに暮らすことができるでしょう」


 ――どうやら話が通じないな。


「そういう問題じゃないんだけど、まあいいや。私はたとえ正義の戦争だったとしても、邪法を使う連中の敵だからね」

「ありがたいことです」

「だけど、一つだけ聞きたい。君はどうして侵略戦争なんてしてるんだ? 君の先祖の家訓に反してると思うけどね」

「知っての通り、当家は度々帝国の各地に出向き、吸血鬼などと戦ってきました。もちろん依頼料はもらっていますが、それだけではどうしても立ち行かない。功績を挙げた家臣には土地を与えなければなりませんが、帝国領内でそう簡単に土地を増やすことはできません」


 北方帝領内の諸侯を侵略するには、それ相応の大義名分を用意して皇帝を言いくるめなければならない。だが幸運なことに、ポメレニア辺境伯領は帝国領外に面していた。


「土地が欲しくて東に進出してると」

「端的に言えばその通りです。家臣を十分に養うには、家祖アドルフ1世が賜った土地だけでは足りないのです」

「なるほどね」

「満足いく回答でしたか?」

「ああ。ドラゴン退治までなら協力してあげよう」


 ――そう、侵略とか防衛とか、そんなのは関係ないんだ。

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