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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~【改稿版】  作者: Takahiro
第一章 ポメレニア辺境伯領 1252年

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当代の辺境伯

「敵勢、高射砲塔まで距離三キロを切りました」

「よし。高射投石器、撃ち方始め」


 高射砲塔の中心である太い塔には、二門の投石器が載っている。数階建ての建物に匹敵する高さを持つ大型の投石器だ。投げ飛ばすのは石ではなく、火薬を詰めた砲弾である。


 発射された砲弾は、敵のドラゴンのすぐ近くに達すると自動的に爆発する。魔力に反応して起爆するよう設定した近接信管を仕込んでいるのだ。空中で次々と大爆発が起こるが、敵に与えられる被害はそれほど大きくない。


「四体を撃墜。五体が撤退しています」

「敵、一キロまで接近!」

「続いて対空弩砲、撃ち方始め」


 高射砲塔の四隅に備え付けられているのは、連装対空弩砲と呼ばれるものである。対空弩砲とは、魔法で弦を引くことで矢を次々と連射できるようにした兵器である。およそ二秒に一本、槍のような矢を放つ。その矢は鋼鉄でできており、ドラゴンの鱗も貫くことができる。


 その弩砲を二つ束ねた連装対空弩砲が、それぞれの高射砲塔の四隅に設置されているのだ。


 たちまち、雨あられのように鋼鉄の矢が襲いかかる。矢はドラゴンの表皮に次々と突き刺さり、それらは苦しそうにうめき声を上げた。


 だが、敵も黙って落とされるわけではなく、ドラゴンの口から火球が放たれ、高射砲塔を攻撃する。ある砲塔では運悪く炸裂弾の火薬に引火し、大爆発を起こして兵士や兵器が地面に叩き落とされた。


「敵、残り十体を切りました」

「よろしい。間もなく撤退を始めるだろう」

「敵が反転していきます」

「これ以上の交戦には耐えられまい」


 若干の被害は出たが、全体的には余裕がある。ドラゴン九体を殺すことに成功し、戦いは幕を閉じた。


 ○


 日が落ちると、ヴィルヘルミナは監視の騎士に取り囲まれながらトワングステに入城した。既に話は通っているので、辺境伯はすぐに彼女との面会に応じた。前線基地ということで応接間などはなく、辺境伯の質素な執務室で対面することになる。


 ポメレニア辺境伯アドルフは、机を挟むように並べられたソファに座って待ち構えていた。


「やあ、こんばんは。君が辺境伯殿下かな?」

「貴様、殿下に失礼だぞ!」

「よい。吸血鬼ヴィルヘルミナ殿、まずはお座りください。ゆっくりとお話しましょう」

「それはどうも」


 ヴィルヘルミナは全く遠慮することなく、辺境伯の対面のソファに深く腰を掛けた。


「しかし、君は美しい瞳をしているね。君の先祖にそっくりだ」

「私の数代前の当主がヴィルヘルミナ殿とお会いしたようですね。記録には残っていますが、いざ言われると不思議な感覚です。あなたと私では、生きている時間がまるで違う」

「当然じゃないか」


 ――まあ、君の家祖にも会ったことがあるんだけどね。


「そんなことより、私がここに来た目的は知らされているだろう?」

「もちろんです。吸血鬼がここで確認されていることについて、でしたね。まず前提として、吸血鬼を使っているのは我々の敵の方です。最初に確認されたのは二年と八ヶ月前。その後、一年と十ヶ月前、そして九ヶ月前に確認しましたが、それ以降は確認されていません」


 ――よく何も見ずにスラスラと言えるものだ。


「最後に確認されたのは九ヶ月前だと」

「ええ。しかし、いつ現れてもおかしくはありませんね」

「そうだね。じゃあ、吸血鬼が出るまで、私はこの辺で好きに過ごしているよ。迷惑を掛けるつもりはないから、城壁の外でね」


 話は終わりだと言わんばかりにヴィルヘルミナは立ち上がる。あまりにも急なことに、辺境伯は初めて表情を変えた。


「お待ちください、ヴィルヘルミナ殿。何をそう急いでおられるのですか」

「だって、吸血鬼が出ないんだったら、私は何もしないよ」

「私達を手助けしてくださるつもりはないと?」

「どうして私が君達の戦争に手を貸さないといけないのかな? 私は吸血鬼を戦争に使うバカの正体を確かめて殺しに来ただけだ」

「あなたが嫌うのは、それだけではないはずです。あなたが嫌う対象はそれより広く、魔法の濫用も嫌っている。そうですね?」

「……どうしてそんなことが言えるのかな?」


 図星であった。そしてそんな情報がどこから漏れているのか、彼女は気になった。


「先程申し上げたように、当家にはかつての当主があなたと関わったことが記録されています。あなたは二百年ほど前、パルティアで使われていた死体を操る魔法を、当時の当主と共に殲滅しました」

「そんなことをわざわざ記録しているとは、驚いたよ」


 ――まったく、そんな個人の趣味まで記録するなんて実に趣味が悪い。


「将来的に仲良くお付き合いできるように、あなたのような不死者に関する情報は数多く残っています」

「あっそう。まあ、それは事実だ。しかし、君が言ったように、私は魔法をろくでもない方法で使う連中が嫌いなだけだ。敵がそういうことをしてこなければ、私が手を貸すことはないよ」

「ええ。それで構いません。我々の戦いを観戦していただければよいかと」

「……分かった。手を貸すつもりはないけど、君と一緒にいてあげるよ」

「ありがとうございます」


 釈然としない気持ちを抱えながら、ヴィルヘルミナはポメレニア辺境伯の提案を受諾した。


「そうそう。現在の戦況をご説明しておきましょう。この城塞都市トワングステは現在、エルフ・ドワーフ・人間の諸部族連合軍に、西以外の三方から囲まれています。敵の総数はおよそ四万三千。我が軍は総勢一万二千です。トワングステでの戦いが始まってから十ヶ月が経過しています」

「随分と大変な状況じゃないか」

「攻城戦は守り手側に圧倒的に有利です。下手な手を打たずに立て籠もっていれば、負けることはありません」

「それで敵の物資が尽きるまで待つのかな?」

「それはあまり期待できません。敵はドラゴンや怪鳥を飼い慣らし、本国から滞りなく消耗品を送り続けています」

「それじゃ勝ち目がないじゃないか」


 敵の物資が尽きるまで耐えるのが籠城戦の基本なのだが、それは期待できないようだ。


「勝ち目がないのは敵も同じです。これはどちらの士気が先に尽きるか、根比べなのですよ」


 ――最高司令官は戦いを楽しめるくらいの方がいいのか。


 ヴィルヘルミナはアドルフの頬が緩むのを見逃さなかった。

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