第45話 レイとフィーネリア
白い部屋。
拘束椅子。
両手首、両足首に固定具。
LNS抑制繊維。
逃げられないが、痛みはない。
レイは目を閉じない。
天井を見ている。
検査は続く。
脳波。
神経伝達。
LNS適合率。
モニターに浮かぶ文字。
DC1st
個体識別:レイ・セルド
接続上限実績:50%
精神波形:非定型
判定:精神構造に欠陥の可能性
欠陥。
研究員の声が聞こえる。
「最近の波形に揺らぎ増加」
「高接続時の遅延」
「自己同一性の不安定化」
別の声。
「だが同化兆候はない」
「これは欠陥ではなく“──”では?」
「兵器に“──”は不要だ」
議論。
冷たい。
観測。
レイは聞いている。
俺は何だ。
兵器か。
人間か。
考えるたび、残響が響く。
撃った声。
撃たれた声。
重なって、うるさい。
――あなたはこの声に何を感じるの
上書きされる。
フィーネリアの声。
守るから。
静かで、揺れていた。
俺はルクと同じだ。
同じはずだ。
遅いはずがない。
揺れるはずがない。
俺は――
「被験体を移送する」
拘束が外れる。
再び抑制具。
歩かされる。
白い廊下。
⸻
LNS技術研究室。
中央に強化ガラス。
向こう側に接続席。
エレジアの主接続席。
白。
その隣。
無理やり接続構造を合わせられた青い席。
オルクスのもの。
異物のように組み込まれている。
「分散接続と高接続の同期観測」
研究員の声。
「二系統LNS共鳴テスト」
対面の部屋が見える。
そこに。
フィーネリア。
拘束はない。
監視はある。
目が合う。
胸の奥が、静かになる。
安心した。
安心した?
なぜだ。
敵だ。
戦った相手だ。
俺は兵器だ。
安心する理由はない。
だが。
確かに、安堵があった。
「被験体、入室」
レイは実験室へ入る。
抑制具が外される。
その代わり、渡されるスーツ。
空色。
白でも青でもない。
中間色。
実験用LNS同期スーツ。
フィーナにも同じ色が渡されている。
白と青を足した色。
どちらでもない。
どちらでもある。
レイは着替える。
布は軽い。
戦闘用ではない。
観測用。
対面の扉が開く。
フィーナが入る。
同じ空色のスーツ。
目が合う。
今度は、刃ではない。
接続席。
「……レイ」
フィーナが言う。
青鬼ではない。
名前。
その音が、胸に落ちる。
レイは一瞬、言葉を探す。
「フィーネリア」
戦場の呼び名ではない。
名前。
ガラス越しに、研究員たちが観測を始める。
二人は向き合う。
空色のスーツ。
白と青の間。
兵器と人間の間。
実験が始まる。




