第8話 兵器に無事はねーよ
第8話 兵器に無事はねーよ
帝国第8機動部隊、会議室。
戦闘ログが無音で再生されている。
接続値20%。
精神安定率、異常。
残響反応、極小。
隊長は腕を組んだまま言った。
「……あれは部隊では扱えん」
副官が視線を落とす。
「戦果は優秀です」
「分かっている」
隊長は目を閉じる。
「だからこそだ」
第8は残響を知っている。
5%でも、撃墜の瞬間は届く。
10%なら、夜に残る。
それでも立てるのが兵士だ。
だが、あの二人は違う。
届いていないのではない。
影響がない。
それが気味が悪い。
「除隊処理を申請する」
「理由は?」
「再編成」
短い決断だった。
⸻
格納庫。
ルクは機体の脚部装甲を見上げている。
レイは整備ログを閉じる。
隊長が歩み寄る。
「本日付で第8を離れる」
ルクが振り向く。
「左遷か?」
軽い。
挑発ではない。
「違う」
隊長は真っ直ぐ見る。
「この部隊では手に余る」
レイの視線がわずかに揺れる。
「戦力として不足はない」
「それも分かっている」
隊長は一瞬だけ言葉を探す。
「だが、お前たちはこの隊では測れん」
肯定でも否定でもない。
ただ、距離。
ルクは肩をすくめる。
「じゃあ、どこよ」
その時。
格納庫奥の扉が開く。
眼鏡の男。
アインス・クラウス。
「こちらで預かります」
穏やかな声。
場の空気がわずかに冷える。
「特別開発部だ」
隊長が低く告げる。
アインスは微笑む。
「次段階へ進みましょう」
ルクは男を見る。
「何か作るのか?」
「君たちにふさわしい器を」
レイは淡々と言う。
「ガンズでは遅い」
アインスの瞳がわずかに光る。
「理解が早い」
隊長は一歩下がる。
「……無事でいろ」
兵士に向ける声だった。
ルクは軽く笑う。
「兵器に無事はねぇよ」
輸送ハッチが閉じる。
第8のざわめきが遠ざかる。
彼らは戦力を失ったのではない。
何か別のものを、切り離した。
⸻
地下搬入口。
軍区画よりさらに下。
消毒薬と金属の匂い。
「GRASP特別開発部・地下試験棟」
アインスが告げる。
巨大な格納庫。
中央に立つ一機。
装甲を削ぎ落とした細いフレーム。
露出した神経導管。
GRASP-X01 試験機。
「量産型の延長ではない」
アインスの声は柔らかい。
「残響直結機構――NDCを限定解放している」
レイが問う。
「直結?」
「撃墜時の残響をフィルタリングしない」
「そのまま拾う」
ルクが笑う。
「おもしろそうだ」
アインスは続ける。
「今回は、同時接続だ」
研究員がざわめく。
「一機に、二名?」
「問題ない」
アインスは即答する。
「彼らなら」
⸻
拡張型コックピット。
二つの接続座。
背部端子が二系統。
ルクとレイは迷わず座る。
固定。
神経端子が脊椎に接続される。
表示点灯。
――接続開始。
10%。
機体が応答する。
20%。
量産機より軽い。
30%。
二人の脳波が並列表示される。
波形は異なる。
だが干渉がない。
研究員が息を呑む。
40%。
残響直結、解放。
断片が流れ込む。
過去の試験ログ。
失敗例。
精神崩壊。
ルク。
「薄い」
レイ。
「ノイズだ」
50%。
出力上昇。
機体が滑る。
60%。
残響が濃くなる。
複数の死が重なる。
研究員の顔色が変わる。
70%。
機体が震える。
二人の接続値は同期している。
片方が上げれば、もう片方も上がる。
意図せず。
80%。
瞬間。
残響が爆ぜる。
恐怖。
怒号。
後悔。
断絶。
濁流のように押し寄せる。
警告表示が赤く点滅。
接続値、90%。
ルクが笑う。
「悪くねえなあ」
レイは静か。
「問題ない」
波形は安定。
崩れていない。
だが。
機体側が耐えきれない。
神経導管が焼ける。
フレームが悲鳴を上げる。
安全装置、自動作動。
――強制遮断。
衝撃。
機体が沈黙する。
格納庫に静寂。
煙が薄く立つ。
ハッチが開く。
ルクが立ち上がる。
呼吸は乱れていない。
レイも同じ。
「壊れたのは機体か」
レイは淡々と。
「人間用の制御だ」
研究員は言葉を失う。
80%を越えても崩れない。
壊れたのは、機体の方。
アインスが眼鏡を押し上げる。
「素晴らしい」
その声は抑えられているが、確実に弾んでいた。
「次は、耐えられる器を用意しよう」
地下試験棟の照明が白く二人を照らす。
同時に接続し、
同時に限界を踏み越え、
同時に戻ってきた。
兵器。
そう呼ぶには、
あまりにも整いすぎていた。




