第72話 君が選ぶその時まで
帝国中央軍統合会議室。
巨大な円卓。
軍務総監。
情報局長。
兵站局代表。
研究開発局。
そして。
アインス・クラウス。
静かな光の下、会議が始まる。
情報局長が報告する。
「共和国新型REVの追加情報を入手」
壁面モニターに波形が映る。
二本の精神曲線。
重なり、同位相で揺れている。
「最大接続値、60%」
室内がざわつく。
「単独ではありません」
グラフが拡大される。
「共有接続」
軍務総監が低く問う。
「分散とは違うのか」
「違います」
「分散は負荷を分ける」
「共有は負荷を“重ねる”」
次のデータが表示される。
理論受容量:70%。
実効受容量:80%超。
沈黙。
兵站局代表が呟く。
「理論値を超えている」
情報局長が頷く。
「精神容量の拡張が確認されています」
「二名による共鳴が、器そのものを広げている」
軍務総監が言う。
「危険だ」
「60%で安定しているなら、100%到達の可能性もある」
その言葉に、アインスが僅かに微笑む。
「可能性は否定できませんね」
視線が向く。
総監が問う。
「見解は」
アインスは穏やかに答える。
「思想が違う」
「我々は単独突破を前提とする」
「彼らは共有で到達を目指している」
一拍。
「方向は違うが、見ている頂は同じでしょう」
“100%”。
誰も口には出さない。
だが会議室の空気が重くなる。
総監が結論を下す。
「共有は脅威だ」
「だが現時点では安定運用は60%」
「過度な反応は不要」
「研究は進めよ。ただし均衡は崩すな」
静かに。
帝国は“維持”を選ぶ。
会議終了。
椅子が引かれ、代表たちが去る。
最後に残るのは、アインス一人。
モニターにはまだ、60%共有波形。
二本の線が、綺麗に重なっている。
アインスは立ち上がらない。
端末を操作する。
別の画面。
GRASP-Ω《アストラム》
上限設定:65%
Ωシステム:LOCK
その表示は、会議資料には存在しない。
彼だけの画面。
彼だけの設計。
指が、LOCK表示に触れる。
解除はしない。
ただ見つめる。
「共有、か」
「悪くない到達点だ」
目が細くなる。
「だが……」
小さく、囁く。
「君が“選ぶ”その時まで」
「私は待つよ、ルク・セルド」
画面のLOCKが静かに光る。
帝国は均衡を守ろうとする。
だが一人の研究者だけが。
戦争とは別の頂を見ていた。




