第5話 大丈夫、受け止めるから
ルミナリア共和国。
王都。
白い回廊を歩くフィーネリア・ルミナリアは、
豪奢なドレスを纏ってはいなかった。
深い蒼の共和国軍士官服。
胸元には王家の紋章。
装飾は最小限、実用を優先した仕立て。
王女でありながら、軍人の姿。
背後で囁き声が落ちる。
「鮮血の王女様よ……」
「野蛮……」
「怖いわ……」
足は止まらない。
侍女が小さく言う。
「姫様、お気になさらぬよう……」
フィーナは柔らかく笑った。
「言わせておけばいいよ」
窓から差す光を見上げる。
「事実だしね」
白百合。
帝国はそう呼ぶ。
白いREVに乗るから。
王都では、別の名で囁かれているけれど。
その白が何度血を浴びたかも、彼女は知っている。
それでも逃げない。
それが自分の役目だから。
⸻
出撃命令。
格納庫へ向かう。
軍帽を外し、軍服を脱ぐ。
代わりに差し出されたのは、純白のコネクションスーツ。
神経接続用の極薄繊維が織り込まれた戦闘装束。
冷たい布地が肌に触れる。
王女の外装が、一枚ずつ剥がれていく。
鏡に映るのは、ただの接続者。
白いスーツが身体に密着する。
呼吸が静まる。
「……行ってきます」
小さく呟く。
顔はそのまま、世界に晒される。
残響も、痛みも、隠さない。
逃げない。
接続開始。
⸻
白いREVのコックピット。
静寂。
接続値――20%。
実戦値。
意識が深く沈む。
視界が拡張する。
機体の指先まで感覚が通る。
鼓動が同期する。
発進。
純白の機体が光を受けて立ち上がる。
通信を開く。
「各機、焦らないで。無理はしない」
「了解!」
部下の声は落ち着いている。
それが誇りだった。
⸻
帝国機、視認。
戦闘開始。
GRASPとREVが交錯する。
閃光。
衝撃。
一機のREVが敵を撃墜する。
その瞬間。
残響。
20%。
はっきり聞こえる。
怒り。
恐怖。
断ち切られた未来。
フィーナの呼吸が乱れる。
瞳が揺れる。
「……大丈夫?」
「問題ありません!」
少し強い声。
彼女は前へ出る。
白い機体が滑る。
敵の射線を遮る。
「無理に撃たなくていい。隊形維持」
守る。
撃たせない。
自分が撃つ。
照準。
射撃。
命中。
帝国機、崩壊。
その瞬間。
強い残響が胸を叩く。
苦しい。
辛い。
視界が滲む。
白いスーツの胸元が、わずかに上下する。
重い。
20%。
これ以上は踏み込まない。
だが、接続は切らない。
拒絶しない。
あなたは確かにいた。
それを消さない。
「……っ」
歯を食いしばる。
次へ。
部下機が追い詰められる。
「下がって!」
白が割り込む。
被弾。
衝撃。
フレームが軋む。
それでも姿勢を保つ。
反撃。
撃墜。
また残響。
重い。
確かに重い。
それでも。
立つ。
それが隊長だから。
それが王女だから。
戦闘終了。
帝国機、撤退。
⸻
帰投。
接続解除。
世界が、自分の身体に戻る。
スーツは汗で肌に貼りついている。
ハッチが開く。
外気が触れる。
フィーナはしばらく動かない。
胸の奥に残る感覚。
消えない。
消さない。
整備員が見上げる。
「隊長、ご無事で」
「うん」
ゆっくり立ち上がり、空を見る。
撃ち落とした向こうに、接続者がいた。
自分と同じ。
瞳は揺れている。
それでも逸らさない。
「……大丈夫」
小さく。
「受け止めるから」
白い機体の足元に、少女の影が落ちる。
王女でも、象徴でもない。
ただの接続者。
それでも、人間だ。
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